24ー1 コンシダレーション:ファイナル
第24話(最終話) そらのめぐりのめあて
『天使アルゴ』の攻撃によって、新宿を中心とした半径数キロが灰になった。
これで東京の、日本の復興は大幅に遅れる事となる。
生き残った人々は、ひとまず東京の再復興をあきらめ、近隣の復興村での難民となる道を選んだ。冬が差し迫っているのだ。しょうが無い。
立川と八王子の復興村の村長が、それぞれ新たな都知事を勝手に名乗って、揉めているらしい。もっと他に考えなければならない事もあるだろうに。
旧東京の難民の一部は北へ…埼玉へと逃れ、現地に住んでいた者達と少なからずトラブルを起こし、折場ダン達は対応に追われる事となった。そして埼玉から溢れた者達は、更なる北へ…栃木や群馬、福島を目指した…
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『アルゴ事変』…アドミラルによる宇宙船打ち上げ未遂から『生きたおもちゃ』の全人類抹殺宣言に至る一連の出来事は、皆からそう呼ばれた。
この名前の曖昧さが、皆のこの事件に対する認識の曖昧さを現していた。東日本中のアレッツ乗り達を東京に集結させ、宇宙人への復讐を謳ったかと思えば、全人類を皆殺しにすると宣言して、東京を灰にしたのだ。当時の混乱によって情報が錯綜している上に関係者がほぼ全員死んでしまったため、真相を正確に知る者はほとんどいなかった。
ともあれその悪の首魁は『スーパーノヴァ』をはじめとする7色7機のアレッツによって阻止された、という事になった。
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『生きたおもちゃ』の言葉は、誰にも届かなかった。
彼はロボット兵器が容易に入手出来る世の中が産み出した、狂った大量虐殺者として認識され、皆の意識から葬り去られた。
しょうがない。世の中は他人と交われる『普通の人達』が作っているのだし、何より、どんな理由があるにせよ、あいつのした事が理解されるとも赦されるとも思えない。
『ラフカディオ・コーポレーション』の人工異世界転移サイトも、いつの間にか再び閉鎖されていた。ただ、再開されていたごく短い期間に、世界中で非常にわずかだが、他人と関われない者達が人知れず姿を消したという。
今となっては、自分以外誰もいない世界での彼等の心の平穏を祈るばかりである。
海に向かって放った小瓶の手紙は、彼等に届いた。それだけで良しとしよう。
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『アルゴ事変』は、善良なアレッツ乗りと、善良ならざるアレッツ乗りとを選り分けるふるいとなった。
『スーパーノヴァの演説』を聞いて、大切な人、守るべき人の下へ帰った者達は生き残り、聞き入れず宇宙人への復讐を選んだ者、名声目当てでアドミラルの側についた者はアレッツを失った。
東京から戻った者達は、関東の様子を皆に伝える。『各地で小さな国が出来上がっていた』、と…
これに倣い、白河以北(東北、北海道)でも各地で復興村が集まって国が興るだろう。
東日本から邪悪なアレッツ乗り達は姿を消した。言い換えれば、生き残った善良なアレッツ乗り達の戦う相手は、別の大事な人達を持った別の善良なアレッツ乗りという事になる。
明日の秩序と安定を得るために、各国の自警団員達は、血と涙を流す今日を繰り返す。
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『北斗七星作戦』の7色7機は、『アルゴ事変』を解決した最強のアレッツとして、全てのアレッツ乗り達の間で伝説となった。
しかし、当の本人達が当時の事を語る口は重く、その事がなお、事件を伝説へと押し流す一助となった。
『ビッグ・ディッパー』の赤、舞鶴アカネは上州に、
橙、氷山レオは郡山に、
青、小鳥遊ハジメは宇都宮に、それぞれ健在。
『ジョシュア王国』は沼田盆地を『ヴェーダ公国』に奪われ、後顧の憂いを断つために『ユニバレス連合』と同盟を結んだが、沼田奪還が成った後は…!?あの国には短慮な国王陛下に加えて、国の安寧のためならどんな無茶でも平気で行う女将軍様まで揃っている。
『ユニバレス連合』…『ユニヴァースおよびパレス連合王国』は、『ジョシュア王国』の侵攻に対抗するために2つの村が場当たり的に合併・建国し、そこに多くの村々が参入した緩やかな連邦体制である。しかし喉元すぎれば何とやら。現体制から離れようとする者は必ず出て来よう。自警団は同朋と戦うことになるのだろうか。宮部国王は在任中に何度遺憾の意と辞意を表明するのだろうか。
加えて北関東には、東京からの難民の流入という混乱の種が存在し、増えた人口の口に糊する最も手っ取り早い手段は…説明するまでもないだろう。
郡山は北関東の混乱と東北各地の建国ラッシュの争乱の両方に巻き込まれる危険性がある。自警団員達は、未だその間にしこりの残る住民達を守りきる事が出来るのだろうか。そして、彼等に赦しの日は来るのだろうか…
緑、最上エイジ、黄、久野シノブ…根無し草となった2人はどこへ行くのか…!?
日本はこれから、誰かの元に緩やかに1つにまとまるのか、血で血を洗う戦乱の世に突入するのか、『ビッグ・ディッパー』の7機が次はどこで誰と誰が、轡を並べるのか刃を交えるのか、それは誰にも分からない。ただ、生きてさえいれば、いつかまた、どこかで、あの日の事を思い出として話せる日も来るだろう…
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そして、『ビッグ・ディッパー』の藍、渡会アユムと相川カオリは………




