23ー10 この世で最も醜い存在
『小さくなって、内側から敵機を破壊した…だってぇ!?俺の「天使アルゴ」にそんなの効くわけ無いだろう!?』
『天使』が『アルゴ』を乗っ取った時、『アルゴ』の乗組員達と宇宙人の星への侵攻戦力として乗艦していたアレッツのパイロット達は、船室や通路の天井や床、廊下が変形して押しつぶされて死んだ。『天使アルゴ』の内側に入るという事は、その様な攻撃を受ける危険性があるという事だ。だが…
『コマンド実行不可…!?マテリアル不足…!?コピー「天使」を作りすぎたせい……!?ば、バカな………』
『天使アルゴ』の内部は、アレッツが数機通れる広大な通路が広がっていた。アユム機は広い通路の中を進みながら、
「聞こえたぞ…大体何があったか分かった。見た目だけは立派な軍勢を作ったせいで、中身がスカスカだな…」
『生きたおもちゃ』は顔を真っ赤にして、
『う………うるさぁぁぁい!!』
『天使アルゴ』の周辺を漂っていた無数の触手と、先端のコピー『天使』が、朽ち果てるように消滅して行き、代わりに内部通路の天井や壁から、無数の『天使』の上半身が生えてくる。
「グロいなぁぁぁぁ!!」 ダダダ………
アユム機『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』は、壁や天井のコピー『天使』に『雨刈り』を撃ち込みながら、ホラー映画さながらの通路を突き進んでいく。天井から、壁から、床から、コピー『天使』達の腕の先端が放つビームが降り注いでくるが、それらを巧みにかわし、振り払って進む。
「僕は…背が低くて力も弱い…」
『雨刈り』を乱射しながら、アユムは不意にそんな事を言い出した。
『な、何を言い出すんだ、渡来アユム!?』
「おまけに星とか星座とか、ロボットアニメとか機械いじりとかがすきだったから、みんなからいじめられてた…」
『…酷い話だな…』
「…だから言えるんだ…」
『何を…!?』
広い通路の中を上下左右に避けながら、床や壁や天井のコピー『天使』に荷電粒子の光弾を撃ち込んで行く。周り中、敵。言い換えれば、撃てば斬りつければ敵に当たる。
「…大きな者が小さな者を迫害するのは醜い。
強い者が弱い者を迫害するのは醜い。
普通の人間達が普通じゃない者をいじめるのは…
奴等が大きく、強く、普通で、多数派である事を理由に、
僕等が小さく、弱く、異端で、少数派である事を理由に攻撃するのは、
…この世で一番醜い。」
『………』
『生きたおもちゃ』の口角に、うっすら笑みが浮かんだ。
「…だから僕等は、大きく、強く、普通になっては…多数派に迎合してはいけないんだ。」
不意に『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』は広い空間にたどり着く。そこで待ち構えるは3機のコピー『天使』、簡素だが顔がある。しかも左の機体は不気味な笑い顔、右の機体は怒りの表情に見える。こいつらは…今までの奴らとは違う!!
3機のコピー『天使』が互いに接近しあい、その身が溶けるように融合して行く。何かする気だ…!!
させるか!!『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』は『雨刈り』を融合仕掛けた3機に斉射するが、上下左右から現れたコピー『天使』が我が身を盾にしてそれらを防ぐ。
邪魔だ!!アユムは『雨刈り』を更に撃ち込む。が、3機のコピー『天使』に届くことは無く、無数の通常型コピー『天使』が倒れていく。
3機のコピー『天使』は、融合を終えてしまった。3対6本の腕を持ち、顔の左右後方にもう2つの顔を持つ姿になった。
三面六臂『天使』は6本の腕を全て前方へ向けると、頭部を120度ずつ回転させ、笑い顔、次いで怒り顔を見せ、最後に通常顔に戻る。前に伸ばした6本腕の間に光が現れ、それは急速に大きくなって行った。 ゴ ォ ォ ォ ォ…!!
「僕等は小さく、弱く、異端で、少数派のまま、この世と対峙しなきゃいけないんだ…」
『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』は『雨刈り』を上へ向けて構えると、表面に円錐形の荷電粒子をまとわせながら、銃身を高速回転させた。 ギ ィ ィ ィ ィ ィ… 高速回転の音が響き渡る。
やがて、十分大きくなった三面六臂『天使』の胸の光の玉から、太い光線が伸び、『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』へと伸びていく。 カ ッ…!!
ギ ィ ィ ィ ィ ィ…!! 『雨刈り』の表面の荷電粒子の高速回転運動で形成された磁場によって、三面六臂『天使』のビームは真横に捻じ曲げられ、『天使アルゴ』の中央部を通って外壁を突き抜けた!
※ ※ ※
同時刻、旧東京廃墟…
ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ !!
旧東京廃墟の片隅で『天使アルゴ』を見上げるエイジとシノブの目の前で、『天使アルゴ』の横腹を突き抜けて光の柱が伸びた。程なくして爆音。
「あ、アユム君!!」「ショーネン、やったっスか!?」
※ ※ ※
同時刻、『天使アルゴ』内部…
辛くも三面六臂『天使』の攻撃をしのいだ『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』。だがこれまでの戦闘のダメージで、『雨刈り』の銃身は赤熱し、火花を発していた。
「…わざわざ『この世で最も醜い存在』に、なる必要なんて無いんだ。」
『ハハハ…!!渡来アユムはやっぱり「ウォーク・ストレンジャー」だな!!』
『生きたおもちゃ』は笑った。嘲笑ではなく、さも愉快げに…と同時に、
『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』は使い物にならなくなった『雨刈り』を三面六臂『天使』に投げつけると、『天使』は胸を貫かれて轟沈する。
「ま………『ウォーク・ストレンジャー』も紛う事無き僕の一部だからな……『みんなと仲良くしよう』とか『いじめた相手を許そう』とか、綺麗事は言わない。いじめた相手に暴力で復讐して、あいつらと同じになるのは馬鹿げてる…前も言ったよな!?」
『ああ………言ってたな…』
「…だったらなぜ…」
『…あの時、俺は言ってたよな…「遅すぎる」って…』
「ああ…それが何か!?」
さっきから周囲のコピー『天使』達はピクリとも動かなくなっていた。
『…お前と実際に会って、新たな言葉を受け取るまでに、俺は何万人の人を殺してきたと思ってる…!?』
「………」
アユム機も構えていた両腕を降ろす。
『「この世で最も醜い、いじめる側の人間になってはいけない」 ああその通りだ。なら…お前と出会うまでにもう何万人も人を殺して、あいつらと同じ存在になってしまっていた俺はどうすればよかった…!?俺とお前は…出会うのが遅すぎたんだ………』
周囲のコピー『天使』達は溶けるように崩れて消えて行った。残ったのはさっき出来た大穴だけ…アユム機はその大穴を奥へと進みながら、
「………済まなかったな…」
と、言った。
『はぁ…!?』
「…僕の言葉のせいで、お前の人生は狂ってしまったんだな…」
『…バカにするなよ…この復讐はあくまで俺の物だ…』
『生きたおもちゃ』の言葉にな、奇妙な清々しさがあった。
「…僕のいじめの恨み言まで、お前に背負わせてしまって………その重荷、降ろせないなら僕が止めてやる…」
『勝手な事、言うなよ…大体何だよ「お前」って…俺には「生きたおもちゃ」って名前が…』
「名前じゃないだろ、それ!? 僕はお前の名前を知らない…」
大穴の中を『天使アルゴ』の最奥へと進むアユム機。やがて通路は行き止まり…性格には穴を応急処置で塞いだ跡に突き当たった。左の壁に巨大な扉があり、上のライトが光っている。入れと言う事か…
『何だよお前は…調子狂うな…俺達はロボットに乗って殺し合いをやってんだぞ…』
ドアは自動で開いた。『天使アルゴ』の中心部と思しきそこには、さっき三面六臂『天使』と戦った時より広い空間が広がっていた。
『まぁいい…お前が勝ったら教えてやるよ…俺の、本当の名前を!!』
そして、天井から、『天使アレッツ』が1機、ゆっくりと降りて来た。頭のてっぺんは天使の輪の様に丸く潰れ、両肩は翼の様に左右後方へと広がり、脚は非常に細い物を1本に束ねて尻尾の様に下へと伸ばしている。機体色は骨の白。そして、腕は肩と胸と背中に1対ずつの計3対6本。
間違い無い…こいつがオリジナルだ!!




