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23ー9 打ち歩詰め

同時刻…


「超縮小化…って、もんのすごく小さくなってるって事っスかぁ!?」

シノブが素っ頓狂な声を張り上げると、エイジは頷く。


「ああ…肉眼にも見えずレーダーにも感知出来ないくらい小さくなっているんだろう…それが、アユム君の必殺技、『インビジブル・コラージ』の正体だ…」


     ※     ※     ※


同時刻…


「そんな!!おとぎ話じゃあるめぇし…」

レオは声を張り上げた。実際アユムは、おとぎ話…郡山の廃墟を漁っていた時、書店跡で見つけた本…『一寸法師』の絵本と、その後に見た、巨大な敵との戦いの夢が、アイディアの出どころだった。もしレオがその事を知ったら、『パンサーズ』が絵本に潰されたのかと怒るのか呆れるのか…するとアカネが、


「別に突拍子もない話でも無いだろうさ…アレッツにはブリスターバッグという、機体を縮小化させて輸送する手段があった。更にスケールを小さくして、しかも中にパイロットを乗せたまま稼働すればという発想に、彼は思い至ったのだろう。さらに言えば、人が乗る兵器は、パイロット…人間よりも小さく出来ないという制約があるが、アレッツのコクピットは異空間らしいから、その制約も無い…」

アユムは大宮から発信した三カ国ビデオ会議の時、『アレッツのブリスターバッグは質量保存則の否定だ』と言っていた。一体いつからこの発想を得ていたのか…

「全く…かく言う私も、あの技の正体に気づいた時には呆れたよ。『渡会アユムは気でも触れてるのか!?』、とな…」


アカネは北斗七星のミザルとアルコルがぼやけて見えたため、『今に私も、眼鏡がなければ小さな字が見えなくなるのかな』と思い、『インビジブル・コラージ』の時のアユム機は目に見えない位小さくなっているのだと気づいたのだ。また彼女は、『アユムはペルセウスに似ている』と評していた。そして彼は今回も、とんでも無いメデューサの首を用意していたのだ。


     ※     ※     ※


エイジとシノブは東京の廃墟で遙か上空を見上げながら、レオ、アカネ、ハジメの3人は北へ帰る自動車の中で、昨日まで共に戦っていたアユムに思いを馳せた。


あの大人しくて控えめだが、内に大きな力を秘めた戦友を…


     ※     ※     ※


同時刻…


「最初に郡山でダイダ相手に使った時は、機体を小さくしてダイダ機の装甲の薄い場所から入り、内側から破壊したのだろう…」

エイジは言った。あの時アユム機はダイダ機の足から中に入り、腹部のパイプを破壊しながら通って胸部に入り、右肩とコンバータを壊してまわり、残った腹部パイプを壊し、そこで縮小化を解いたのだ。よくよく見たらダイダ機のダメージは体内で1本の線を描いていた。これで気づく事も出来たかもしれない。またダイダ機は左手で周囲を殴ったが、当たるわけが無い。アユム機はダイダ機の中にいたのだから…

「どんなに強い機体でも、内側は脆い物だろうからな…強い弱いなど関係なく、問答無用に戦いに勝てる、まさに必殺技だ。」


「で…でも…そんな事して、万一攻撃を受けたら…」

シノブは言ったが、エイジは、


「万に一つも当たらんだろう…」

と首を振った。縮小化によって的が小さくなりすぎて、ほとんどの攻撃が当たらないのだ。それこそが『インビジブル・コラージ』の長所その2だった。


     ※     ※     ※


「2度目にあの技を使ったのは、郡山の廃墟で、ボクをリアシートに乗せて、周囲を取り囲む自警団から逃れる時。」

ハジメが言った。

「小さくなって人の目にもレーダーにも映らなくなって、まわりの自警団アレッツの間をすり抜けて逃げたんだ。」


「小鳥遊が後ろに乗ってたのか…!?渡会…なんて危ない真似を…」

アカネが呻いた。

「この必殺技の本質はあくまで縮小化であって、小さくなった上での応用が非常に広い事だ。3度目に『天使』に使った時は、『サテライト』の中に入って、内側から『サテライト』の操作系を乗っ取り、他の『サテライト』と『天使』本体を攻撃した。全く…本当におとぎ話の様に荒唐無稽だな…」

と、ため息をつき、

「だが『インビジブル・コラージ』にも弱点はある。1つは縮小中は機体の耐久性が極端に低下する事。天文学的な確率でも、攻撃を受ければひとたまりもない。非常に弱い攻撃を広範囲に万遍なく与えられたら弱いのだ。例えば…」


「…雨が降っている時、とか…」

ハジメが続けた。2度目に使った時は雨が降っていた。縮小中は雨粒でも当たったら致命傷になるため、アユムはアンブレラウェポンを空に向かって撃ち、雲を散らして一時的に雨を晴らしたのだ。

「言っとくけど、あれはしょうがなかったと思うよ。誰も傷つけずにあそこから逃げるには、あれしかなかったと思う…」


ハジメの言葉に再びアカネはため息をつき、

「2つ目の弱点は、2度目の使用方法と矛盾するが、移動力が低下するという事だ。同じ距離を移動するとしても、体が小さくなれば体感距離はスケールに反比例して増大する。だから4度目に私に使った時、私は距離を取って不発に終わらせた。」

と、続けた。そして、

「3つ目の弱点…対処法は、『スーパーノヴァ』が体内に入っている機体を攻撃する事。味方を攻撃出来る非情の者か、わざとあの技を食らい、自分で自分を攻撃する馬鹿者がいれば…」


「5度目の時、だね…舞鶴さんに使った…」

ハジメが言うとアカネが、


「ああ。だから私はわざと左手に『インビジブル・コラージ』を受け、自機の左腕を斬った…左腕を上昇中の『スーパーノヴァ』目がけて。もっとも、それも気づいて渡会も途中で縮小化を解いたがな…」


     ※     ※     ※


「6度目…昨日の作戦行動中に使った時は、縮小化して私の機体の中に入って、切断されたエネルギー系統をアンブレラウェポンの熱で溶接して修理したのだ…」

エイジは言った。その間遮断器を落とす様にアユムが言ったのもそのためだった。


「全く…万能すぎてデタラメっスね…」

シノブが呆れて言うと、エイジが、


「『インビジブル・コラージ』は突拍子もない技だが、正体さえ知れれば対策のしようはいくらでもある。だからアユム君は、技の正体を徹底的に秘匿した。『インビジブル』という技名もブラフだろう。『姿が見えなくなっている』と、敵に思い込ませるための…そして、『インビジブル・コラージ』最大の問題点は…」


「カオリチャンの存在っスね…」


アユム機の最大の特徴はリアシートのカオリとの複座式である事。先にも述べた通り、この必殺技は可能性は非常に低いが攻撃を一撃でも受ければパイロットは死んでしまう。アユム1人でその無茶な賭けをやるのは勝手だが、カオリを後ろに乗せている時に使うのは、さすがのアユムもはばかられたらしい。最初に使った時と3度目に使った時はカオリを乗せておらず、ダイダ、『生きたおもちゃ』との三つ巴の戦いではカオリが乗っていたため1度も使わず、2度目にハジメを乗せて使ったのも、可能な限り危険を排しての物だった。もっとも、カオリもアユムの危険な賭けに、最後は共に乗ったのだが…


     ※     ※     ※


そして今、アユム機は『インビジブル・コラージ』を使っている。縮小化を行わずに…相手が非常に大きいのだ。通常サイズのアレッツで挑めば、相対的に『インビジブル・コラージ』の使用時と同じ状態になる。


『「インビジブル・コラージ」は、打ち歩詰め、か…』


『生きたおもちゃ』は、かつて自身が言った台詞を反芻した。あの三つ巴の戦いの時、アユムがあの必殺技を一度も使わなかった事から、使用に何らかの大きな制約があるのだろうと推測し、『アユム』の名前と、『反則』という意味を込めて、『打ち歩詰め』と皮肉ったのだが…名前通り、『歩で王を詰む』行為だったのだ。


ついでに言えば、三つ巴の戦いの時、ダイダはアユムをウジ虫呼ばわりして、『ウジ虫みてぇに俺の体を這い上がって来んじゃねぇ!!』と罵倒していた。あの時点で唯一『インビジブル・コラージ』を食らった事があるダイダは本能で自分が何をされたのか感づいていたのだ。アユム機はダイダ機の中をウジ虫の様に体を食らいながら這い上がって来たのだ。その後、アユム機が問答無用でダイダ機を撃ち抜いたのも、ウジ虫呼ばわりされて激怒したのと、あの時点で『インビジブル・コラージ』の正体を知られる訳にはいかなかったからだ。


縮小化という一見、弱点しか無さそうな手段。一撃でも食らえば即死だが、その一撃がまず当たらない。アユムが支払うは勇気(コラージ)だけ、それが、『見えない(インビジブル)勇気(・コラージ)』の正体なのだ…

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