23ー8 2人のいじめられっ子
同時刻、旧東京廃墟某所…
大破したグリーン迷彩アレッツのコクピットから、1人の男性が降りてきた。
「く…っ!!」
男…最上エイジは、悔しそうに歯噛みする。そこへ、
「タイチョー、お疲れ様っス。」
彼のオペレーターで恋人でもある久野シノブが歩み寄る。
「シノブ君…酒田と新庄は!?」
「2人とも無事っス。もう戦場から離脱したっスよ。タイチョーこそ大丈夫っスか!?」
それからエイジはボロボロになった自機を見上げる。
「ああ…この通り何も出来ずにやられてしまったが、止めを刺される直前で、コピー『天使』は回れ右して行ってしまったよ。」
「多分、あっちに行ったんスね…」
そう言って2人は空を見上げる。そこには、禍々しい『天使アルゴ』へ向かって飛翔する濃紺色のアレッツ…『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』の姿があった。
「結局、アユム君に全部背負わせてしまったか…」
エイジがつぶやくと、シノブが、
「さっき地上から『天使アルゴ』へ向けて、ピカーッて光の柱が登ったっスよ。あのショーネン、あんなヤベー物を…」
「アユム君はずっと『生きたおもちゃ』に拘っていたし、何やら準備をしている様でもあった。だからこそ、彼に手を汚させたくなかったのだが…」
「あ、そうそう、タイチョー、これ…」
そう言ってシノブは目覚まし時計を差し出す。アユムに修理してもらったが動かなくなったために昨日エイジが捨てた、あの時計だ。しかも何故か正常に動いて、時を刻んでいる。
「どうして動いているんだね!?それよりどうして君が持ってるんだね…!?」
エイジが問うとシノブは、
「…なんかもったいなかったんで、拾っておきました。そしたらさっき突然、急に針がグルグル動き出して、正確な時間を示したらまた普通に動き出したんス…」
なんとも説明がつかない話だが、その言葉にエイジは再び空を舞うアユム機を見上げ、何故か納得した様な声で、
「という事は…そういう事なのだろうな…」
※ ※ ※
同時刻、旧埼玉県さいたま市某所…
舞鶴アカネは、遥か南を見つめ、呟く。
「…やっぱり渡会アユムは来なかったか…」
すると隣りにいた小鳥遊ハジメが、
「という事は、アユムお兄ちゃん、まさか…」
今度は氷山レオが、
「ああ…行ったんだろうな。自分の事を『おもちゃ』だと思ってるバカヤローを、人間に引きずり降ろすために…」
南を見つめたままの3人、アカネは呟いた。
「…ま、その方が良いと、私も思っていたのだ…」
アカネが見つめる自身のブリスターバッグの画面には、『ウォッチャー』のライブ動画。東京上空の一面の黒雲と『天使アルゴ』の異形、そして、その異形に向かって地上から登る、濃紺色の流れ星…
※ ※ ※
同時刻、旧東京廃墟…
キィィィィ… 背中と腰の2対4枚の飛行ユニットを展開させて飛翔するアユム機。上空の『天使アルゴ』からは無数の触手が伸び、先端のコピー『天使』がアユム機に殺到する。コピー『天使』はオリジナルの『天使』そっくりだが、腕が肩から伸びる2本しか無く、顔が無く全面巨大センサーとなっていた。あれらはどうせ無人、そして昨日の攻撃で眼下の東京も無人。遠慮なくやらせてもらおう…
「うおおぉぉぉ~~~っ!!」ダ ダ ダ ダ ダ…
両腕の傘型武器を乱射して当たるを幸いに撃ち落として行くアユム機。コピー『天使』が何機も爆ぜ、焼け野が原の東京へ落ちていく。
ザッ! コクピットに通信が入る。送り主は…1人しかいないだろう。
『…渡来…アユム……いや、「ウォーク・ストレンジャー」…』
果たしてそれは『生きたおもちゃ』からであった。不気味なまでに穏やかな口調であった。
『…お前の言葉は世を捨て、薄暗い闇と絶望の中にいた俺にとって微かな希望の光だった…他人と交われず、拒絶され、迫害され、両親すらも出来損ない扱いされ続けてきた俺にお前は、『他人と交わる事はそもそも苦痛』『他人と交わらぬ世の中が理想』と言ってくれた。俺を肯定してくれた。初めて実際に会った時はこれまでの人生で一番嬉しかった。名前を聞いてすぐにお前が『ウォーク・ストレンジャー』だと気づいた。』
やっぱり…アユムは思った。福島復興村で初めて彼と出会い、アユムが自分の名前を名乗った時から、『生きたおもちゃ』はアユムが『ウォーク・ストレンジャー』だと気づいていた。彼がアユムを『渡会アユム』とフルネームで呼んでいたのは、『お前はウォーク・ストレンジャーだろう』という皮肉を込めていたのだ。
『お前の言葉と、『天使』アレッツに出会えたお陰で、壊れたおもちゃの様に世界から見捨てられて俺は、産まれて初めて、『生きる』事が出来たんだ…俺を『生きたおもちゃ』にした、歴代のクラスメートを一人残らず殺す事によって…』
だがアユムは冷めた声で、
「…あれは、ただの中学生の戯言だ。それに…どんな理由があるにせよ、こんな地獄を作っていい理由にはならない!!」
最後に地上の焼け野原を指差す。
『……この、裏切り者っっっ!!!』
『生きたおもちゃ』の叫びと共に、何機もの『コピー天使』がアユム機へと襲いかかる。アユム機はそれらを両腕の傘で根こそぎ撃ち落とすと、
「僕の言葉のせいでお前が狂ってしまったんだったら………僕が、お前を止める!!」
『貴様ァァァァァ!!』
なおも激昂する『生きたおもちゃ』は、3機のコピー『天使』を襲いかからせる。アユム機は左手の『雲晴らし』の先端にパーティクルを集中させると、槍の様に突き出し、3機のコピー『天使』を串刺しにする!この衝撃で照準が狂った『雲晴らし』を廃棄すると、アユム機はさっき自身が『天使アルゴ』の表面に開けた裂け口を見据え、突進する。何十体ものコピー『天使』がその裂け口に群がり、機体の形が溶ける様に崩れていく。裂け口を塞ごうとしているのだろう。アユム機は右手の『雨刈り』の表面にパーティクルをまとわせてドリルの様に高速回転させた物を前方に突き出してそのまま突進を続ける。溶けたコピー『天使』が穴を塞ぐ前に、ドリル状の『雨刈り』が穴をさらに拡大させ…アユム機は、ついに『天使アルゴ』内へ突入する!!その時、再び『生きたおもちゃ』から通信が入った。
『小憎らしい奴だな、渡会アユム…!!しかも、ここまでやっておいて未だに一度も、「インビジブル・コラージ」を使ってこないなんて…あれは、俺を倒すために編み出した必殺技じゃないのか!?』
『天使アルゴ』の中を進みながら、『スーパーノヴァ・エクスプロージョン』のコクピット内のアユムは言う。
「さっきから…ずっと使っている!!」




