23ー5 向きを違えて 進む七星
それからエイジ隊は、4人だけでの『生きたおもちゃ』討伐の打ち合わせを行った。中破したエイジ機と酒田機を一晩かかりで修理して、機体が大破したシノブはオペレーターに戻って…どれだけ無茶でもやるしかなかった。
打ち合わせが終わった後、明日の作戦遂行前に仮眠を取ろうとするエイジは、目覚まし時計の秒針が動いていないのに気づく。アユムに修理してもらい、その後ずっと愛用していた目覚まし時計だ。
(ついに壊れたか…まあもうどうでもいいが…)
元々アユムとコンタクトを取る口実に、盛岡でそこいらのジャンクの山から拾って来た物だ。そのアユムとの関係も途絶えた。
もう用済みだ。エイジは目覚まし時計を天幕の外へ放り投げた。
※ ※ ※
一方、エイジ隊の天幕を出たアカネ達は、少し離れた広場までやって来ると、そこでアユムはよろよろと座り込んでしまった。先に出たソラが、いつの間にかどこかへ行ってしまったらしい。
「相川…貴様、渡会君がウォーク・ストレンジャーだと知ってたな!?」
アカネが言った。カオリだけ他の者より動揺が少なかった、理由はそれしか考えられない。
「…福島で、初めてあいつ…『生きたおもちゃ』に出会って戦った後、アユムから聞かされてました。」
※ ※ ※
もう1ヶ月半近く前になる。福島復興村での『生きたおもちゃ』…『6本腕の天使』との戦闘後、壊滅させられた復興村の跡地で錯乱するアユムを一喝し、もうあいつと関わるなと諭したカオリ(第三部11ー1話)。だがアユムはなおも言う。
「でも…でも…あいつは僕が止めないといけないんです………」
不意にゴロゴロと雷が鳴ったかと思うと、上空に立ち込めた雲が、にわか雨を降らせた。村を焼いた業火による上昇気流が、雨を呼んだのだ。その激しい雨音が、アユムの言葉をかき消した。
「…さっきあいつが言ってた言葉…『ウォーク・ストレンジャーの手記』を考えて、ネットに書き込んだのは、僕なんです…」
その言葉に一瞬眉をしかめたが、カオリは言った。
「………やっぱりあんたのせいじゃないわよ。」
※ ※ ※
時は再び現在。アユムは座り込んだまま、ぼんやりとあさっての方向を眺めている。
「………ま、まぁ、なんだ…」
沈黙を破ったのは、レオだった。
「手前ぇの過去の黒歴史をほじくり返されたって、たまった物じゃねぇよなぁ…人は成長し、変わる物だってのに…まぁ、野盗団の頭って盛大な黒歴史持ってる俺が言えた事じゃねえが…だ、だからアユム、お前ぇもあんまり気にしねぇ方がいいぜぇ…」
半ばおどけて言うレオに続いてアカネも、
「渡会君…君はこの旅を通して色々な体験をして色々な経験を積んで大きく成長したんだろう!?君はもう昔の君ではない。その経験を活かして、この後の時代を生きて世の中に貢献すべきだ。あたら命を無駄にすることは無い。」
続いてハジメも、
「アユムお兄ちゃん…ぼ、ボクだって、パパやママを殺した宇宙人が憎いって気持ちもあったよ。だから、だから…」
「………ありがとう、ハジメちゃん…」
こちらに顔も向けずにアユムはボソっと言った。
ときに…、と、アカネが切り出した。
「…実は私の方に、心優しい国王陛下から帰還命令が出ているのだ。『生きたおもちゃ』の人類殲滅宣言を受けて、今すぐ『ジョシュア王国』に帰って国民達を安堵させろ、とな…私もそうした方がいいと思っている。氷山の方にも似たような通知が来てるだろうし、小鳥遊は今、私の部下だから『ユニバレス連合』へ帰らなければならない。」
『生きたおもちゃ』の人類殲滅宣言は、文字通り全世界へ向けて配信されたらしい。その後の焼け野が原の東京とその上空の異形の様子は、『ウォッチャー』によって今なお全世界にライブ配信されている。宇宙戦艦アルゴを取り込み、東京を一瞬で滅ぼした『天使』アレッツの存在は、全世界…特に東京に近しい北関東、南東北にとっての脅威となった。呑気に何もしていないらしい『ヴェーダ公国』の方が例外なのだ。国民を逃がすにせよ『天使アルゴ』を迎撃するにせよ、彼女等は故郷へ帰らなければならない。
「…渡会、相川…貴様等も仙台へ帰るなら、途中までになるが同道しよう。貴様等にも準備が必要だろうから、向こうで待っているぞ…」
そう言って、アカネ達は去って行った…




