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23ー4 ウォーク・ストレンジャーの手記

「その言葉を最初に言ったのは僕です!!『ウォーク・ストレンジャー』は僕なんです!!」


天幕の中は水を打った様にシンとなった。


「あ…アユム…お兄ちゃん…!?」

彼に密かに憧れていたハジメは信じられないという表情になる。アユムは胸の奥がチクチク痛むのを耐えながら続けた。


「…北海道の中学生だった頃、ダイダから受けた酷いいじめ(グラスウール事件)で一時期不登校になってた時、『なんで僕だけがこんな目に合わなきゃいけないんだろう』、『こんな目に合わなくても済むにはどうすればいいんだろう』、『ダイダのせいか!?あいつがいなくなればいいのか!?』、『いや、そんな単純な物じゃないはずだ』、『ダイダがいなくなっても僕へのいじめは無くならないだろう』、『では、どうすればいじめは無くなる!?』って僕なりに考えて、それでたどりついた結論が、あの言葉なんです。それをネットの掲示板に書き込んで、最後に『渡会アユム』を英訳したハンドルネームを署名しました。『ウォーク・ストレンジャー』、って…」


「…『アユム』が"Walk(ウォーク)"なのは分かるとして、『渡会』が、『ストレンジャー』…!?」

「『渡来者』を『余所者』、『見知らぬ人』って意味で"Stranger(ストレンジャー)"って訳したんじゃねーっスか!?」


「…当然こんな言葉、誰も目に止めませんでしたし、レスも1件もありませんでした。『ウォーク・ストレンジャーの手記』は、ネットの海に沈んで、このまま消えていった物だと思ってました。でも…海に放った小瓶の手紙は、海を越えて、よりによってあいつの…『生きたおもちゃ』の元にたどりついてしまったんです。」


アユムは、今のみんなの目を見るのが怖くて見られなかった。


「あいつ…『生きたおもちゃ』を作ったのは、僕なんです!!あいつがあんな事しでかしたのは僕のせいなんです!!だから…だから……僕が、あいつを止めなければならないんです!!!」


(ショーネンがあの手記の朗読を必死に止めようとしてたのはそー言う理由(わけ)なんスね…)

シノブは思った。エイジは、

「あれが君の言葉だったとしても、実行したのは、あくまで『生きたおもちゃ(あいつ)』だ。君が気に病む必要は無い。」

エイジの否定にアユムは語気を強める。

「あいつは僕なんです!!仙台へ引っ越せなかった、もう一人の僕なんです!!だから…」

「君は例え北海道に住み続けていたとしても、『生きたおもちゃ(あいつ)』の様にはならなかった!」


「僕は…この旅を通して、皆さんと出会って、何もかも自分と違う人達とでも、触れ合う事がこんなにも暖かいんだって知ったんです!だからあいつ…あいつにも、それを伝えたいんです!!だから…だから……」


アユムは周りの人達の視線に、冷たいながらも仄かに温かい物を感じた。


「アユム君…昼間、埠頭で戦ったアレッツ乗りが言ってたよな…君の言う事は『どこかズレてる』って…その理由はそれだよ…」

エイジは最初静かに、それから怒鳴るように、

「地球存亡の危機と、子供のいじめ問題を、同列で語るなっっっ!!!」


何も言えなくなるアユム。再び静まり返る天幕内。沈黙を破ったのは、ソラだった。


「ワタシ、これで失礼するワ!バイバーイ!!」

「ソラ…さん!?」


アユムはこれまで何度も自分達を助けてくれたソラの行動を訝しむ。


「いざと言う時、敵を殺せない人にハ、背中を預けられないワ!」

それからソラは声のトーンを落とし、

「ま、()()()も見切り時を見極めた方ガいいワヨ。あ、あと、みんなノ飛行ユニットは、モウ返してもらってるカラネ。」

そう言って天幕を出て行った。するとレオがゆっくりと立ち上がり、

「ま、俺はそろそろ出て行くつもりだったからな…」

次にアカネが立ち上がり、


「最上…私達の助けは必要無いと言うのだな!?」


アカネはエイジを睨む。エイジはアカネを睨み返し、


「ええ。私達だけで十分です。」


「失礼する…」アカネは天幕を出て行く。レオもその後に続き、すれ違い際にアユムの肩をポンと叩き、「俺達と一緒に北へ帰ろう。」と囁く。「あたし達も行こう、アユム…」カオリにも促されてアユムもヨロヨロと出て行く。ハジメはそんな大人達とエイジ達を交互に見つめ、最後に一礼して出て行った。後に残されたのはエイジ隊の4人だけ。エイジは部下達に言った。


「…私達だけで十分だ。命をかけるのも、捨てるのも…」

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