23ー2 名前の無い復讐
その時、不意にシノブがボソっと言った。
「『ハンス・シュミット』…英語圏で言うジョン・スミス、日本で言えば山田太郎…明らかに偽名っスよね…」
それから彼女はハンスに向き直り、
「アータ、本当の名前は何っスか!?いや………アータ何者っスか!?」
全員の視線がハンスとシノブに注がれる。ハンス…そう名乗っている男は、
「…察しがついてるんじゃないのか!?」
シノブは一呼吸置いて、
「………アミキソープ星人。」
「ご明答。」
どよっ…全員の間に衝撃が走った。が、薄々感づいてはいた事だった。最初期からアレッツの知識や技術を持ち、アドミラルに宇宙戦艦を与えられる存在なんて、他にいない。
「…北軍か!?南軍か!?」
エイジの問いにハンスは顔を歪め、
「『第三勢力』…不本意ながらそう呼ばれている、実際その通りの立ち位置の存在、父なる太陽の温みからも、母なる大地の恵みからも見放された、アミキソープの最底辺だ。もっとも、南軍が2つに分かれている今、実際には第四だがな…」
最後は自嘲気味に言うハンスに、レオは、
「…で、その第三勢力様が何でまた地球人の復讐のお手伝いをして下さったんだ!?まさか俺達が手前等の代わりに北軍と南軍をやっつけてくれるとでも思ったか!?」
ハンスは更に食ってかかった様に、
「そんな訳無いだろう!?お前等がアミキソープへやって来たとしても、1分保たずに全滅だ!!」
「ほぉ…なら表出ろや!!手前1人なら秒で咬み殺してやれるぜ!!」
「よせ!レオ君!!…で、ハンス・シュミット、なら何故、お前はあんな事をした!?」
エイジの問いにハンスはニタァと笑って、
「奴らにとって最大のスキャンダルを、最悪の状況で晒すためさ!!」
エイジ達がハンスの言葉の意味を量りかねていると、それまで黙って見ていたソラが、
「ナルホド、つまりSWDは南軍主流派にとって身内の恥でもあるカラ、あの世界デハ公表されていないノネ。そこに地球人が、自分達の星を滅ぼされた恨みとばかりニ殴り込んで来たラ、南軍主流派は保身のためニ侵攻派と北軍相手に全面戦争を挑み、侵攻派ト北軍も責任のなすり合いを始めて三つ巴の戦争ガ始まる。ソシテ、三者が疲弊した頃ニ、第三勢力ガ他の勢力を全部滅ぼして、残り少ないあの世界ノ資源ヲ独り占めスル…」
あらヤダ、ワタシ、小説家になれるカモ…おどけるソラをハンスは睨んで、
「言っとくが、北軍は侵略者、南軍侵攻派は変節漢だが、南軍主流派は日和見主義の偽善者だぞ!倫理と人道を唱えながら、自分の手を汚さず、地球侵攻のおこぼれに預かろうという魂胆だろう。あの世界の連中は全員真っ黒なんだよぉ!!」
「『ウォッチャー』…あいつハ!?」
問うソラに、ハンスは、
「知らねぇ!!あいつは私とは別口だ!!」
「もういいか、ソラ君…」
エイジが割って入り、縛られたハンスを見下す。ハンスはエイジを睨み返し、
「…煮て食うなり焼いて食うなり好きにしろ。どうせ私…俺には故郷に家族も友人も恋人もいない。もっとも、第三勢力ではありふれた話だがな…」
それからハンスは天幕の隅でうずくまっているアユムを睨み、
「そこのボーヤ!『被害者にも加害者にも扇動者にも傍観者にもならない』だっけ!?手前ぇの言う事は本当の絶望を知らねぇ綺麗事なんだよぉ!!」
ビクっ!膝を抱えたアユムが震える。
「ああそう言えば、さっき『生きたおもちゃの考えてる事なんざ分からん』と言ったが、あいつの言う、『このクソッタレな世界をブっ壊す』って気持ちだけは分かるぜぇ!!俺もそう思ったから今回の作成に志願したんだ!!あいつと会った時の目はどす黒い復讐者の目だった。アドミラル達が『持ってた物を奪われた復讐者』だったのに対して、俺と同じ、『最初から何も持っていなかった』、世の中全部を恨んでる復讐者だ、あいつは…だから本当にやるだろうな。あいつが言った通りの、『全人類滅亡』を…
俺達のシナリオからはだいぶ狂っちまったが、『生きたおもちゃ』が地球人みんな滅ぼしてくれるなら、まぁそれで良しとしてやらぁ!ひゃぁはははははは!!!」
ハンスは最後に狂った様に笑うと、
「連れて行け!!」
エイジは酒田と新庄に促す。2人はハンスの腕を左右から掴み、立ち上がらせ、天幕の外へと連れ出そうとする…3歩歩いたところで不意にハンスは黙り込むと、一転して叫んだ。
「待て!待ってくれ!! 俺と出会った時のアドミラルは、魂を失った抜け殻の様だった!!それを、俺が宇宙戦艦を与え、復讐の道を示した事で、アドミラルの目には生気が戻った。俺のおかげで、アドミラル達は、生き返る事が出来た、生きていく事が出来たんだ!!だから…だから………」
ハンスの主張に構わず、左右の腕を掴んで天幕の出口へと進む酒田と新庄。
「やめろ!やめてくれ!!俺は……お前等に殺されたくないんだぁぁ!!!」
酒田と新庄に引きずられ、ハンスは叫びながら退場した。




