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23ー1 目の前の危機

西暦2053年11月中旬、某日


旧東京都、新宿…


その日の東京は、SWD後である事を除けば、何と言うことも無い普通の一日った。


朝からいい天気だった。


彼は公園を開いて作った畑で、冬を迎える前の最後の収穫に追われた。

彼女は川辺で洗濯をしながら、隣の女と今年の冬の寒さがどうとかいう世間話に花を咲かせた。


時折ふと、自分は都会で住んでいたはずだったのにと思う事はあったけれど、穏やかな小春日和、誰もが星降る夜の後に手に入れたささやかな幸せに感謝しつつ、過ごして行った。お台場の方で何やら騒がしくしている人達がいるそうだが、彼等にとっては関係ない事だった。


太陽は空で燃え、西に向かい、低くなり、皆が家に帰って休む時間だと思ったその時、


東京湾の方から白い筋が上がった。


ああ、お台場の連中が宇宙人の星へ行くのか。この時はまだ呑気にそう思っていたが、


それが空中で停止すると、豆粒程の小さな影が段々大きくなってくるのを見て、一抹の不安を覚えるものが現れ始めた。やがてそれは肉眼で全容が見て取れる様になると…


悪夢のような光景だった。あの夜、東京を焼いた宇宙人の宇宙船…そうとしか見えない物の上に、歪な天使の上半身の様な物を乗せた物体が、自分たちの頭上へと近づいて来たのだ。


東京を焼くってよ。誰かがそう言うと、


一瞬の静寂の後、


東京全土はパニックに陥った!!


ビルへ逃げろ!地下街へ逃げろ!!不確かな声に踊らされて、誰もが悲鳴をあげ、互いを押しのけて右往左往する中、


頭上の飛行物体の下面に光が集まり始め、ビルや地下街へ逃げ遅れた者達は、跪いて救ってくれる誰かに祈り…


やがて光は溢れ、新宿に再び太陽が落ちてきた。


SWDでも燃え残ったビルは飴のようにひしゃげ、中に逃げ込んだ者達の意識はそこで途切れた。そして、地上を焼いた光の熱は地下道にも流れ込み、地下に逃れた者達は生きながらに蒸し焼きになった。


ビーム照射地点となった新宿から離れた場所の状況はより悲惨がであった。押し寄せる熱波に焼かれ、爆風で飛ばされた瓦礫に打ちのめされ、人々は死までの何時間か何日かの間塗炭の苦しみに苛まれ、奇跡的に生き残った者達も皆が死んだ中、自分だけが生き残ってしまった絶望と罪悪感にうちひしがれた。


新宿を中心とする、半径数キロが、地獄と化した。


     ※     ※     ※


東京を焼いた熱波はお台場まで届き、辺りは真夏の暑さにみまわれ、やがて、熱波が起こした上昇気流は上空に雨雲を作り、東京一帯に黒い雨を降らせた。


『オペレーション・ビッグディッパー』の8人は、それぞれの捕虜と共に海に出て、夢の国を右手に見ながら何とか対岸へ渡ると、燃え盛る東京の東から北東を迂回して荒川を遡上し、旧埼玉との県境付近までたどり着くと、そこに天幕を張った。


北斗七(オペレーション・)星作戦(ビッグ・ディッパー)』、失敗…『アルゴ』の打ち上げ自体は阻止出来たが、宇宙人の再侵攻に匹敵する危機的状況に至ってしまった。


    ※    ※     ※


天幕内…


バキっ! エイジに殴られ、吹き飛ばされた男…酒田は、殴られた頬を抑えながら、よろよろと立ち上がった。天幕内には11人の人物がいた。うち8人は『北斗七星作戦』のメンバー、残り3人のうちの1人が、この酒田だ。エイジは吐き捨てるように言う。


「これで勘弁してやる。地球人の尊厳のために宇宙へ行こうとする気概があるんだ。私の戦いに当然、協力してもらうぞ。ここから先は本物の地球存亡の危機だ…あと、シノブ君には近づくな。彼女は私を選んでくれた。」


エイジの言葉に酒田は無言で頷いた。それからエイジは隣に目をやり、

「それで…貴様は何故、ここにいるんだ!?」

「…本当、何でなんでしょうね…」

隣の男…新庄は自嘲気味に言った。

「…放浪暮らしに嫌気が差して、平穏と安定が欲しかったはずだったのに…『ヴェーダ公国』の連中、この状況に何もしようとしないんですよ。信濃の周囲の山々が、『天使アルゴ』を防いでくれるとでも思ってるんじゃないんですかね…平和は誰かが守らなきゃ作られないってのに…」

どうやら新庄も協力してくれるらしい。『天使アルゴ』との戦いに…


それからエイジは、縛られた男に目をやる。


「『ハンス・シュミット』…アドミラルの副官…さっき貴様が言った事は本当か!?」


エイジの尋問に、縛られた男…ハンスは頷いて、


「ああ…『アルゴ』は元々俺の物でそれをアドミラルに譲渡し、宇宙人への復讐を促した。それだけじゃない。アレッツのビルド、カスタマイズ情報サイトを立ち上げ、最初の書き込みを行ったのは、俺だ。」


不敵な顔のハンスに、アカネは、

「つまり…貴様がここ1年の混乱の元凶、という訳か。」

彼のせいで地球はロボットに乗った野盗が跋扈する世界になってしまったと言える。ハンスは不遜な態度を崩さずに、


「ああ言っとくが、だからと言って、貴様等が『天使』と呼んでいるあの機体の事は私にも分からないぞ。宇宙戦艦を乗っ取れた事も、な。

『ウォッチャー』の暴露動画でもアレッツがアミキソープ人にとってもロストテクノロジーだと言ってたが、あれはそんなアレッツの中でも規格外の存在であることは、胡乱なお前等にも察しがつくだろう!?

北軍か南軍かどっちかが、掘り出し物を試験運用するつもりで投入したんだろう。全く、余計な事をしてくれたもんだよ…」


「ひとまずそれはいいだろう。『アルゴ』の中で起きた事を話してもらおう。」

エイジが言うと、ハンスは、

「…『生きたおもちゃ』…あいつに、内側から乗っ取られた。」

そう、切り出した。そして、

「『アルゴ』が上昇を止めた辺りから、ブリッジの操作は一切受け付けなくなっていた。その後、船室の天井が降りて来て床がせり上がって来て、乗組員もアドミラルも、潰されてミンチになって死んだ。生きて脱出出来たのは私だけだ…」


ヒッ! ハジメが悲鳴を上げる。


「アドミラルは!?」

天幕の隅で、皆の輪から外れて俯き、座り込んでいたアユムが問うたが、


「…私が脱出した時、最後までブリッジのシートにいた。多分お前の想像通りだと思うぞ…」


言われてアユムは再び俯いた。アユムの前には彼の身を案じるカオリが座っていた。


「とにかく…『生きたおもちゃ』は宇宙人への攻撃部隊に加わりたいと言ったので、お前等の迎撃には参加せず、『アルゴ』に船室を与えたらそこに引きこもってた。恐らく最初から『アルゴ』を乗っ取るつもりだったのだろう…あいつの考えてる事なんざ分からん。でもまぁ、何をやろうとしてるかについては…あいつ、言ってたよな!?『自分以外の人間を、全員滅ぼす』って…」


分かっていた。『アルゴ』の打ち上げは報復でアミキソープ人が攻めて来る『かも』という『危険性』だったが、今、天幕の外、遥か南の新宿上空に漂う『天使アルゴ』と『生きたおもちゃ』は、紛れもなく人類を滅ぼさんとする存在、目の前に迫る危機だ。

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