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3ー6 遠きみやこへ かへらばや

ターーーーーン!!


アユムのアレッツの新装備、攻撃用に限らない、様々な用途の弾丸を合計6初発射出来る「特殊兵装」。


その一発が、長銃身リボルバーと思しき形態の銃口より、宙へ向けて発射される。


ターーーン!ターーーン!! 2発、3発…


方向を変え、角度を変え、


ターン!ターン!ターン! 4発、5発、6発、全弾射出される。


斜め上へ射出された円筒形の弾丸は、銃口に刻まれたライフリングにによって、旋回しながら登って行く。そして、


途中から、弾丸の「上面」から、折りたたまれていてプロペラが展開し、「底」から、円周に沿って液体が噴射され、円筒形の弾丸は、液体噴霧の回転と上面のプロペラの揚力で、空中を漂いながら液体を噴霧しながらゆっくりと降下して行く。さながら自力で回転する竹とんぼの様に…いや、原理は正にそれだ。そして…


1発目から噴射された液体は、火だるまになってる海賊の上に降り注ぎ、身体の炎を消し去る。


残りの5発も、村の広場の上を、畑の上を飛び、噴射した液体で炎上していた小屋やら廃材やらの火を消し、1発は早々と陸に落ちたが、残り5発は海へと落下した。さっきまで回転していたためによく見えなかったが、弾丸の胴体には、何やらアルファベットが書かれている。『DHMO』!?


「火が…消えた…」「助かった…のか!?」


さっきまで火を消そうと躍起になってた元クラスメートと、火だるまから解放された海賊は、安堵のため息をもらした。が、そこにアユムの声が飛ぶ。


「おっと、安心するのはまだ早い!」


普段の、それからこの街に住んでた頃の彼からは想像もつかない様な意地悪い声。


「たった今撒いたのは、『DHMO』という、何でも溶かす液体だ!しかもそれを99.99%に濃縮したものをな。」


クラスメート達も街の人も海賊も、サっと血の気が引く。


「う…嘘だっ!!俺は何とも無ぇぞ!!」

海賊が叫ぶが、


「溶けるのがものすごくゆっくりなんだよ。だが確実に溶けるぞ。その証拠に、寒気がしないか!?」


「ううっ…そう言えば確かに…」身を縮こまらせる海賊。


「それだけじゃない。DHMOは酸性雨の主成分だったり、工場や大昔の原発の排水にも大量に含まれてたりしたもので、過去にもこれにまつわる災害で多くの人命や財産が失われて来た。蒸発すれば二酸化炭素より高い温室効果を示し、更には6リットル飲めば成人男性も死に至る毒性を持っている物だ!!」


「そんな危険な物を、畑や海にまで!!」「渡会ひでぇ!!」「お…俺まだ死にたくねぇよぉ!!」


「に…逃げるぞ!!アジトに帰って洗い流せば、まだ助かるかも知れねぇ!」


残っていた半魚人アレッツのパイロットが叫ぶと、自機を失った海賊が、「おう!」と、身を屈めた半魚人アレッツに駆け寄り、上半身につかまる。半魚人アレッツはそのまま海まで走ると、「おぼえてろよーーーー!!」と、月並みな捨て台詞を吐いて、魚型に変形して海へと消えていった。


海賊が去った後、アユムのアレッツの足にカツン!と、石が当たる。


投げたのはアユムの元クラスメートの青年だ。


「渡会…てめぇ!!」


それをきっかけに、村人たちから一斉に石と罵声が投げつけられる。


「あの畑を作るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!!」「あの海も…もう漁が出来ねぇじゃねぇか!!」「鬼!!悪魔!!!」「この街から出ていけーー!!」「二度と来るなーーー!!」



これでいい。アユムは思った。この方が分かりやすい。やっぱりこの街の連中はろくな奴らじゃ無かった。


「言われなくても、もう行きますよ。」


アレッツの身を翻して、西へ向かおうとしたアユム機に、


「渡会…」


話しかけたのは、最初に現れた阿部という青年だった。そう言えば途中からのアユムとクラスメートとの言い合いにも、こいつは参加していなかった。


「俺は…俺の子供は、いじめる側にも、いじめられる側にもしない。そう誓う。」


彼はそう言った。


「済まなかった…今、思い出した…俺たちがどんなにひどい事をしてたか…」


アユムは素っ気なく、

「その言葉は、中学時代の僕に言ってやって。」


阿部の横で瀬田といった女性が、


「ひどい!なんであいつの肩を持つの!?」「済まない…でもこれは、いじめは誰の頭上にも降り注ぐ問題なんだ…」「あなた分かっていない!女にとって、母親になるって事がどんなに大事な事か!それをあいつは…」「分かってるさ。俺だって父親になるんだ。だから…」


付き合いきれない。


「渡会君…」


今度現れたのはあの女教師だ。ヒステリー女から辛うじて教師の顔を取り戻し、


「あなたのためを思うから言います。被害者は幸せにはなれません。自分の不幸を、せいに出来る誰かがいる内は、あなたは幸せにはなれません。」


「先生…さっきの僕の言葉に、何か言う事はありませんか!?」


「何も無いわ…もうあなたとは、教師でも教え子でも無いわ。どっかに行って頂戴。」


アユム機は陸に落ちて横倒しになっていたさっきの特殊弾を拾って、正面の『DHMO』という記述が正しい位置で見える様に置き直し、


「先生…やっぱりあなた、教師辞めて正解です。」


そして、アユム機は、聞くに堪えない罵声が飛ぶ中、近くに転がっていた半魚人アレッツの、撃たれて千切れた片脚を拾うと、西へ向かってホバリングで走り去った。


     ※     ※     ※


村から十分離れた位置で、アユムはアレッツを降り、ブリスターバッグに収納。代わりにスクーターを出した。


(被害者は幸せにはなれない、か…)


アユムはヘルメットをかぶる。


(僕に言わせれば、加害者に何を求めても無駄、だな。『お前は加害者だ』と言われて誠実な態度が取れるなら、加害者は最初から加害者にはならない。それが今回、よく分かった。)


やっぱり来るんじゃなかった。


大きく膨らんだリュックサックを背負い直そうとして、首から下げていた、あの青い石の入った、小さな鍵の付いたピンクのお守り袋に手が触れる。


「うん…分かってる。こういう事は、もうこれきりにするよ…」


アユムはスクーターのキーを回す。


     ※     ※     ※


さて…


アユムが去った後の街では、毒液DHMOの散布された畑での農業や、海での漁、果ては廃材を燃やす事さえ取りやめられた。村人たちは飢餓の冬に続いて飢餓の夏を迎え、アユムを恨む声は一通りでは無かった。人の世話が入らなくなった畑の作物が伸び放題に伸びて立ち枯れ、入れ替わりに雑草が作物と背比べをする様に伸びるのを、村人達は虚ろな目と空きっ腹を抱えて見つめていた。


が、目障りな例の『DHMO』と書かれた弾を人力で退かそうと、弾の中を覗き込んだところ、中にわずかに残っていたDHMO液に、蚊が卵を産んだのかボウフラが沸いて来て、初めて村人たちは疑問を持つ。


猛毒薬のはずのDHMOから何故雑草やボウフラといった生命が…!?


ここで元クラスメートの1人が、渡会家のバスルームにアユムが勝手に置いていった、バグダッド電池付きのインターネット無線中継機の存在に気づき、インターネットで『DHMO』について検索し…アユムが残した言葉の意味を知る。アユムは一層、村人たちから恨まれる様になった。


DHMO、DiHydrogen MonoOxyde。水素原子2原子と酸素原子1原子から成る分子という意味。どんな物体でも非常にゆっくりとではあるが溶かし、酸性雨の主成分で工場、原発排水にも大量に含まれ、成人男性なら6リットル…1.5リットルの大きなペットボトルで4本飲めば浸透圧の関係で死ぬ、H2O、『水』。

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