22-9 『アルゴ』発進
同時刻…
それぞれが故郷からはるばる追いかけて来た脱走者を捕らえる事に成功したレオ、ハジメ、そしてアカネは一堂に会していた時、久野シノブの通信を受けた。
『「オペレーション・ビッグディッパー」の各機に告ぐ。当初のプランは現時刻をもって破棄。誰でもいい。継戦可能な者は、「アルゴ」に接近し、これを撃破せよ。』
「ふむ…あの2人は失敗したか。」
アカネが言うと、
「でもよお、俺達だけで続行しろって言われても、俺や舞鶴さんの機体には狙撃の適性はねえし…」
「ボクの機体は修理中だし…」
レオとハジメが言った。
「てえ事は、『アルゴ』を止めれるのは…」
3人は逆さピラミッドの上の、細長い傘のような武器を構えた、濃紺色の巨人を見つめた。
※ ※ ※
逆さピラミッド屋上…
アユム機、『スーパーノヴァ』は、アンブレラウェポン(スナイパー)、『雲晴らし』を、はるか洋上に向けて構えていた。その銃口が指す先にあるのは、今しも発進せんとする宇宙戦艦『アルゴ』。
この距離からでも充分届く。照準良し。あとは、トリガーを引くだけだ。
※ ※ ※
同時刻、『アルゴ』ブリッジ…
アドミラルはキャプテンシートで、メインモニターの隅の、逆さピラミッドの上のアユム機を見つめていた。
「アドミラル、『スーパーノヴァ』が、当艦を狙っています。」
フランシーヌが言ったが、アドミラルは、
「構わん。このまま発進したまえ。」
フランシーヌの戸惑いながらの復唱を耳に、アドミラルは天井を見上げ、瞑目した。
(アユム君、君には撃てんよ…)
※ ※ ※
同時刻、逆さピラミッド屋上…
『雲晴らし』の銃口を『アルゴ』に向けていた。一体どのくらい、こうしているだろうか。微動だにせず…いや、正確には、照準は『アルゴ』のあちこちを、せわしなく動いていた。
(一体、どこを撃てばいい!?)
司令塔であり、アドミラルがいるブリッジか!?アレッツ乗り達がいる居住エリアか!?エンジンは!?燃料タンクの類は!?どこだ!?どこを狙えばいい!?
「アユム…」
リアシートのカオリも呻いた。アユムの思いは痛い程分かった。
どこだ!?どこを撃てばいい!?どこを撃てば…誰も殺さずに、『アルゴ』を沈められる…!?
もしかすると、アユムは、今の今まで気づいていなかったのかもしれない。自分が口にした、『アルゴを破壊する』が、具体的にどうすることなのかを…
※ ※ ※
同時刻…
中破して地面に横たわるエイジ機と、その隣に佇むシノブ機。その側では、エイジに肩を貸すシノブの姿があった。
「ほら、タイチョー、しっかりして下さい。」
「うぅ………」
コクピット内で気を失なっていたエイジを、シノブが救出したのだ。
「それにしても…」「ああ…」
2人は逆さピラミッドの上のアユム機を見つめる。
「やはりあの2人に『アルゴ』は撃てなかったか…」
後ろで声がした。振り返るとそこにいたのはアカネだった。アカネはエイジ機の残骸を一瞥して、
「機体は無惨な有り様だが、よく兵装を守り通したな。装備とソフトウェアを寄越せ。」
「「は…!?」」
意図が掴めないエイジとシノブに、アカネはさも当然という風で、
「私の機体に遠距離狙撃の機能を追加して、『アルゴ』を撃とうと言うのだ。さっさと貴様の装備を全部寄越せ。最早『アルゴ』を止めるにはそれ以外に方法は無い。」
「…お断り…します。」
エイジは言った。アカネはかつての教官だが、今の彼女は危険な人物だ。超長銃身パーティクルキャノンなんか渡したら、関東一円の者は『ジョシュア王国』の奴隷となり、逆らう者には赤城山の向こうからいつ荷電粒子の弾が飛んでくるか分からない中での生活を強いられる事になる。
「ふん……」
アカネは拳を握り、ポキポキと音を立てた。
※ ※ ※
やがて…
『アルゴ』の周囲に、大量の水しぶきが上がっているのが確認された。噴射によって巻き上げられた物か、熱で蒸発した海水か、いずれにせよ、『アルゴ』は離陸…いや、海上にいるから離水か…しようとしているのだ。
「うわあああぁぁぁっ!!」
アユム機は『雲晴らし』を抱えたまま、海上へと、『アルゴ』へと飛び出した。
「アユム!ちょっと!!」
カオリも慌てる。飛びながらアユム機は『雲晴らし』を構え、『アルゴ』の周辺へ撃ち込む。意味の無い威嚇だ。アユムは通信機の全チャンネルで呼びかける。
「宇宙戦艦『アルゴ』に告ぐ。今すぐ離水を中止して投降して下さい!!でないと今度は当てます!!」
「アユム戻ろう!!作戦は失敗したの!!」
コクピットの中でアユムとカオリは叫ぶ。
※ ※ ※
同時刻…
頬を殴られたエイジが地面に倒れていた。
「こ…降参っス!!」
シノブがエイジのブリスターバッグを差し出すと、アカネは、
「ふん!最初から大人しくそうしていれば良かったのだ。全く、手間を取らせおって…」
それからアカネはエイジ機から自機へ、遠距離狙撃用のソフトウェアをコピーし、超長銃身パーティクルキャノンと、トサカ付きヘルメット型の追加センサーの所有権を譲渡させた。そうこうしているうちに、『アルゴ』は離水を開始し、アユム機は海上へと飛び立った。
※ ※ ※
同時刻、海上を飛行するアユム機…
「宇宙戦艦『アルゴ』、あ、アドミラル!今すぐ止まって下さい!!でないと…」
「アユム!!もうやめよう!!」
※ ※ ※
同時刻、『アルゴ』ブリッジ…
離水の振動を受けながらアドミラルは、
「アユム君、君には撃てん。」
※ ※ ※
同時刻、アユム機…
「アドミラル!やめて下さい!!でないと撃ちます!!」
「アユム!」
「撃たせないで下さい!!」
「アユム!!」
「う…撃ちたくないんだあああぁぁぁ~~~!!」
「アユムうううぅぅぅ~~~!!」
やがて、ゆっくりとだが、『アルゴ』の船体は海上から持ち上がる。
※ ※ ※
同時刻、お台場…
ソフトウェアのインストールを完了し、超長銃身パーティクルキャノンを持ったアカネ機の姿があった。左肩のマント型ユニットはパージし、追加センサーは頭のサイズや形状が合わなかったため、緩衝材を挟んで無理やり装備している。
アカネ機は直立したまま、超長銃身パーティクルキャノンを『アルゴ』目掛けて構えた。
※ ※ ※
「アドミラルうううぅぅぅ~~~!!」
「アユムうううぅぅぅ~~~!!」
叫びながら『雲晴らし』を乱射するアユム機を尻目に、遥か上空へと飛翔する『アルゴ』。ブリッジのアドミラルは、
「さらばだ、アユム君。我々は行かせてもらう。」
その時、
『俺の復讐は、まだ終わっていない。』
聞き覚えのある声がして、『アルゴ』の上昇は止まった。
「な、何だ!?」「『アルゴ』、コントロールを受け付けません!!」
騒然となるブリッジ。
「な、何…!?」
「………あ!!」
カオリも呆然とする中、アユムは『アルゴ』の異変に気づいた。『アルゴ』の表面に、『顔』が浮かんだのだ。見覚えのある顔、『天使』アレッツの顔が…
『「アルゴ」は、俺がいただく!!』
『生きたおもちゃ』の声が轟いた。




