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22-8 久野シノブの胸の内

同時刻、アユム機はお台場の空を飛んでいた。


「こちら渡会。最上さん、もうすぐ酒田機に接近します。」


行く手には逆さピラミッド。その上には、酒田機の超長銃身パーティクルキャノンの残骸が見える。


『こちら最上、もうすぐ久野と共に狙撃地点に到着する。くれぐれも気を付ける様に。酒田は手練れだ。』


「了解。」

不気味なまでに反撃して来ない中、緩みかけた心を引き締め直すアユムとカオリ。敵は…必ず迎え撃って来るはずだ。アンブレラウェポン(スナイパー)、『クラウドクレンザー』を酒田機の方に向けながら、なおも飛び続けるアユム機。逆さピラミッドは、既に『クラウドクレンザー』の射程内に入っていた。酒田機にだってサブウェポンぐらいあるだろう。なのに一向に反撃が来ない。


     ※     ※     ※


時は前日に遡る。右膝にスパイク、左脚にシールドを着け、頭に追加センサーユニットを被ったエイジ機。作戦行動を明日に控えた、最後の装備確認。エイジ機は右膝のスパイクを地面に着け、立て膝をついた左脚のシールドを展開し、超長銃身パーティクルキャノンを構えてみせ、コクピットの中で呟く。


『しかし…アレッツのスナイパーは、立て膝をつくのか…』


「!?」

アユムはエイジの言っている意味が分からなかった。


『いや、人間の兵士のスナイパーは、目立たない様に地面にうつ伏せに寝そべるんだ。おまけにトリガーも軽く触れるだけで弾が出るから、実際に狙撃する直前まで、指もトリガーにかけないんだ。』


すると、隣で聞いていたシノブが、

「つまり、スナイパー機は目と指さえあればいいんスよ。まあ後はせいぜい、射角を変える手段さえあれば…」


カオリが呆れて、

「じゃあ、スナイパー機が人型をしてる必要無いですね…」


アユムは慌てて、

「それ言っちゃ身も蓋もないですよー!!」


     ※     ※     ※


時は再び現在。逆さピラミッドの上にたどり着いたアユム機。


「何なのよ、これは…!?」


カオリも思わず呻いた。目の前にあるのは、超長銃身パーティクルキャノンの残骸だけ。ただしスコープとグリップには遠隔操作用の装置が、台座には自由に射角を変えられる関節が着いていた。


「…嵌められた!!」


アユムも呻いた。ハジメが当初から感じていた違和感、レーダーの酒田機の反応が弱すぎる理由がこれだったのだ。酒田機は最初から、ここにはいなかった!!


「最上さんっ!!」

アユムは叫ぶ。しかし反応は無い。


「最上さん…最上さん!!」

アユムは通信機に叫ぶ。永遠にも思える静寂。モニターの最大望遠で、エイジ達が向かったはずの狙撃地点を見れば状況が分かる事にようやく思い至った直後、通信機に応答があった。


『………こちら久野…』


聞こえてきたのは長らくエイジの側にいた女性の声だった。


「久野さん!?な、なんであなたが…!?」


おまけに通信のバックには何やらうるさい警報が鳴っている。


「最上さんは!?最上さんはどうしたんですか!?」


     ※     ※     ※


数刻前、狙撃地点…


「た………タイチョー…!!」


シノブ機の足元には、グリーン迷彩塗装の装甲を穴だらけにしたエイジ機が転がっていた。


『以前のあんただったら、迷わず久野を見捨てたんだろうし、そもそもこんな単純な罠にも嵌まらなかっただろうが、女に溺れて堕落したな、最上隊長!!』


ガシャン、ガシャン…徐々に歩み寄って来る酒田機。右手には標準型のパーティクルキャノン、腰にはパーティクルブレードとダガー。近接戦の武装だ。狙撃地点にたどり着いたエイジ機とシノブ機は、付近に隠れていた酒田機の奇襲を受け、エイジ機はシノブ機を庇ったのだ。


「逆さピラミッドの上からの狙撃は囮で、最初からここに隠れて遠隔操作してたんスね…」


『ご名答。褒美に隊長と一緒にあの世に送ってやるぜ。』


酒田機はゆっくりとパーティクルキャノンを構える。



「くっ…!!」『…っ!!』


シノブ機は両腕のクナイを投げ、反射的に酒田はトリガーを引く。一瞬だけ、酒田が早かった。シノブ機は両肘を撃ち抜かれたが、酒田機もパーティクルキャノンと、腰のブレードを破壊される。が、シノブ機はもう、投げたクナイを拾う事も出来ない。


『無駄な足掻きを…』

酒田機はパーティクルダガーを引き抜き、両腕を失ったシノブ機に再び近づいていく。

『最期に言い残す事は無いか!?』


「…タイチョーがアーシのせいで弱くなったってのを取り消せ。」


『事実を何故取り消す必要がある!?』

ダガーを振りかざす酒田機。かわいさ余って憎さ百倍だ。


「そうっスか、なら…」

コクピットのシノブはサブウィンドウを操作する。『本当に実行しますか?』という問いに、『Yes』をクリック。

「アータはオンナに負けるんスよ!!」


このために、キャノンとブレードを破壊した。酒田機が至近距離に接近する状況を作り出した。シノブは自機の千切れた両腕を横に広げ、叫ぶ。


「おっぱいミサイル!!」


次の瞬間、シノブ機の紡錘型の胸部装甲が、酒田機目掛けて飛び出した!


本来、アレッツの胸部には武器は搭載出来ない。コンバータが入っているためスペースが無いのだ。そこでシノブは、コンバータを胸部装甲ごと射出する機構を仕込んだのだ。誘爆の危険性があるため火薬等を仕込む事も出来ない。射出力はバネによる反発のみ。ダメージ源もコンバータと装甲の質量のみ。使えるのは1回だけの上、使えば武器のエネルギー源を喪失する。だが、軽量化しすぎて火力不足なシノブ機は少しでも攻撃手段が欲しかった。それに、この至近距離なら…


『ぐはぁ!!』


酒田機の頭部と胸部は、シノブ機のおっぱいミサイルに潰された。機体、沈黙…


「はあ…はあ……」


コンバータを失った機体が警報を鳴らしている。だが、立ち止まっている時間は無い。シノブは友軍全チャネルへ向けて通信を入れる。


「……こちら久野…酒田機と交戦し、撃破…ただし、最上、久野両機は作戦継続不可能。


『オペレーション・ビッグディッパー』の各機に告ぐ。当初のプランは現時刻をもって破棄。誰でもいい。継戦可能な者は、『アルゴ』に接近し、これを撃破せよ。」


     ※     ※     ※


同時刻、東京湾内の、宇宙戦艦『アルゴ』…


ブリッジではハンスやフランシーヌ等、クルーが忙しそうに計器を操作していた。


「『アルゴ』、発進最終シークエンスに入ります。」


その声を聞きながら、アドミラルは天井を仰ぐ。


(『アルゴ』には宇宙人どもの世界の地図データも入っていた。奴等の星に着いたら、北軍とやらの基地を集中的に攻撃して…南軍は…向こうの出方次第では、話に応じても良いか…)

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