22-5 勇気という名の奇跡
分断されてしまったアユム達7機。エイジの周りに残ったのはシノブ機とアユム機だけ。酒田機がこちらを狙っているが、唯一の反撃の手段を持つエイジ機は肩を撃たれている。アユム機がエイジ機に駆け寄る。
「最上さん、大丈夫ですか!?機体の状況を教えて下さい。」
「右腕エネルギー経路喪失!これでは武器は撃てない!!」
「どうするんスかぁ!?このままじゃあ4人とも狙い撃ちっスよ!!」
シノブ機が酒田機の方を警戒するが、彼女の機体にあんな遠くにいる酒田機を攻撃する手段は無い。
「………」
コクピットのアユムがリアシートのカオリの方を見つめ、カオリもコクンと頷く。
「最上さん、右腕のエネルギー経路の遮断器を落としてもらえますか!?」
「何を言ってるんだ!?そもそも経路が切れてるのに…」
「いいからお願いします!!それと久野さん、1分でいいですから時間を稼いで!!」
「…タイチョー、ショーネンに考えがあるなら言う通りにするしか無さそうっスよ…」
「………分かった。」
エイジはコクピットのサブウィドウを操作する。右腕エネルギー経路損傷の真っ赤なワーニングが止み、経路遮断の黒いメッセージに変わった。
「『インビジブル・コラージ』!!」
その瞬間、右肩を損傷したエイジ機に寄り添っていたアユム機が消えた。
「アユム君………?」
アユムの意図を図りかねているエイジ。
『蒼いのが消えたぞ…例の妙な技か…!?』
酒田機の銃口が動く。
(タイチョーを撃たれる訳にはいかないっス…でも時間を稼ぐなんて、どうやって…こうなったら…)
一瞬旬重したシノブだったが、コクピットの中で伊達メガネを外し、女神モードになり、
「お願い酒田さんやめて!!私達は仲間でしょう!?」
目をうるませるシノブ。すると酒田が、
『久野シノブさん………あなたは、エイジ隊全員の女神だった!!それを、それをあんたはあんなくだらない男、一人の物に!!』
シノブは慌てて伊達メガネをかけ、
「ちょ!女は物じゃねーっスよ!!アーシにだって男を選ぶ権利があるっショー!!」
『俺は最上隊長とは違う!!眼鏡なしのあなたを受け入れられる!!』
「最上タイチョーは眼鏡ありのアーシも受け入れてくれたっスよ!!」
『お、俺の物にならないなら殺してやる〜〜〜!!』
「キモい〜〜〜っ!!」
あとはひたすら、逆さピラミッドの上からヒュンヒュン飛んで来る光弾を、あるいは避け、あるいはクナイで受け止めるシノブ機。永遠とも思える1分が、そろそろ経過した頃…
不意にアユム機が、エイジ機の隣に再び現れた!
「今です最上さん、遮断器を上げて!!」
言われるままにエイジは遮断器を上げると…断線していたはずの右腕エネルギー経路から警告メッセージが消え、エネルギーの導通を示す緑色の表示が明々と示されていた。出力90%…これなら…
「…2人ともご苦労だった。後は私がやる。」
エイジ機は背中に搭載していた、半球形の部品を取り出す。頭の上半分を覆う、大きなトサカの着いたヘルメットの様なそれを、エイジ機の頭部に被せる。トサカの前方には、遠距離狙撃用のセンサーが着いている。今回の作戦のために用意した、追加兵装だ。
一部始終を超長銃身パーティクルキャノンのスコープ越しに見ていた酒田は、何が起きたのか分からなかった。確かに右肩を撃ち抜いたはずのエイジ機が、背中で分割されていた超長銃身パーティクルキャノンを組み立てたのだ…
エイジ機は右膝のスパイクで立膝をつき、左脚のシールドを展開する。
「貴様に不満があるのは分かった。続きは後で聞こう!!」
タァァァァァン!!
エイジ機の超長銃身パーティクルキャノンから放たれた光弾は、遥か前上方、逆さピラミッドの上に消えていき…ややあって爆発。
「やったっスか!?」
それ以降、酒田機の通信は途絶えた。
「最上さん…右肩は大丈夫ですか!?」
アユムは言ったが、エイジは静かな声で、
「アユム君…君は、何て事を………」
どうやらエイジは、『インビジブル・コラージ』の正体に気づいたらしい。
「そーいえばショーネン、あの変な技は一体何なんスか!?敵をバラバラにしたかと思ったら、『天使』の『サテライト』を誤作動させたり、今回はタイチョーの機体を直したり…」
「そ、それはいずれ話します。最上さんと久野さんは狙撃地点へ向かって下さい!!僕は、あの酒田機を倒して来ます!!」
アユム機は飛行ユニットを展開し、逆さピラミッドへと飛んで行った。
「タイチョー…ショーネン…」
状況を読めないシノブに、エイジは、
「…我々も行こう。今は作戦行動中だ…」
エイジ機とシノブ機は、狙撃地点を目指す。
はぐれた4人の仲間の状況に、一抹の不安を感じながら…




