22ー2 お台場の戦い
敵を退けて侵攻する7機の目の前に、時計回りに大きく旋回する巨大な橋が見えた。この橋を渡ればお台場だ。だが…
「僕達を警戒して落とすと思ってたのに、落とされてませんね…」
アユムが言うと、エイジが、
「橋を残しておけば侵攻路を限定できると考えたか…」
「待ち伏せしてる危険性が高ぇな。こういう立体的な建造物だと…」
レオが言うとアカネが、
「あるいは途中に爆弾でもしかけて、私達を全員落とすか…」
「いずれにしてモ、バカ正直に渡る必要ハ無いわネ。」
ソラが自機の追加ブースターを切り離して、飛行能力を持たない4機へ装備させる。郡山でアユムやレオと別れた後、ソラ機は更に3機の追加ブースターを増設された。レオから返却された物も含めて合計4機だ。
「翼ヨ、あれがバリの灯ダぁぁぁぁぁ!!」
ソラの妙な掛け声とともに、離陸する7機。リンドバーグはいつの間に太平洋を横断してたのだろうか…ちなみに追加ブースターは実質2機分の重量を持つハジメ機も、余裕で飛ばせている。
「ああっ!!汚ねぇ!!」「空飛ぶんじゃねぇ!!」
案の定レインボーブリッジの上に多数のアレッツが現れた。一斉にこちらにパーティクルキャノンを射出するが、三次元的に動ける7機には当たらない。加えて向こうは橋の上で動きが制限される。
「「うぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」」タタタ…
空中戦に一日の長があるアユム機とレオ機の砲撃によって、橋の上のアレッツは次々と撃破されて行く。
「来たワネ…」
前方、お台場から複数の機影が飛来した。腕にあたる部分に鳥の翼の様な多関節飛行ユニットを搭載し、足にあたる部分にランディングギアを兼ねた腕を生やした、鳥型飛行アレッツ。他ならぬソラ自身がアドミラルに技術供与した、アドミラル子飼いの航空戦力である。
「裏切り者を墜とせー!!」「『アルゴ』離陸までに片付けろ!!我々は、宇宙へ行かなければならんのだ!」
(そんな事させる訳にハ行かないっつーノ!!)
前に出たのは紫色の魚型可変アレッツ。網木ソラ機だ。魚型に変形するアレッツは一般的には水陸両用機で、魚形態は水中航行用と認知されているが、本来は大気圏内飛行用で、水流制御用とされていた全ての機能は空力制御のための物だったのだ。津軽海峡を渡ろうとして遭難しかけていたアユムを助けて以来、アユムの旅の行く先々で現れる謎の人物だ。そして、鳥型アレッツの技術はソラ自身が供与した物だ。だから彼はその構造を知り尽くしている。あの翼は完全に独立した低出力飛行ユニットを、関節で結合させた物だ。だから…
「死なないデ、ちょうだいネ!!」
ソラ機が両腕のアンブレラ・ウェポンを射出すると、鳥型アレッツの両翼の中程に当たった。鳥型アレッツは機体重量を支えきれる揚力を得られず、かと言って即座に墜落するでもなく、徐々に高度を落として行った。あれなら陸でも海でも軟着陸出来るだろう。
程なくして海を渡りきり、お台場へ上陸する7機。それを追いかけるように海から魚型可変アレッツが上陸する。先頭のリーダー機と思しき機体はカジキマグロの様な長い角を鼻先に伸ばしており、人型に変形すると鼻先の角を外して右手に持った。パーティクルブレード…いや、ランスらしい。
「てめぇはこないだのロリっ娘とミルフだな!!」「まさか『ジョシュア』の女将軍だったとはなぁ!!」「よくもコンクリに埋めやがったな!!あの後掘り起こすの大変だったんだぞ!!」
どうやら彼らはお台場でアカネに絡んできた男達らしい。
「その機体、茨城か!?『水戸藩』の『大洗海軍』…いや、」
「『霞ヶ浦水軍』だ!!あんな水槽の金魚と一緒にすんな!!」「俺達は泣く子も黙る水賊だ!!」
「貴様等は我が『ジョシュア王国』にも水戸藩主直々にお達しが来ている。『生態系を荒らす外来魚は駆除してくれて構わない』とな。」
「うるせぇ!!あれだけ仲が悪かった北関東が、世の中が荒れた途端に手を手を結びやがって!!」「お陰でこちとらおまんまの食い上げだ!!」
「…傭兵紛いの事を続ける貴様等より、民を守る側についた『大洗海軍』の方がましだと思うのだがな…」
「御託はもういい!ロリっ娘共々まとめてブッ殺してやる!!」
魚型可変アレッツが揃ってパーティクルキャノンを構える。念のため言っておくが、彼等はソラ機とは肉親関係ではない。
「うおおおおおっ!!」ドガガガガ…
青い雌のケンタウロスと言った風の小鳥遊ハジメ機が、両腕のアンブレラウェポン(ガトリング)を乱射する。元廃墟暮らしの孤児…SWDチルドレンで、アユムと出会ってアレッツ乗りになって、宇都宮に出来た『ユニヴァース及びパレス連合王国』…通称『ユニバレス連合』自警団に所属する、弱冠13歳の少女だ。乗機は後方支援特化型で、低いレアリティでガトリングガンを撃つ出力を得るためと、射撃時の安定性を得るために、2機のアレッツをケンタウロス型に組み合わせ、広範囲を見通すレーダーまで搭載した機体だ。
(少年兵である今のボクをの身の上を、不幸だなんて思わない。ボクは今、自分の翼で飛んでいる。)
「…お前達の目当ては私だろう!?」
前に出てきた深紅のアレッツ、パイロットは舞鶴アカネ。エイジとシノブの元教官で、現在は群馬に出来た『ジョシュア王国』自警団の女将軍だ。別れた夫との間にはハジメと同年代の娘がいるらしい。そして乗機は胸部の左右が狭い代わりに前へ突き出ており、太腿が太く膝下が細い、所謂女性体型アレッツであった。しかも、アユムとの戦いで損傷した左腕は、肩からマントのような分厚い、フレキシブルに曲がる物体が下がっていて見えない。
「へっ!腕を直してないのかぁ!?」「構わねぇ!やっちまえ!!」
数機の野盗機がアカネ機に突進して来るが、アカネ機は右手に持った武器…鞭型パーティクルブレードを、右半身を前にして突き出す。
「ハァッ!!」
裂帛とともに振り回された右手のパーティクルブレードの剣身は、ワイヤーで繋がれたいくつもの短い刃に分かれ、名前通り鞭の様にしなり、無謀にも突っ込んできた敵機を切り刻んでいった。
そして、敵に対して反対側の左半身…マントが、風にたなびく様に舞い上がり、先端からジェット噴射の様なものを吹き出し、アカネ機は変幻自在に宙を舞った。もう誰も、アカネ機に追いつけない。
ロボット兵器の最も非実用的な点は、前方投影面積の広さ…的になりやすいという事だった。これをアカネ機は、横を向く事で前方投影面積の軽減を図った。攻撃に使う右腕を前に、左腕のマント…移動手段を後ろに、戦闘時は常に右を向いて行動する。さながらフェンシングの様に…
「あのババァを取り囲め!!」「いいか!?タイミング合わせろよ!!」
「む…!?」
いつの間にかアカネ機は取り囲まれていた。複数の魚型可変アレッツが、一斉にアカネ機に襲いかかる。
「「「行くぜぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」」」
「ムンっ!!」アカネ機は鞭型パーティクルブレードを振り回し、ブレードはアカネ機の周りで大きく円を描く。
「「「今だっ!!」」」
寸でのところでブレードが当たる瞬間、取り囲んでいた野盗機は一斉に飛び退いた。鞭型パーティクルブレードは、ロックオンした敵を自動追尾しているもの。だから複数の敵で取り囲んで一斉に接近した後に後退すると、ブレードの各剣身は後ずさる標的を追ってあらぬ方向へ伸びてゆく。かつてハジメが、そうして攻略しかけた様に…だが、
クイ! アカネ機の右腕がブレードの柄を引っ張ると、剣身は標的を追うのを止めた。そのまま腕を前に突き出すと、剣身はまっすぐに伸び、正面の敵に突き刺さった!
「あ”………」
そのままアカネ機は自身を軸にしてブレードを横に回転させると、周囲の魚型可変アレッツは横一文字にぶつ切りにされた。
アユムの提案だった。ハジメの攻略法が『ウォッチャー』の配信動画によって敵に周知されている危険性を考慮して、アカネ機のブレードのロックオンのアルゴリズムを改造したのだ。アユム曰く、『やんちゃ』だったブレードを、『従順だが必要な場合は我を通す』様に改良が加えられ、アカネ機の弱点は払拭されたのだった。あとはアカネや『ジョシュア王国』が仙台に攻めて来て、アユムが改良した武器を自身へ向けられる事が無い様に祈るばかりだ…
鞭型パーティクルブレードを引き寄せながら、アカネは、
「ふっ…他愛もない…」
すると後ろからハジメが、
「ところで舞鶴さん、『ミルフ』って何ですか!?」
「…君は知らなくていい事だ…」




