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1ー1 壊れた世界を 歩み始めた

西暦2053年 8月、北海道某所…


今、あたしの身に起きている事を説明する前に、1年前、『スペースウォーズ・デイ』以降に起きた事を説明した方が良いだろう。


多くの人々が死に、街が破壊された後、生き残った人たちの多くも身体や心に大きな傷を負ったが、それでも力を合わせ、助け合って生きていった。


水道もガスも止まり、インターネットすら繋がりにくくなった、不便な暮らし。


商店やコンビニは、しばらくはまともに取引をしていたが、実はこの頃から、一部の人々による買い占めが横行し、陳列棚はすぐに空になった。


そして…いつまで経っても誰からもどこからも救援が来ない事から、私達は気づいた。

いいえ、もうとっくに分かっていた。


もう助けは来ない。世界中どこもこんな感じなんだ、と。


春が来たら都市部を捨てて、郊外に畑を作って、自給自足の生活をしようという事になった。


でも…


冬の凍死者の続出が、減って行く備蓄食料への不安が、一部の者達を堕とした。


やがて春が来て…


クレーターと宇宙船の残骸が散らばる郊外に、あたし達はわずかな畑と粗末な家を作り、自給自足の生活を始めたが、


彼らはこっちに加わらなかった。


彼ら…奴らは野盗と化し、あたし達が苦労して作った作物を、暴力で奪う側にまわった。


あたし達が住んでいる村が、まさに今、3人の野盗に襲われている。それが、今、あたし達が置かれている状況。


しかも悪いことに、


よこしまな奴らには「力」があったのだ。暴力を行える力が…


     ※     ※     ※


彼女の目の前には、彼女と村に住む男たちが、必死になって作った粗末な、けれども大きなバリケードが築かれていた。が…


「グェフっ!グェフっ!グェフっ!!」

「こんなもんで俺たちが」

「止めれるとでも思ったのかぁ!?」


3人の野盗どもはそのバリケードを腕の一振りで、いとも容易く破壊した。


もちろん、己の腕で、ではない。


3人はロボット…そうとしか見えない物に乗っていた。


全高4〜5m、腹部が4本のパイプで構成されている以外は、頭も両腕も2本の脚もあるマッシブな人型をしている。背中に箱の様な物が着いており、そこが操縦席で、パイロットの野盗どもは、そこに肩から上だけを出して乗って、操縦桿とペダルで操縦しているのだ。


「スペースウォーズ・デイ」で墜落した宇宙船の中から、稀に見つかる、異星人の人型兵器。


『アレッツ』…


奴らはそれを発掘(サルベージ)し、暴力の道具として使っているのだ…


「無駄な抵抗ご苦労さんだったなぁ〜〜〜さぁ、手間ぁ取らせた分、持ってる食い物みぃんな出してもらおうかぁ〜〜〜グェハハハハハ!!」


中央のアレッツに乗る大柄な男が野太い声を上げた。ゴリラやらカバやらの遠縁に当たりそうな顔をした、特徴的な笑い方をするそいつ…『ダイダ(本名不明)』が、野盗のリーダー格なのだ。


「グェハハハハハ…」ゴンっ!「………あ”〜〜〜!?」


不意にアレッツに乗ったダイダに石が投げつけられ、彼は苛立ちながら石が飛んできた方向を向く。


「あ…あんた達なんかにくれてやる物なんて無いよ、!!」


石を投げたのは20歳くらいの快活そうな女性。だが見上げるばかりの鋼鉄の巨人3体に敵うとも思えず、その口調には恐れが混じっていた。


「お…お止しよ、カオリちゃん…」


側で中年の女性が、狼狽えながら『カオリ』と呼ばれた女性を止めようとした。


「またお前かぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜性懲りもなく…」


ダイダのアレッツはカオリへと向き直った。


おるるぇぁ気の強ぇ女は大っ嫌ぇなんだぁぁぁ〜〜〜女ってぇのはいじめたらいい声で泣き叫ぶくるるぇがちょうどいいぜぇぇ〜〜〜」


ダイダは高い位置のコクピットからカオリを見下ろすと、威圧的なひどい巻き舌で怒鳴り、カオリを睨みつけた。


「あんたに好かれたってしょうが無い!!」


カオリもダイダを睨み返した。この状況で中々に気の強い女性である。


「なら…どれだけいじめたら泣き出すか試してみるるかぁぁぁぁ〜〜〜!!」


ダイダ機はその腕をカオリへと伸ばす。


「うわぁぁぁ〜〜〜」「ひぃぃぃ〜〜〜」


周囲から悲鳴が上がる中、カオリはその整った顔を眉一つ動かさない。そこへ…


ウィィィィィ…「え!?」


いつの間にどこから走ってきたのか、モーター音を響かせた1台のスクーターが、ダイダ機の伸ばした腕とカオリとの間に割って入る様に駆け抜け…乗っていたヘルメットの人物がスクーターを横倒しにしながら降りて…こちらにヨロヨロと歩いて来る。


「………」「何だぁぁ…!?」


カオリとダイダが、他の野盗2人や村人達もあっけにとられている中、その人物はフルフェイスヘルメットをかぶった頭を両腕で掴みながら近づいてきた。あっちへヨロヨロ、こっちへヨタヨタ…中々に不気味だ。そして…カオリにぬっ、と頭を突き出すと、



「すみません…ヘルメット脱げないんですけど…外すの手伝ってもらえますか!?」



ド ド ド ド ド ドっ!!



村人たちと2台の野盗アレッツが、きれいにズっこけた。


「ごめん…あたし達も今結構取り込み中なんだけど…」

カオリは言ったが、

「…こっちだって困ってるんです…すみません…」

ヘルメットの主は男性の様だ。それにしては背が低い。カオリと同じくらいだろうか。

「しょうが無いわねぇ…」

カオリは男…いや、声からすると少年か…少年のヘルメットに手をかけて、無理やり引っ張ろうとする。

「イテテ…」

「ん!?あなた…メガネかけてるんじゃないの!?」


「あ…そうだった…これが引っかかってたんだ…」


少年はゴーグルを上げるとメガネを外し、ヘルメットを取ってメガネをかけ直す。現れたのは気の弱そうな少年の顔。しかも背の低さのせいでかなり幼く見える。


「ありがとうございます。あなたは僕のヘルメットの恩人です。」

少年はカオリに一礼する。

「どういたしまして…妙な恩人になっちゃったわね…」

「おい!」


トンチンカンな会話にダイダが不機嫌そうに割って入る。


「どこかで聞いた声だと思ったが…お前ぇ、渡会(わたらい)かぁ!?」


「………だ…ダイダ!?」


渡会と呼ばれた少年が悲鳴を上げる。


「なぁに!?あんた達知り合いなの!?」


「ん…ああ。おるるぇとそいつぁ小学校ん時かるるぁの大の親友よぉぉ!!なぁ、渡会アユムちゃぁん!!」


ダイダが妙になれなれしそうに少年…アユムに話しかける。


先程の登場と合わせてアユムへの周囲の目が一気に胡散臭げになる。


「そいつぁおるるぇと同じ野盗でよぉぉ、ものすげぇ強ぇぇアレッツに乗って、あちこちのむるるぁを荒らし回ってんだぜぇぇ〜〜〜」


ヒソヒソ… ヒソヒソ… そう言えばこいつら、互いの名前を知ってたな…


周囲の冷たい視線にアユムは尻込みし、


「ち…違…」


蚊の鳴くような声で何か言おうとする。


「ああああああああ〜〜〜〜〜!?ダチじゃねぇなら何なんですかぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?

みんなに聞こえる大きな声で言ってくるるぇませんかぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?

ねぇ〜〜〜〜〜、渡会アユムきゅぅぅぅぅん!!」


「ぼ………僕は……そ、そいつに………」


「ああああああああ〜〜〜〜〜!?何だってぇぇぇぇぇ!?」


「………い…」


「聞こえねぇぞぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!」



「僕は、そいつに、小学校の頃からずっといじめられてたんだ!!」



顔を真っ赤にして叫ぶアユム。



「「「………」」」



カオリの、村人たちの、長い沈黙。



「グェアァァァァァッハッハッハ!!!聞いたかみんな!!」

ダイダは不快をバラまく様な笑い声を上げ、そしてクネクネと気持ち悪く身体をくねらせると、


「『僕ちゃん、ずぅぅっとイジメられてて、悲しかったんですぅぅぅ』ってかぁぁ!?

惨めだよなぁぁぁ!?、渡会アユムちゅわ~~~ん!!」


「………ま、こいつ(ダイダ)のこれまでの素行を考えると、そっちの方が納得だけど…」


村人たちのアユムへの不信感は完全に払拭された。だが…この場に一番役に立たない人物の登場に彼らは絶望した。ていうか、ダイダはあの外見(ナリ)でアユムと同い年なのか!?


おるるぇだって寂しかったぜぇぇ〜〜〜お前が突然転校しちまってよぉぉぉぉ〜〜〜!!

お前ぇはおるるぇの一番のお気に入りのおもちゃだったかるるぁなぁぁぁぁ!!

おるるぇぁお気に入りのおもちゃは、叩いて、蹴って、突ついて、バラバラにブッ壊しちまうんだぁぁぁぁぁ!!!!!」


「………それで最後は、火をつけて燃やすのか!?」

アユムが絞り出す様な声で言った。


「あああああ〜〜〜〜〜!?あるるぇは知らねぇつったろぉぉぉぉぉ!!」


     ※     ※     ※


アユム、中学生の頃…


ある日、アユムが学校の廊下を歩いていると、向こうからダイダが歩いてきた。そして、


「渡会ぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜…」


ダイダは自然な感じでアユムに近づくと、地の底から湧き出る様な低い声で、


「一発殴らせろぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!」


バキっ!!


アユムの頬を全力で殴った。


ダイダは、頬を押さえて廊下に転げるアユムには目もくれず、またツカツカと廊下を歩き去って行った。


何故、殴られたのか、理由に心当たりは全く無かった。強いてあるとすれば、ダイダの虫の居所が悪かった。ただそれだけ。それだけの理由で、アユムは頬が内出血を起こし、口から血が出る程殴られた。


アユムの小中学校時代は、おしなべてこんな感じだった。学年中の者たち、特にダイダに、激しいいじめを受けていた。


女みたいな名前だから、身体が小さくて体育も苦手だから、そんなたったそれだけの理由で、人間は同じ人間を攻撃の対象にする。


アユムはロボットアニメ、特に、リアルロボットアニメという奴が大好きだった。


ロボットものでありながら、ある程度のリアリティを考慮したその作風が、背伸びしがちな年頃に合ったのだろう。大昔のリアルロボットアニメブームの火付け役になった作品の、最新のシリーズ作に夢中になり、プラモもたくさん作り、部屋に飾っていた。


ある日、


ダイダがアユムの家を訪ねて来た。アユムの帰宅前を狙って、「自分はアユムの友達だ」と嘘をついて。


ダイダの事を知らなかった母親は、彼をアユムの部屋に通すと、お茶を持ってこようと階下へ降り、そして、部屋へ戻って来たところ、ダイダと、飾ってあったプラモが丸ごと無くなっていた。


家へ帰ってきたアユムはその事に悲鳴を上げ、必死でダイダを探すと…アユムのプラモ達は、何者かに公園で火をつけられて燃やされていた。


状況からするとダイダがやったに違いなかった。だが彼を問い詰めても、「俺が来たときには既にプラモは無かった。おばさんに断らずにすぐに帰ったのも用事を思い出しただけ」ととぼけた。目撃者も証拠も一切なかった。


プラモは…直しようがなかったから捨てざるを得なかった。


ごめんよ…僕なんかに買われて、作られたばっかりに…


アユムは人目もはばからず大泣きし、そしてそれ以降、プラモ作りをやめた。


     ※     ※     ※


再び現在、アユムの昔語りを一通り聞かされたカオリは…


「………昔からとんでもない奴だったのねぇ…」


「グェハハハハハ!ロボットマンガ(アニメ)おもちゃ(プラモ)なんてガキの趣味だぜぇぇぇぇぇ!お前ぇのおもちゃを燃やした誰かさんは、お前ぇがガキを卒業する手助けをしてくれたんだぁ!むしろ感謝して欲しいぜぇぇぇぇぇ、グェハハハハハ!!」


「…なのに今じゃそのロボットに乗って…!!」昔の悔しい記憶を思い出したのか、涙ぐむアユム。


「あああああ〜〜〜〜〜!?おるるぇは柔軟なんだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜。世の中が変わればそれに合わせるし、便利な道具は使うんだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」


「プロトアレッツ…よくそんなのに乗ってられるなぁ…」


「こいつはいいぜぇぇぇぇぇ〜〜〜!!いじめと盗みと暴力にはうってつけの道具だぁぁぁぁぁ〜〜〜」

そう言ってダイダは自身のアレッツ…プロトアレッツの両腕を上げてみせると、周囲の村人から「ヒっ!」と悲鳴が上がった。


「さぁ渡会ぃ、長い事ご無沙汰だった分、いじめ壊してやるるぉうかぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!お前ぇら、やっちまえぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!」と、子分達に号令するかの様にプロトアレッツの右腕を振り下ろす。が、



「………あー、それは無理だと思うよ。」



アユムがボソっと言った。怪訝な顔をしたダイダがあたりを見回すと、子分2人のプロトアレッツが、うつ伏せと仰向けに倒れたまま、パイロット2人が、コクピットから出されて縄で縛られていたのだ。


「ど、どうしたお前ら…」


「………プロトアレッツって、本物のアレッツほどでも無いけど、それでも結構、大きいよね…4mかな、5mかな…1階の屋根か、2階くらいはあるかな…」

「何言ってるの、あんた…」

「……2階にかけたはしごの上に人が乗ってて、そのはしごが突然倒れたら、上に乗ってる人はどうなるかな…」


アユムの登場でプロトアレッツごとズっこけたので、乗っていた子分2人は4〜5m落ちたのとほぼ同じ衝撃を受けて気絶、アユムの長話の最中に、無抵抗のまま村人達に縛られたのだ。


「プロトアレッツ…本当によくそんな物に乗っていられるね…パイロットシートに衝撃吸収機能(ショックアブソバー)すら無いそんな物に…」


「くっ………」


縛られた子分達に村人が、「こいつらどうする!?」「どこかに放り込んでおけ」と話をしている。


「てめぇぇぇぇ、おぼえてろよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


………ダイダ機は、ドンゲンドンゲンという足音を響かせて、手下2人を見捨てて逃げて行った。


村は………助かった。


不意にアユムは、ぐらっと倒れる。


「あ…キミ…!!」カオリがアユムに駆け寄ると、


ぎゅるぎゅるぎゅる…と、アユムの腹が情けない音を立てる。


「…あのー、すみません…何でもいいから、食料を分けていただけませんか………」


更に情けない声で、アユムは言った。



落星機兵ALLETS 〜いじめられていた僕がロボットものの主人公になるまで〜


第1話 矢立の初め

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