22-1 埠頭の戦い
第22話 オペレーション・ビッグ・ディッパー
西暦2053年、11月、旧東京都港区、芝浦ふ頭…
積み重ねられ、並べられたまま打ち捨てられたコンテナの陰に、ビルドもカラーリングもまちまちの数機のアレッツが潜んでいた。
「襲撃があるって言っても、たった7体なんだろう!?」「なら楽勝じゃん。」
彼等は日本中から集まったアレッツ乗りだった。野盗もいれば、各地に興った新しい国の自警団もいる。彼等だけではない。この埠頭のあちこちに、彼等と同様の急ごしらえのアレッツ部隊が配備されているのだ。
「その7機をスクラップにして、『アルゴ』が無事発進してくれれば、俺達は晴れて、悪しき宇宙人を討ち滅ぼすのに一役買った英雄様か…」「アドミラルから前払いで大量の物資をもらってるからな…」「後は、宇宙に上がった連中が宇宙人を全滅させて帰ってきてくれれば俺達は安泰だし…」「帰ってこなければそれはそれで我が世の春だな。」
アドミラルの下に再集結したアレッツ乗り達の中には、この様な輩も一定数いた。アドミラルに賛同はするが、宇宙へまでは行きたくない、という連中が…それは、アドミラルも織り込み済みで、彼等は打ち上げを阻止しようとする『逆賊』への迎撃のために配備された。『逆賊壊滅後、余力があれば「アルゴ」に乗船すべし』とは言われているが…宇宙の旅に付き合う奴等は少ないだろう…
タタタ…タタタタ…… 向こうから銃声が聞こえた。
「おいでなすった…いくぞ、お前等!!あと、お前…」
リーダー格のアレッツは、隅に座り込んでいたボロボロのアレッツ…単眼に全身真っ黒で両腕だけが血の赤の機体に顔を向け、
「ダイダ…だっけ!? お前、足、引っ張んじゃねえぞ。」
『グェ…』
※ ※ ※
「うおおおおおっ!!」タタタ………
サブマシンガンの様なパーティクルキャノンを連射しながら、グリーン迷彩のアレッツが躍り出る。『エイジ隊』リーダー、最上エイジの機体だ。アレッツで武装したプロの軍人で、混乱した世界に秩序と安定をもたらすために、青森の下北半島から、各地の野盗を討伐しながら陸奥を南下し、長野の軽井沢暫定政府の元に身を寄せていたが、アドミラルのメッセージを受けて上京、アドミラルの宇宙人への復讐という野望を阻止するために立ち上がった。
「タイチョー!!少しは自重して下さい!!アータはこの作戦の要なんスから!!」
イエローの女性型アレッツのパイロット、久野シノブが言う。彼女は元エイジ隊のオペレータで、長野に入って以降、戦力不足を補う形でアレッツ乗りになった。穏やかな女神とハイテンションな悪魔の二面性を持つ女性だ。エイジに想いを寄せていた様だが…それも通じ合ったらしい。
「しかしシノブ君、我々はあまりにも寡兵だ。狙撃地点までは私自身も戦わないと…」
「あーもう、そーっスけど〜〜〜!!」
エイジ機は酒田が抜けた穴を補う形で、狙撃型に臨時改修された。かつてのハジメ機第2形態の様に、右膝にスパイク、左膝下に折りたたみ式のシールドを取り付け、背中には分解収納された超長銃身パーティクルキャノンと、増設型の遠距離狙撃用センサーを背負っている。
「いたぞーーーっ!!」「あの緑色のを狙えーーーっ!!」
向こうから迎撃部隊が襲ってくる。狙いはエイジ機らしい。
「あーもう、させないっスよ!!」
イエローのシノブ機がエイジ機の前に躍り出る。細身の女性型アレッツだが、胸部は不釣り合いに巨大な紡錘型のふくらみが2つ着いていた。
「とうっ!!」
シノブ機は見た目通りの忍者の様な俊敏さでジャンプ!そして空中で、
「ドロン!!」
ヌルリと消えた。シノブ機特有の機能、忍法隠れ身の術…ステルスである。機体色のイエローはステルス装甲の非発動時の地色だったのだ。
「「!!??」」
迎撃部隊が突然消えたシノブ機に戸惑う次の瞬間、
「忍法、分身の術!!」
目の前に2機のイエローアレッツが現れた。
「な………!?」
迎撃部隊の手が止まった一瞬、左のイエローアレッツ…シノブ機が、両手に持ったクナイ型パーティクルブレードを投げ、2機を撃破、残る機体もシノブ機の手に戻ってきたクナイで斬られて倒される。一方、右のイエローアレッツは、何もせずに地面に倒れた。
乗り手のいなくなって、最低ランクのレアリティCに戻った寒河江機を、ただ黄色に塗り直しただけのもの。それを、ステルス解除とともにブリスターバッグから起動したのだ。ステルスと組み合わせる事で更に敵機を混乱させられる様になった。
「けっへっへ…アーシの機体もうサイキョー!!ついでにおっぱいミサイルも撃っちゃおうかなー…!?」
「…胸部に入り切らんし、そもそもコンバータが入っているから武器を着けられんだろう。」
彼女の上官兼恋人は、あくまでも辛辣だ。
ギャ オ ォ ォ ォ ォ ォ!!
鋼鉄の獅子が吼えた。黄金の様なオレンジ色のライオン型アレッツ、氷山レオ機である。ライオン…いや、徐々にその姿が変わっていく。ライオンの背中に翼が生え、獅子の顔が猛禽のそれへと変化し、飛んだ!!『グリフォンフォーム』…郡山自警団は元は野盗団で、レオはその頭だったのだが、アレッツのカスタマイズやメンテナンスを専門に行うメカニック…犬飼という男を置いているのが最大の特徴だった。レオ機は犬飼渾身のテクニックによって、ソラ機から借りていた追加ブースターの完全解析に成功し、自前の翼を手に入れた。モーフィング変形でライオンからグリフォンへと姿を変え、飛行が可能となったのだ。
「うぉぉぉぉぉ!!」
名前通りレオが吼えながら、尻尾のパーティクルキャノンを地上の敵機めがけて連射!!迎撃部隊を次々とスクラップに変えていく。尻尾のキャノンはアンブレラウェポンに変更されており、尻尾先端のジョイントで接続されていた。
「どりゃぁぁぁぁぁ!!」
被弾するのも構わずに急降下するレオ機。顔やたてがみに散々穴を開けていたアレッツが、グリフォンの嘴で啄まれて倒れる。そして…
レオ機の顔が光に包まれると、先程の銃撃で受けたダメージがみるみる塞がっていった。
「どうだ…モーフィング変形には、こういう使い方もあるんだ!!」
それからレオ機は後ろのエイジ機に顔を向け、
「…そこのスットンキョー女の言う通りだ。あんた、今回は自重した方がいい。酒田って奴はアドミラルにあんたの事を売ったらしいからな…」
確かに…さっきの襲撃者は皆、エイジ機を狙っていた。彼が『アルゴ』を狙撃すると読んでいたのだろう。エイジとシノブは、
「…自重するのは君も同じだろう…モーフィング変形を利用した装甲修復といっても完全に直せる物でもなかろうし、削れて失われた装甲を、ある場所から補っているのだろうから限界もあろう。たてがみの先端が短くなっているぞ。」
「あと、スットンキョー女って誰の事っスかぁ!?」
「間違いなく君の事だろう、シノブ君。」
「あーダーリンひっどーい!!」
レオは呆れて、
「…夫婦喧嘩は余所でやってくれ。」
男所帯な上に元犯罪者で村人からも距離を置かれているため、ワイルドイケメンなのに女っ気が全く無いレオであった…




