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21ー12 明日の前日

かっぽーーーん!!


とある公衆浴場にやって来た8人。アドミラルとの最終戦闘前を翌日に控え、これまでの準備の疲れを癒やすためにも風呂に入る事にしたのだ。ここが東京のどこなのか、何故、宇宙人の攻撃でめちゃくちゃになった世界でも稼働しているのか、考えてはいけない。


「じゃばじゃばじゃばじゃば…」

女湯の湯船の中をクロールで泳ぐシノブ。

「ちょ…やめて下さい、シノブさん!!」

一緒に入っているカオリやハジメの顔にもお湯がかかる。

「………」

無言で立ち上がったアカネが、クロールから背泳ぎに変えたシノブの顔から牛乳瓶のメガネをむしり取ると、

「………キャっ!!わ、私、こんな格好で恥ずかしい!!」

赤面し、慌てて前を隠した。アカネは、はぁ…と、ため息をつき、

「…教官時代にあまりにも引っ込み思案だった久野に、自己暗示のつもりで伊達メガネをかけさせたが…効果がありすぎたな。」

と言って、シノブの顔にメガネを戻した。

「…私達しかいないが、大人しく入ってろよ。」

と言うと、シノブはシュンとなり、

「………ハイ。肩が凝るから大人しく入るっス…」

その拍子に胸がポヨンと揺れた。するとカオリとアカネも、

「確かに肩が懲りますね…」ポヨン。

「肩が凝るな…」ポヨン。


「………」

目の前の6つの球体に、ハジメは自分の胸に手を当て、


「…ボクも早く大人になりたい…」


だが、その言葉にカオリは苦笑し、

「あー、言っとくけど、20歳なんて、全然子供よ。」

「え…」


「昔ちょっと言ってたでしょ!?あたしは旅行先の北海道で記憶喪失になってたって…仙台に住んでたあたしが北海道にいた理由って…傷心旅行だったの。」


「そー言えば、カオリチャン、SWD前に付き合ってた人がいたって言ってたねー。」

シノブにそう言われてカオリは声を落とし、

「それなんだけど…酔わされてホテルに連れ込まれて、押し倒された所を巴投げしちゃったんです。先輩…彼氏とはそれっきり…」


「それはその男が悪い。」

アカネはにべもなく言ったが、カオリは、


「…1年間付き合って、キス一つ許さなかったんですよ、あたし…」

「…それは…20代の男女交際としてどーなんでショー…」

シノブが言ったが、アカネは「やっぱりその男が悪い。」と断言した。


「とにかく、ままごとみたいな男女交際をして大人になった気になって、先輩にずっとおあずけ食らわしたんです。子供ですよ、あたしは…」


「カオリさんが子供だなんて…」

ハジメは複雑だった。すると今度はシノブが、


「あー、言っとくけど、アーシもまだまだ子供っスよ。彼氏持ちだけどただのダメンズな所もあるっスし…」

「「………」」

するとカオリとハジメが呆けたような顔をした。シノブは慌てて、

「な、何っスか!?」


「…シノブさんが大人だとは思ってませんから…」「お風呂の中で泳いじゃうなんて…」


「がーーーん!!」

そのまま風呂の中に沈むシノブ。という事は、この中で大人の女は…カオリとハジメはアカネを見つめた。が、アカネはタオルで汗を拭きながら、


「…SWD前は、結婚したカップルの何割が離婚してたと思う!?私もその何割かの1人だ。」


「「え…!?」」

そう言えば、舞鶴さんみたいな女性と結婚する男の人って、どういう人なんだろうと思ってたが…


「…並の男より男らしい女に惚れて、世帯を持ちたいという奇特な男が現れ、私は母親にもなれた。しかし、その並の男より男らしい女に引け目を感じて、離れていってしまった。私が危険な仕事をしているからと、娘の親権まで持って行って、な。」


想像していた以上の重い話に呆然とするカオリとハジメ。アカネは続ける。


「…宇都宮侵攻直前に、偶然見たんだ。別れた元旦那が、見知らぬ女性と並んで歩いていたのを。女性のお腹には子供がいる様だったし、娘も新しい母親と仲が良い様だった。私は彼等、彼女等の平和な明日のためなら、命をかけて戦える。それでいいんだ…」


「う"う”う”…」

お湯に顔をつけたままだったシノブが、妙な唸り声を上げてブクブクと泡を出し、突然ガバっ!!と顔を持ち上げると、


「オーーーイオイオイ!! オーーーイオイオイ!!!」


アカネの話に、滝の涙を流して号泣した。


「ちょ…シノブさん!!」

「こんな所で…!!」


浴室は膝上まで浸水し、男湯にも一部が溢れたらしい。向こうからも、「うわっ!!な、何!?」「突然女湯から水が…!!」と、アユム達の声がした。


「サーセンキョーカン!!アーシ、キョーカンの事全然知らなかったっスぅぅぅ〜〜〜」


「あーもういい。気にしてないから泣き止め。」

アカネがそう言うと、シノブは泣き止み、水も引いた様である。


「…ま、つまり、彼氏が出来れば、就職して社会に出れば、結婚して子を為せば、女は幸せになれるという訳でも無いんだよ。もちろん、並の男をぶちのめせるだけの力を身に着けた程度でも、な…」

アカネの言葉に、ハジメと、カオリと、シノブは、


「なんか…あれこれ考えてもしょうがないのかなぁ…」

「ほんと…どうやったらなれるんだろ…いい女に…」

「なりたいっスね…いい女に…」


     ※     ※     ※


同時刻、男湯…


湯に使っていたアユム達だったが、突然女湯の方から聞こえてきた、「「「いい女になるぞーー!!」」」の女声四部合唱に、


「わっ!?」「な、何ヨ!?」「さっきは水が溢れてきたと思ったら今度は…」

エイジ、ソラ、レオは驚きの声を上げたが、以前に似たような経験のあるアユムはほのぼのと天井を見上げ、


「…あー、今日も女湯は平常運転だなー…」


     ※     ※     ※


再び女湯…


大声を張り上げた後のカオリは、

「ねえ、みんな…明日、がんばって、アドミラルをとっちめよう。そして、ハジメちゃんがいい女になれる、平和な地球を守ろう。」

「いい女になるのは、カオリチャンも、アーシも、ね…」

シノブが言うと、アカネが、

「…確かに…男共に世の中を任せると物騒な事ばかりしていかんな…」

「…舞鶴さん、どうしてあの王様の代わりに『ジョシュア』の女王様にならないんだろう…」


ハジメの問いに、アカネは不敵な笑顔を返すのみだった。


     ※     ※     ※


同時刻、東京湾…


その中央に停泊する巨大な物体に、アドミラルとハンス、フランシーヌ等は降り立った。


軍服を着た男女が敬礼で迎える。


「アドミラル、ようこそ、『アルゴ』へ。」

「うむ。」


アドミラルも敬礼を返す。部下達に先導され、宇宙戦艦『アルゴ』の長い廊下を歩きながら、アドミラルはハンスの報告を受ける。


「明日の出航へ向けて、部隊の再編成は完了致しました。もっとも、離陸を邪魔出来る者などおりませんが…」

「『スーパーノヴァ』…渡会アユム君は必ず阻止しに来ると思うがね…」

「…たった1人じゃないですか。」

「あと、裏切り者のミスター網木、『エイジ隊』の2人、そして、アユム君が長い旅の途次で知己を結んだ、郡山の百獣の王、宇都宮の少年兵、上州の女将軍は、彼に味方すると思う…」

「それでも、我等の戦力の方が100倍近いですね。」

「そう…だな。」

アドミラルの陰鬱な口調に、ハンスは気づいてか気づかずか、

「明日は何の障害もなく、宇宙へ旅立てますよ。我々にとって、未来への大きな一歩を踏み出すんです。」


アドミラルは思った。

(………我々にとって大きな一歩…だが、地球にとっては永遠に未来を閉ざす大きな後退となろう…)


     ※     ※     ※


再び公衆浴場、男湯…


浴室の天井を眺めながら、アユムは思った。

(明日…僕等は、アドミラルと戦う。そして…)

気になったのは、アドミラルからの3日前のメッセージの中の、『白き天使の同型機も我等とあり。』という一文。

(あいつ…『生きたおもちゃ』は、アドミラルの側についたな。あいつの悪名を慮って、『同型機』なんてごまかしてるけど、本人に違いない。


明日…僕はあいつと、決着をつける。)


     ※     ※     ※


同時刻、某所…


『天使』のコクピットの、光る空間の中で、『生きたおもちゃ』は思い出していた。

3日前の、渡会アユムの演説を…


「告白してくれた女の子に会って、返事を、ね…」


そして、思った。


「一体誰なんだ!?渡会アユムに告白した、もの好きな女は…!?」


確かアユムは、仙台に住んでたと言ってたな。


「仙台市じゅうの、監視カメラに、アクセス…」


『天使』の『全知』の機能は、この世にある全ての記録を知ることが出来る。


ヒットした。


「渡会アユムの周りには…いつも2人の女がいるな。気の強そうなこの女と、おとなしそうな女と…」


告白したのは、どっちだ…!?これだけじゃ決め手にならない…渡会アユムとお似合いなのは、こっちのおとなしそうな女だが、今、あいつが連れてるカオリって女は気が強い。本当にどっちだ!?


「検索範囲、拡大…」


媒体の種類の拡大、物理的範囲の拡大…ついに、『ある情報』にたどり着く。


「これか…これかぁ…名前は………『佐藤瑠璃(ルリ)』。」


アユムはこの子に会いに行こうとしてるらしい。


「どこに、いる…!?この女は今、どこに………いる!?」


情報の糸をたどり、たぐり………そして、


『生きたおもちゃ』の顔が、不気味に歪んだ………

おまけ1


今しも発進しようとする宇宙戦艦『アルゴ』の背後に、不敵に笑うアドミラルの顔が浮かび上がる。


アドミラル「フッフッフ…私はこの『アルゴ』で、宇宙人に復讐してやる!!」


アユム「そうはさせない!行くぞみんな!!」

他7人「「「おう!!」」」


熱い挿入歌が流れる中、


レオ機のライオンの頭部が分離し、残った胴体に前脚、後ろ脚が折りたたまれて、巨大な右膝下に変形。


ハジメ機の手足が折りたたまれ、腰部と左足、右太腿に変形。


アカネ機、エイジ機の腕が折りたたまれ、巨大な拳が出て、それぞれ左右の腕に変形。


アユム機、頭部と手足が折りたたまれ、胸部と腹部に変形。


レオ機の胴体が変形した右膝下、ハジメ機と合体して下半身を形成、アユム機とアカネ機、エイジ機が合体して上半身を形成、下半身と合体。


ソラ機、翼状に変形し、背中に合体。


シノブ機、巨大は頭部に変形し、合体。


最後にレオ機のライオンの頭を右手で掴み、胸に取り付け、完成。


アユム「七星合体、」

8人「「「グレートビッグディッパー!!!」」」


挿入歌終了とともに、パースの効いた決めポーズを取る、巨大ロボット。


     ※     ※     ※


シノブ「…っていうの、どうでショー!?」

アカネ「却下だ。的になりやすいだけで意味が無い。」

ハジメ「ボクとレオさんだけで残り5機分の重さを支えるんですか!?」

レオ「ジョイントと関節がいかれちまうな…」

カオリ「挿入歌とかパースとかって、何ですか!?」

ソラ「ホホホ…やっぱりアナタって、面白い子ネ。」

アユム「僕の機体が外からは全然見えないんですけど…」

エイジ「そもそも、ちゃっかり自分が一番目立つ場所を取るんじゃない!!」


     ※     ※     ※


おまけ2


アカネ「宇都宮侵攻直前に元夫が新しい女連れてた云々…」

カオリ(第四部で舞鶴さんが殊更邪悪だったのは、それで気が立ってたからなのかな!?)

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