21ー10 大切なものの ための戦い
一方、アユム達は…
1人、俯き、座り込むエイジを、アユム達は遠巻きに眺めていた。
敵は当初に匹敵する戦力を取り戻した上で、こちらは奴等の射程外から『アルゴ』を沈められる武器が無くなったのだ。発進阻止作戦の難度は、格段に上昇してしまった。
「…で、俺達はどうするよ!?」
レオが言うと、シノブが、
「ここに集まったのは、宇宙人への復讐よりも、あれから手に入れた物の方が大事って人達だと思うんスけど…」
「…問題は、『アルゴ』を行かせるのと止めるのと、どちらがより、『大事な物を守る』事になるか、よね…」
と、カオリが続けた。
「アドミラル達が宇宙人を滅ぼせればそれでいいが、並のアレッツが1000機束になっても敵うとは思えんしな。却って奴等を怒らせて、再侵攻される危険性が高い。」
「かと言って、放っておいても、宇宙人には地球を手に入れなきゃならない理由があるんだよね…」
アカネとハジメが言った。
「…で、結局どうするよ!?」
レオが再び聞いた。ここに集まったのは、いずれもその気になれば、アドミラルを止める事も、宇宙人を皆殺しにする事も出来るアレッツのパイロット。彼等の選択に、掛け値無しで地球の運命が決まってしまうのだ。
「…アノ動画にハ、3人のキャラクターが登場してタ。」
不意にソラが言った。
「何の事!?あの動画はほぼあの人物の一人芝居…」
「…奴等の星にハ、3人の人物…3つの勢力ガあるみたいナノ。
1つハ地球侵攻に反対シテル『南軍主流派』、
もう1つハ地球侵攻を推進してル『北軍』、
最後の1つハ『南軍』カラ分かれタ『南軍侵攻派』、南軍の中デモ地球侵攻ニ賛成シテル勢力…
ソシテ、アノ戦いハ、『南軍侵攻派』ト『北軍』ノ企てダッタ…」
「つまり、彼等の星には、地球侵攻に反対している人達もいる、と…」
アユムが言うと、ソラは、
「ソシテ、派手な同士討ちデ、『南軍侵攻派』ト『北軍』ハ、勢力モ戦力モ大幅に失ったハズ。1年も地球ニ再侵攻して来ないのガ、その証拠。今、あの星デ主導権ヲ握っているのハ、『南軍主流派』…」
「なら地球から攻めて来てその人達まで敵に回しちゃいけないじゃないですか!!」
アユムの言葉に、エイジはゆっくりと顔を上げた。
「みんな…これを見て下さい。」
アユムはブリスターバッグにとあるメッセージを映す。緒方氏の最後の置き土産。アドミラルから届いた再集結を促すメッセージを、アユムに転送してくれたのだ。
『全てのアレッツ乗り達よ、東京へ集え。
我等が山河を焼いた罪は、奴等の山河を焼いて贖わん。
愛する人を奪った罪は、奴等の愛する人の命で贖わん。
再び奴等が攻めて来る前に、奴等の星を滅ぼさん。
白き天使の同型機も我等とあり。
3日後の正午までに、再び東京へ集え。
アドミラル』
「なにこれ!ひどい!!」
ハジメが唸った。アルゴノーツは、ただの復讐者に成り下がってしまった。期日を切っているのは、出航までに集まってもらわなければならないからか。だが、この檄文に多くの者が心動かされており、残る者達は都落ち。去就を決めかねているのはアユム達だけ…いや、正確には、もうどうしたいのか心の中では決まっているのだが、それを口に出し、実行する勇気を出せないでいるだけだった。
「最上さん…僕は、被害者にも加害者にも扇動者にも傍観者にもなりません。
この地上のどこかにいるルリさんを…この旅を通じて出会った全ての人達を守るために、宇宙人への復讐には、反対です。」
「具体的に…どうすると!?」
「『アルゴ』を、破壊しましょう。」
アユムの言葉に、エイジは表情を変えずに、
「…分かっているのか!?地球の人々のためと言いながら、同じ地球人と戦おうとしているのだぞ…アドミラルの方が正しいのかもしれないし、将来再侵攻して来た宇宙人への唯一の対抗手段と、彼等の星へ向かう唯一の手段を失う事になるんだぞ…」
アユムは微かに、だが力強く微笑んで、
「僕等の大切なものとアドミラルの大切なものは違う。話し合いでは解決しない、傍観してても何も変わらない。なら戦うしか無いじゃないですか。それを教えてくれたのは、他ならぬあなたですよ、最上さん。」
「カオリ君は…いいのかい!?」
エイジは後ろにいるアユムの旅の道連れに目を向けたが、カオリは、アユムの隣りに立って、
「あたしは、こういう女なんです。」
「かつての教官のよしみもあるし、我が国を守るという理念にも合致する。私も手伝おう。」
アカネが言うと、
「アユムお兄ちゃんがやるならボクもやる。それに、向こうの星に、ボクみたいな子供がたくさん出て来るのはだめだ…」
ハジメがそう言った。
「ワタシも手伝わせテ。航空戦力は貴重デショ!?」
ソラがそう言うと、最後に、
「…俺も手伝わせてくれ。」
レオが言った。
「はて…君は私のことが嫌いなんだと思ってたが…!?」
エイジがそう問うと、レオは、
「…こっちにだって目的があるんだ。それが合ってる間は、後ろから撃ったりしねぇ。」
この2人を組ませて、大丈夫かな…
エイジは、ゆっくりと立ち上がると、
「………分かった。みんな、力を貸してくれ!」
※ ※ ※
3日後…
登る朝日に照らされて、東京の廃墟を歩く8つの人影。
出航の日時を指定された事で、期日まで十分準備を整える事が出来た。
ザっ、ザっ、ザっ、ザっ…
エイジを中心に、横一列に並んで歩く8人。
ザっ、ザっ、ザっ、ザっ…
右に3人、エイジに近い側から、シノブ、レオ、そして、アカネ。
ザっ、ザっ、ザっ、ザっ…
左に4人、同じくエイジに近い側から、ハジメ、アユム、カオリ、そして、ソラ。
ザっ、ザっ、ザっ、ザっ…
目の前に、芝浦ふ頭が見える。その先には、お台場、そのまた先に………『アルゴ』。
エイジが叫び、皆がそれに倣う。
「ブリスターバッグ、オープン!!」
「「「オープン!!!」」」
赤橙黄緑青藍紫の、7機7色のアレッツが、揃い踏みした。
赤:舞鶴アカネ機 セミスフィア(女性体型) 指揮、近接戦闘特化型L
橙:氷山レオ機 四脚獣型L
黄:久野シノブ機 スフィア(女性体型) 敏捷性特化型SSR
緑:最上エイジ機 キューブ 汎用L
青:小鳥遊ハジメ機 セミキューブ(ケンタウロス型、女性体型) 遠距離支援型SR
藍:渡会アユム機(サブパイロット:相川カオリ) セミキューブ 動作追随性重視型 L
紫:網木ソラ機 魚型可変飛行型
「アドミラルに、メールを打ってたんです。ソラさんが言った推測を全部書いて、『せめて宇宙人と話し合って下さい』って…その回答が、これです。」
アユムがメールを全員に転送する。そこにはこう書かれていた。
『子供が口出しするな。』
「交渉の余地無し、か…」
エイジが呻く。やはり、やるしか無い様だ。
エイジ機が、右手で前を指差す。
「『北斗七星作戦』、行くぞ!!」




