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21ー9 反転、暗転

「す…スペースウォーズ・デイは…」「事故じゃなく…」「宇宙人の…侵略行為…!?」


エイジもレオも、『ウォッチャー』が新たに配信した動画を観て、困惑を隠せない様だった。


「『ウォッチャー』…ワタシが宇都宮(ユニバレス)の宇宙船で見つけタ動画の完全版ヲ、よりによってあいつガ………」

ソラも別の意味で動揺していた。この場の人間で平静を保っていたのは、無表情のアカネと、アユム…


「アユム…あ、あんた、気づいてたんでしょ!?この事に…」

カオリが叫んだ。アユムの平静さの理由は、それしか考えられなかった。


「カオリさん…何度か言いかけてましたけど、地球表面の陸と海の割合は3:7で海のほうが圧倒的に広いんです。しかも陸の大部分も砂漠か高山等で、人が大勢住んでいる場所は、ごく一部なんです。だからあの夜の宇宙人の砲撃が艦隊戦の流れ弾なんだとしたら、ほとんどはそういった人の住んでいない場所に当たるはずなんです。なのに実際は街に当たっていました。まるで地球人を狙い撃ちしてるみたいに…


それに、あの夜の宇宙人達の目的が艦隊戦で、アレッツが宇宙人にとって宇宙戦闘機の様な役割なんだとしたら、アレッツは非常に有効で、大量投入されているはずなんです。なのに実際はアレッツはほとんど目撃されておらず、墜落した宇宙船には大量のプロトアレッツが積まれていました。プロトアレッツは宇宙での艦隊戦には不向きですが、大気圏内での作業…征服後の惑星上での作業には、非常に有効です。」


「…あの夜の宇宙人達は、最初から地球を攻撃して、自分達のために地ならしをするつもりだったという事か…」

エイジが呻くように言うと、アユムは、


「ごめんなさい…宇宙人に復讐しようとしているアドミラルを止めるために、この事は言えませんでした…」


その時、アユムのスマートフォンに着信があった。相手は…緒方さん。嫌な予感がして電話に出る。


「もしもし…緒方さん!?」


『……渡会君…さっきの配信を見たかい!?』

緒方氏はやはり動揺している様だ。


「ええ…」

アユムは、それだけ答えた。


『私と一緒に、それぞれの住み家に帰ろうとしていた日本中のアレッツ乗り達の大部分が……東京へ引き換えしたよ…』


「え…っ!?」


『すまない………私には、彼等を、止められなかった………止められなかったんだ…』

スマートフォンの向こうの緒方氏の動揺が、激しくなっている様だ。


『…私だって…北海道に残している息子の事が無ければ………彼等と一緒に…アドミラルと一緒に…「アルゴ」に乗って、宇宙人どもに復讐したかったよ…あんな…あんなつまらない事のために…妻は殺され…私は…息子に盗人をさせたのか………SWDで我々地球人が失った最も大きな物は尊厳…全く、アドミラルの言う通りだったよ…』

緒方氏の声色には、悲しみと怒りが綯い交ぜになっていた…恐らくそれが、アドミラルの下へ戻ったアレッツ乗り達の総意なんだろう。


「緒方さん………落ち着いてください。」


『………すまない。私は、息子の事が大事だ。だが…アドミラルの下へ帰った者達の気持ちも分かる…だから、私はこのまま北海道へ帰る。アドミラルに協力しないが、宇宙人への復讐も止めない。


本当にすまない…私は、この事に関しては………傍観者になるよ。』


通話、終了………アユムはスマートフォンを切った。


アユムの通話中、エイジの所にも何か通話があった様だ。エイジはスマートフォンに向かって、「待て」とか、「考え直せ」とか言って、最後に大声で、「おいっ!!」と叫んで…通話はそこで終わったらしい。スマートフォンを持つ手を力なく降ろすエイジは、


「………酒田が…裏切った。長銃身パーティクルキャノンを持つ自身のアレッツと…拘束していた野盗達を連れて…アドミラルに寝返った………」


『宇宙人には地球に再侵攻する動機があったよなぁ。なら、やられる前にやらないと、今度こそ地球は滅ぼされてしまう。』酒田はそんな事を言っていたらしい。


これでアドミラルは、当初集まっていたアレッツ乗りの大半を、再び指揮下に置いた事になる。おまけに、『アルゴ』制止の要だった長銃身パーティクルキャノンを持つスナイパーは、向こう側についてしまった。


     ※     ※     ※


お台場、アドミラルの執務室…


「報告します!一時はお台場を離れたアレッツ乗り達は、続々と再集結しています!!最終的には、当初の7割…700人程度にはなると思われます!!」


閑古鳥が鳴いていたお台場に、突如、『ウォッチャー』の動画が配信され、アドミラル陣営は怒りで沸き上がった。『やはり宇宙人は、邪悪な侵略者だった、しかも、また来る危険性が高い』『自分達の復讐は、正しかった』、と…


しかし、周囲の熱の上昇や、ハンスの報告を受けても、アドミラルの心は晴れなかった。


(今更、宇宙人の真意が知れたからと言って、戦力が戻ったからと言って、何だと言うんだ…私の復讐心は、とうに萎えてしまったよ…孫ほど年齢の離れた子供に、正論で反論された、あの時に…

分かっていた。妻も、娘も、私が復讐したところで喜ばないと…)


興味なさげにため息をつくアドミラルは、自身のスマートフォンを、ハンスに放り投げる様に見せた。そこにはこう書かれていた。


『全てのアレッツ乗り達よ、東京へ集え。


我等が山河を焼いた罪は、奴等の山河を焼いて贖わん。

愛する人を奪われた罪は、奴等の愛する人の命で贖わん。


再び奴等が攻めて来る前に、奴等の星を滅ぼさん。


白き天使の同型機も我等とあり。


3日後の正午までに、再び東京へ集え。


           アドミラル』


それは、アレッツ乗りに対して、再集結を促すメールだった。だがアドミラルには覚えが無い。


「…これを書いたのは、君だね!?」


「も…申し訳ございません…で…ですが、効果は上々です。我々には大義名分も切り札もあると分かれば、彼等も…」

深々と頭を下げ、言い訳をするハンスに、アドミラルは、


「ハンス…君はいつだって、私を、復讐へと導いてくれるな…

初めて会ったあの日、鹵獲した宇宙戦艦の存在を教えてくれた、あの日から…」

そう言って、ゆっくりと立ち上がった。かつての演説で見せた、精悍な表情が戻ってきた。


「…当初の予定通り、発進のシークエンスを進めたまえ。」


「ハっ!!」


ハンスを引き連れて、執務室を後にするアドミラル。


(分かっていた…もう、止まる事は出来ないのだと…なら、地球全ての憎しみを、私が宇宙へ連れて行こう…)

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