21ー8 答えの既に出ていた問題
ブリスターバッグの画像に映されていたのは、まるでSFアニメの一場面の様な光景。明らかに宇宙戦艦のブリッジに見える場所、前面の巨大スクリーンには数隻の宇宙戦艦と、スクリーン下部全域には青い惑星…地球が映っている。そして、この艦もスクリーンに映っている艦…恐らく敵艦も、ビーム砲と思しき光弾を放っているが、その多くは相手の艦ではなく、眼下に見える地球へと放っている。これは…スペースウォーズ・デイを、宇宙戦艦のブリッジから見た動画か!?
そしてブリッジの中央にいる1人の人物…地球人にそっくりの人物は、巨大スクリーンの中で展開されている一大艦隊戦を見つめながら、芝居がかった口調でこう言った。
「我々は、実に多くの時間を、議論に費やしてしまった。既に答えの出ている問題の議論に。
その間に、我がアミキソープ星の化石燃料資源の枯渇は更に深刻化し、民の暮らしは更に困窮を極めるまでに至った。」
この人物は、この艦の艦長か何かなんだろうか。
「分かりきっていた事だった。化石燃料資源は、有機生物の生息していた惑星からでなければ、安定して採掘出来ない事も、その様な惑星には、天文学的な低確率でではあるが、我々と同じく高度な文明を築くに至った知的生命体が生息している事も…その様な場合に優先すべきは、見も知らぬ異星人の命より、母なる惑星に住まう民達の生活だという事も…
それを南軍主流派どもは、安っぽい倫理観を振りかざして、この惑星への侵攻を見送ってきた。その間に、同じ南軍の中でも、我々の様な持たざる者は塗炭の苦しみを味わった…口惜しいが結局、あの北軍どもの方が正しかったのだ…」
それからその人物は、「全く…古代人とやらも、この宇宙戦艦や人形機動兵器の様な訳の分からないオーバーテクノロジーではなく、もっと模倣容易な代価エネルギーを残してくれれば良かったものを…」とこぼした。
戦艦が放つ光弾は地球の大都市へと吸い込まれ、巨大な火球がいくつもいくつも開いた。その一方で、敵艦の中にも光弾を受けて地球へと墜落する物が現れ、また味方の艦にも被害が出ている様だった。
「惑星上の都市を狙え。それと同時に、敵の艦も攻撃しろ。これはあくまで北軍との艦隊戦で起きた不幸な事故。そういう体をちゃんと装え。たまたまワープアウトして、艦隊戦を行った場所がかの化石燃料資源のある惑星の近隣で、惑星の知的生命体は流れ弾で全滅してしまった。悲しい出来事だが、やってしまった事は仕方が無い。残された化石燃料資源は、我々アミキソープ人がせいぜい有効利用させてもらおう…」
青い地球が、緑の大地が、白亜の摩天楼が、降ってくる星に次々と焼かれて行く…
「…さて、と…そろそろこの茶番の宇宙戦争も終いだ。後は、事前の約定通り、我々南軍侵攻派と奴等北軍とで、この惑星の化石燃料資源を分配する。偽善者の南軍主流派に、ひと泡吹かせてやれる…」
ドーーン!「ぐぁ!?」
カメラが大きく揺れ、映っていた人物が体を崩す。ブリッジの機器類のいくつかが死んだ様だ。
「ほ、北軍、攻撃停止しません!」
部下と思しき人物の悲鳴が聞こえる。さっきまで話していた人物は、よろよろと立ち上がると、呻く様に、
「ぐっ…この惑星を独り占めするつもりか…やはり北軍は、産まれついての盗人か…」
それからその人物は右手を振り上げ、
「総員、攻撃続行!!変節と異星人大量虐殺の大罪、我らの命にて贖わん!!」
『腹をくくれ』『命を惜しむな』『一人でも多く北軍を道連れにしろ』…後はただひたすら、その様な類いの言葉が飛び交った。
やがて、ブリッジは光に包まれ、
動画は、ここで終了した。
暗転した画面の右下に、
"by Watcher"
※ ※ ※
一部始終を見終えたアユム達8人。
カオリは、呆然としつつ、呟いた。
「す…スペースウォーズ・デイは…事故じゃなく…宇宙人の、侵略行為………」
※ ※ ※
げに人の心は移ろい易き物。非常時においては尚更…
アドミラルの下を離れようとしていたアレッツ乗り達の多くは、
『ウォッチャー』の暴露動画を観て、
再び、お台場へと再結集して行った…




