21ー7 アレッツ乗り達の欲する物
旧東京都港区…
お台場を望む芝浦ふ頭に立つアユム、カオリ、ソラの3人。一緒に逃げてきたエイジとシノブは、部下と合流するとの事で、どこかへ行ってしまった。
「ソラさん、やっぱりあの人達を止めるつもりで…」
ソラには前科があった。アユムと敵対するふりをして、敵に潜入していた前科が…
「アドミラルにノーと言えテ、みんなノ心ヲ動かせル誰かが来るのヲ待ってたノ。ま、あんな素敵な演説を打ってくれるは想定外だったワ。」
ソラはウィンクする。
「よして下さいよ。今思い出しても恥ずかしい…」
「えー!?あたしも隣りで聞いてたけど、アユムカッコ良かったわよ。」
カオリにまでそう言われ、アユムは顔からパーティクルキャノンが打てるくらい赤くなった。
「おーい、アユム君!!」
向こうから何十人かの男達がやって来た。先頭にいるのは緒方イチロウ氏だ。
「緒方さん…その人達は…!?」
「ああ…お台場で知り合った、各地のアレッツ乗りの方達だ。小規模な自警団とか保安官みたいな…」
緒方さんと同じ様な身の上の人達が集まったのか…
「私達は、それぞれの居場所に帰る事にしたんだ。」
居場所…緒方さんの場合は、息子さんが待つ北海道か…
「君のおかげで、大事な事を思い出せたよ。」
「もう少しで大事な人を放り出して、宇宙の果てへ行く所だった。」
「じゃ、私達はもう行くけど、君の旅の成就を願ってるよ。それから…」
緒方氏は懐からメモ帳の束を取り出し、アユムに渡す。
「私達がそれぞれ住んでる場所の、君が言ってた人物に該当しそうな人物の情報を出し合ってまとめたんだ。中には複数の条件が一致している人もいる。冬が来る前に回れるだけ回ってみるといい。」
「あ…ありがとうございます。そして、ごめんなさい。あなた達は、『欲する物』を、手に入れられなかったというのに、僕ばっかり…」
だが緒方氏は澄ました顔で、
「はて…私達は『欲する物』を手に入れたが!?他ならぬ君のおかげで…」
そう言い残して去って行く緒方氏達を、アユムとカオリはためらいがちな一礼で見送った。
※ ※ ※
埠頭を歩くと、次に目に入ったのは、一体のグリーン迷彩アレッツと、その足元に座らされている、何十人もの汚い男達と、そこから離れた場所に、まとめて山と積まれているブリスターバッグ。グリーン迷彩アレッツは、エイジの機体と似ているが、細部が違う様だ。パイロットはエイジ隊最後の1人、酒田だ。右手に持っているのは、自身の全長よりも長い長銃身パーティクルキャノンだ。
あの後、野盗を辞めたいと言い出した者達が大勢現れ、とりあえず政府の関係者であるエイジ隊に投降したらしいのだ。
これで日本も少しは平和になるだろう。投降した元野盗達の顔は青ざめているが…
「い………嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
不意に、元野盗の1人が、狂った様に喚きながら立ち上がり、ブリスターバッグを掴んで逃げ出した。
「や、やっぱり捕まりたくなぁぁぁぁぁい!!」
アレッツを呼び出してホバリングで逃げていく。グリーン迷彩アレッツ…酒田機は何もしない。逃亡したアレッツが遠ざかるのをただ、見ている。そして、豆粒ぐらいの大きさになった時、
酒田機は無造作に長銃身パーティクルキャノンを構え、豆粒に向かって撃つ。
タァァァーーーン!!
豆粒は爆発した。パイロットは即死だろう。
『お前等…他に逃げたい奴がいるなら逃げていいぞ。』
酒田機がそう言ったが、野盗達の中に逃げようとする者はいなかった。どこまで逃げてもあの銃口からは逃れられないだろう…
※ ※ ※
「君達…」「ぃよっ!ショーネン!カオリちゃん!!」
酒田機からしばらく歩いた場所に、エイジとシノブはいた。
「私もアユム君達が連れてこられる直前まで、アドミラルに抗議していたんだ。宇宙人への復讐へは反対だと言って…理由は君が言った言葉の前半とほぼ同じだ。ま、聞き入れてもらえず、追い出されたがね…」
「タイチョーはショーネンにいい所取られちゃったから、さっきまですねてたんスよ。」
「すねてなどいない!…ま、いい所取られて悔しいのは事実だが…」
「すみません…」
「アドミラルへはお台場からの撤退と、『アルゴ』の放棄を勧告しておいた。乗組員の有無に関わらず、48時間後に『アルゴ』を破壊する、ともね…我々にはその手段がある。」
酒田機の長銃身パーティクルキャノンか…
「後は私達に任せておきたまえ。それから、拘束した野盗にも尋問したが、君の尋ね人の事を知っている者はいなかったよ。」
「最上さん…ありがとうございます。」
※ ※ ※
同時刻、お台場…
「彼等はアドミラルに変わらず協力を約束してくれたアレッツ乗り達です。」
そういうハンスと、アドミラルの前には、ボロボロの単眼アレッツ。全身真っ黒で、両腕だけが血の赤に塗られた機体…
『俺ぁ強ぇぞぉ…中坊ん時同級生をブっ殺した事があるんだぁ…あぁでもぉ、コクピット降りるるのだけは勘弁してくだせぇ…グェフグェフグェフ…』
アレッツに乗ったままダイダは愛想笑いをしてみせた。その中坊の時に殺した男と、アドミラルは昨日会って話をしたのだが、あれは幽霊か何かなんだろうか。
「………」
その隣りに立っているのは、髪を伸び放題に伸ばした男…『天使』のパイロット、『生きたおもちゃ』…
『生きたおもちゃ』はダイダ機をギロリと睨んだが、かつて彼に火をつけられた事があったダイダは、彼をヤバい奴だと認識しているため、
『お、俺達は仲間だぁ、仲良くやるるぉうぜぇ…グェフグェフグェフ…』
またも愛想笑いを浮かべる。
…この2人の事は報告書で聞いている。目を覆いたくなる様な内容の報告書だった…
『そるるぇでぇ…アドミラルのために戦う代わりって言っちゃあ何だが…前金代わりに何か食い物をくるるぇねぇかなぁぁぁ…』
結局、それか…まあ、彼の困窮も報告書にあったから、分からんでも無いが…
「………ダイダ君…だったかね!?君はアレッツ乗りになって『スーパーノヴァ』に関わったばっかりに、色々とひどい目にあったそうだが、これに懲りて改心しようとは思わないのかね!?」
アドミラルの問いに、ダイダは不機嫌そうな声になって、
『あ”あ”〜〜〜!?今更いい子ちゃんになるるぇば手足が生えて来るとでも言うんかよぉぉぉ〜〜〜!?』
「………君の言う通りだね。食料は支給しよう。もう行っていいよ。」
アドミラルがそう言うと、ダイダ機はドン、ゲン…と、歩いていった。それからアドミラルは『生きたおもちゃ』に、
「君は規格外の性能を誇るアレッツを持っているそうだね。戦力として期待してるよ…」
アドミラルは握手をしようと右手を差し出してきたが、『生きたおもちゃ』は怯えた様に目線をそらして頭を下げた。アドミラルは内心ため息をついて、
(『スーパーノヴァ』は去り、私の周りに残ったのは、かくの如き輩のみか…)
「まあ、いい…今後の方針が決まるまで、休んでいてくれたまえ。」
そう言われて、どこかへ行こうとする『生きたおもちゃ』に、アドミラルは、「ああ、待ちたまえ」と呼び止める。
「報告によると、君は、復讐を成し遂げたそうだね…ひとつ教えてくれないか…!?
復讐を遂げるとは、どの様な気分なんだね…!?私も復讐をしようとしているんだ。私の行く末がどうなるのか知りたいんだが…」
アドミラルの言葉に、『生きたおもちゃ』は、しばしの沈黙の後、
「………俺の復讐は、まだ終わってない…」
それだけ言い残して、立ち去った。
※ ※ ※
同時刻、芝浦ふ頭…
「ここにいたのか…アユム。…と、エイジ隊もいたのか…」
アユム達の所に、レオ、アカネ、そしてハジメが現れた。
「皆さんは、アドミラルの復讐に反対なんですね。」
「ああ…正直言って、一瞬、あいつの口車に乗りかけたが…手前の演説で目が覚めたぜ。」
「カッコ良かったよ、アユムお兄ちゃん!」
レオとハジメがそう言うと、最後にアカネが、
「君のおかげで、皆、目が覚めた様だ。宇宙人への復讐ではなく、全てを失った後に手に入れた全てを守る事。それが、アレッツのコクピットで私達が過ごした1年間の答え…『欲する物』だ。」
「ぼ…僕、そんなカッコいい事言いました…!?」
「…自覚が無いのか…全く。」
アカネは苦笑した。
「それぞれの国へ、帰るんですか!?」
「なんだけど、ま、その前に…最上の旦那…」
「ん!?」
「…あんたの所で拘束している投降野盗は、さっきの所ので全部か!?」
レオはエイジを睨んだ。ハジメは不安げな表情で、アカネは無表情だが、鋭い視線をエイジに向けている。
「……ああ。あそこで酒田が管理してるので全部だが!?」
レオの視線をものとせず答えるエイジ。
「…あの長物持ちのパイロットは酒田って言うのか。」
「…君は野盗の事を聞きたいのか?それともうちの隊員の事を聞きたいのか、どっちだ!?」
…この2人、仲悪いなぁ。元野盗と軍人だからしょうがないか…
そんなやり取りを見ながら、アユムは、考える。これから東京で何が起きるか、を…
もうアドミラルの所にはろくな戦力が残っていない。自身の戦力だけで宇宙人への復讐が成るなら、最初からあんなメッセージを送ってまで日本中からアレッツ乗りを集めたりしない。アドミラルが利口な判断をするなら復讐を断念するが…あの人は諦めないだろうな。『アルゴ』ごと残った仲間とどこかに身を隠して、別の機会をうかがうか、無理やり離陸して、残った仲間だけで玉砕覚悟で宇宙へ向かうか…
エイジ隊のグリーン迷彩アレッツ…酒田機の武器は、超長射程パーティクルキャノンだ。機体も遠距離狙撃向きだ。どこかへ逃げようが宇宙へと離陸しようが、あれでアドミラルの戦力の射程外から狙撃され、撃墜されるだろう。
アドミラルの復讐は潰え、宇宙人は報復に来ない。世界は、ひとまずの平穏を得る。
ザ っ!
その時、不意に、アユムのブリスターバッグに、謎の通信が入る。アユムだけではない。エイジも、レオも、ソラも…この場にいるアレッツ乗り全員に届いているのだ。いや、おそらく、日本中全てのブリスターバッグに届いているのだろう。
「な…何!?」「何だ…!?」
レオとエイジもにらみ合いを中断する。ブリスターバッグの雑音は、やがて、聞き取れる人の声になる。
『…ウィーブスペントゥーマッチタイムトゥディスカッサバウラクエッションフーザンサーハドーレディビーンクリーアー…』
聞いた事の無い言語が聞こえ、バッグの画面にメッセージが浮かび上がる。
”Translate: Amyxorpean -> English(US) -> Japanese"
が、そのメッセージが半分出た時点で、アユムのブリスターバッグの通信は強制切断される。
「え…!?何で!?」
他の人のバッグには通信が送られ続けているらしい。仕方ないのでエイジのバッグを見せてもらう。
「アユムクン、ダメ!それを聞いチャ!!みんなモ聞いちゃダメ!!」
ソラが何か叫んでいるが、バッグから聞こえる謎の言語はその場で日本語に翻訳される。謎の言語は、こう言っていた。
『…我々は、実に多くの時間を、議論に費やしてしまった。既に答えの出ている問題の議論に…』




