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21ー5 私と同じ悲しみを味わう事になるぞ

アユムは、アドミラルの演説を聞いても、『宇宙人への復讐を』と唱えられても、賛同出来なかった。だからこの熱病に冒されたお台場を、静かに去るつもりだった。ただその前に、日本中から集まっているアレッツ乗りから、ルリさんの情報を少しでも聞き出そうとして、あの様な騒動を起こしてしまったのだ。


宇宙人への復讐に反対だというアユムの言葉を聞いたアドミラルの眉が吊り上がる。


「ほう…理由を聞かせてもらおうか、『スーパーノヴァ』。」


「まず…たった宇宙船一隻では、宇宙人に敵うとは思えません。彼等は地球周辺を埋め尽くす程の宇宙船を、たった一晩で地球を壊滅させられるだけの戦力を持っています。例え世界中のアレッツ乗りを集めたとしても、何も出来ずに返り討ちに会って全滅させられるのが落ちだと思います。」


「………」

アドミラルの沈黙が、静かな怒りを表していた。


「それに…彼等の星と地球とは、光の速さでも何年もかかります。その事と、彼等には宇宙を航行する高い技術がある事を合わせて考えると、彼等には地球にやって来る動機が無いんです。

地球に移住するにしても資源を搾取するにしても地球人を奴隷にするにしても、自分の星の周辺の惑星を開拓するなり、地球人よりも優秀な機械を使えばいいから、理由にならないんです。

SWDは彼等にとってもアクシデント。もう二度と地球に関わらない可能性が高いです。現に彼等はSWD以降の1年間、僕達地球に何もして来ませんでした。このまま放っておいてくれて、地球が元通りに復興するのが、一番理想的な今後のシナリオだと思います。

下手に彼等を刺激して、『やはり地球人は危険だから滅ぼしてしまおう』なんて思わせる訳にはいきません。」


「奴等がこの1年間、地球への再侵攻の準備を着々と進めている可能性だってあるだろう!?それに、事故だったとしても尚更、奴等を許していい理由にはならんよ。何等かの報いを与えてやらんと…」


「だからって…最初から喧嘩腰はよくありません。まずは話し合わないと。」


「………とんだ頭でっかちの腰抜けだな、『スーパーノヴァ』は…」

アドミラルはかぶりを振る。


「そもそも惑星一つ滅ぼした責任や損害賠償なんて、彼等は何をすれば償えるんですか!?」


「だから、奴等の首を奴等の星一面に並べてやろうと言ってるのだ!」


「そんな事しても地球は元には戻りませんよ!」


「色々言い訳をつけてるが、両親を殺されて悔しくないのかね…!?」


「そんな訳無いでしょう!?僕だってあの夜、その………後を追おうかとさえ、思いましたよ…」


「なら私の手を取りたまえ。両親の復讐をしよう。さっき見た通り、私なら、その手段を与えてあげられるんだ。」

アドミラルの信念は揺るがず、なおもアユムに手を伸ばしてくる。


(だめだ………)

アユムは思った。


この人は、ものすごく大きな組織を作って、大勢の人を配下に入れて、その多くは多分アレッツ乗りで、おまけに宇宙船まで持ってて………全て、『宇宙人に復讐を』の一念で、これだけの事をしたんだろうな。


高校生の理屈なんて、通るはずが無い………


思わず右手で鳩尾のあたりを掴み…シャツの下の何かがコリっと指先に触れる。


ラピスラズリの入ったお守り袋だ………


(ルリ………さん………)


そうだ………


僕は、そういう奴だったんだ………


アユムは改めて、アドミラルに向き直る。


「アドミラル………僕は、SWDの数日前に、クラスの女子から告白を受けました。」


「はぁ〜〜〜!?」

思いがけない話にアドミラルは彼らしからぬ声を上げる。


「でも、その時はちゃんと返事が出来なくて、そしたら北海道で宇宙人の攻撃で仙台へ帰れなくなって…僕は、首都圏のどこかにいる、彼女と再び会って、告白の返事をするために、ずっと旅して来たんです。」


なんか、段々と頭に血が集まってきた様な気がする。体温も、心臓の鼓動も上がってきたみたいだ…


「アドミラル…あなたは『望む物が手に入る』と(おっしゃ)いましたが、実際にはあなたは、僕が欲しい物は何一つ持ってませんよ。

星の彼方を憎しみの目で睨み続けてきたあなたが、この地上のどこかに住まう一人の少女の事なんか、知るはずが無いでしょう!?

そして…僕はこの旅を通じて、宇宙人の攻撃から生き残った人達が、彼等に壊された物を懸命に直して、失った以上の物を手に入れようと必死に働いている姿を、ずっと見て来ました。

あなたの復讐で、宇宙人達が再び地球に攻めて来たら、ルリさんを含めて生き残った人達の命や、1年間の努力が、築き上げた物が、再び失われるんです。それだけは避けなければなりません。

宇宙人への復讐より、あの日失った物より、あの日から手に入れた全ての物の方が、これから手に入れる何かの方が、僕にとっては大事です。」


「………」

アドミラルは呆けていた。それ以上の心中は表情からは察せなかった。


「僕は…被害者にはなりません。


被害者でいる限り、自分の不幸を、せいに出来る何者かがいる限り、その人は幸せにはなれません。


僕は、加害者にはなりません。


あれはこの世で最も醜い存在です。奴等と同じになるなんて、願い下げです。

そして加害者には何を言っても無駄です。加害者の罪を問うて誠実な対応をしてくれるなら、その人は最初から加害者にはなっていません。


僕は、扇動者にはなりません。


加害者の扇動者は加害者と同罪です。


僕は、傍観者にはなりません。


自分の意見を持ち、この世に意思し続けます。


僕は………宇宙人への復讐には、反対です!!


確かに僕は、この理不尽に叩き落とされた運命に、どんな形でもいいから抗いたいという想いから、この旅を始めました。でもそれは、復讐なんかじゃ決してありません!!」



「「「………………」」」



アドミラルの執務室は、しんと静まり返った。興奮したアユムは、いつの間にかカオリの隣りを離れ、アドミラルのデスクに詰め寄って、手を伸ばせば届く所まで近づいていた。


「………ふ…」


静寂を破ったのは、アドミラルだった。


「ふっふっふ…ははは…ハハハハハ………!!」


アドミラルは笑った。


「素晴らしい!素晴らしいよ、アユム君!!こんなめちゃくちゃになった世の中に、まだ君みたいな男が生き残っていたなんて!!!今日は実に良い日だ!!!」


ハンスやフランシーヌ…アドミラルの配下達も、カオリも、呆気にとられた。嘲笑ではなく、心底愉快そうにアドミラルは笑ったのだ。


「…だからこそ、本当に残念だ。」


アドミラルは拳銃を取り出し、


「君にはその旅をあきらめてもらわなければならない!!」


アユムに突きつける。


「アユムっ!!」

カオリがアユムを守ろうとするが、

「カオリさんは離れてて!!」

アユムがそれを制した。

「アドミラル、銃を下ろしナサイ!!」

ソラも思わず声を上げる。


「君は宇宙人攻めの重要な戦力だ。是が非でも協力してもらうぞ!!」


「なら僕のアレッツを置いて行きますよ。誰か優秀なパイロットを乗せればいいでしょう!?」


「君はスターゲイザーだそうじゃないか。これからは宇宙での戦闘も想定される。」


「スターゲイザーは戦争の道具じゃありませんよ!!」


「その女の子のためにも、宇宙人共を根絶やしにするんだ。」


「何を言ってるんですか、あなたは!?」


アドミラルは拳銃の撃鉄を起こす。

「…私達に協力したまえ。私達の復讐に………私達にはもう、それしか無いのだよ………っ!!」


アユムはその時初めて、デスクの上の写真立てが、何かの拍子に倒れていた事に気づいた。写っていたのは3人の人物…アドミラルと、初老の女性と、金髪の女性の笑顔。アドミラルもそれに気づき、


「………アドミラルとは、女や娘の命すら守ってやれなかった、情けない男の事なのだよ………」


その時、


バタン!「あ、アドミラル〜〜〜!!」

ノックも無しに軍服の配下が執務室に入って来る。


「…何だ、騒々しい。」『何だ、騒々しい。』


「い、いますぐその会話を止めて下さい!!」『いますぐその会話を止めて下さい!!』


何やら表が騒がしい。それに、どこか別の所からも自分の声が聞こえて来る。


「どうしたと言うのだ!?」『どうしたと言うのだ!?』


「この部屋の会話が、盗聴されて外に漏れてます!!」『この部屋の会話が、盗聴されて外に漏れてます!!』


「何!?」


     ※     ※     ※


同時刻、外の広場………


『何!?』


さっきアドミラルが演説に使ったスピーカーがジャックされたらしい。アドミラルの声、アユムとのやり取りのほぼ一部始終は、日本中から集まったアレッツ乗り達に聞かれていた。


     ※     ※     ※


再び、アドミラルの執務室…


「上出来ヨ、アユムクン!!」

そう言ってソラはブリスターバッグをアユムへ放り投げ、アユムはそれを受け取った。


「み…ミスター網木!!君か!?裏切った…いや、最初からこのつもりだったか!?」

アドミラルがソラを睨む。ソラは澄ました顔で、

「フフフ…盗聴盗撮はウォッチャーだけの専売特許じゃないノヨ!!」


『アユム君!!』『ショーネン!!』


窓の外から声がする。エイジ機とシノブ機が顔をのぞかせていた。ソラの盗聴放送を聞いて、救出に来てくれたのだ。


『窓から離れろ!!破壊する!!』

エイジがそう叫ぶと、ハンスとフランシーヌは慌てて窓から離れる。エイジ機は右手で殴りつけ、ガチャーーーン!!音を立ててガラス窓が割れる。


「逃げるワヨ、アユムクン、カオリチャン!!割れたガラスに気をつけテ!!」

ソラが促し、エイジ機が作った穴から3人はアレッツを呼び出し、エイジ機、シノブ機ともに逃げて行った。ガラス窓に開いた穴に立ったアドミラルが何かを叫ぶ。


「戻って来たまえ、アユム君!!これ以上その旅を続ける気なら、君はきっと………」


最後の言葉はアレッツが発する轟音にかき消されて、聞こえなかった。

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