21ー1 上京
遅ればせながら、本年もよろしくお願いいたします。
2人と1機の旅を、完遂させます。
西暦2053年 11月、
旧東京都豊島区池袋…
「カオリさん、僕は北海道の、海に面した、本当に何も無い小さな町の出身なんです。だから、仙台に来た時は本当にびっくりしました。こんな大きな大都会がこの世にあったなんて、って…」
レンガで舗装された駅前の公園を、スクーターを押しながら歩くアユムとカオリ。あそこに見える何本もの柱に支えられた大きな円盤は何だろう。
「すごく大きな駅に、広い道路が何本も通ってて、高いビルディングがいくつもいくつも建ってて、大きな街なのに、広い道路の両側と真ん中に、道路全体を覆い隠すくらいに街路樹が生い茂っていて…」
反対側の駅前に出る2人。交番の角と丸窓で鳥の顔になってるのは何故だろう。
「駅からアーケードを歩いていくと、どこまでもどこまでもきれいな商店が並んでて、どこまで歩いても『仙台』が無くならなくて…」
広い通りを歩く2人。左手にはレンガで舗装された緩い階段が見える。
「こんなすごい街でこれから暮らせるなんて、夢の様だと思いましたよ。」
「何が言いたいの、アユム!?」
「でも…その夢の様な街のはるか南に、仙台を超える大都会が、本当にあったなんて…」
「…あー、それはあたしも分かるわ…」
もう、「東京」に入ってどのくらい経っただろうか。仙台だったらとうに街の端から端に出てしまっているはずの時間と距離を走ったはずなのに、ビル街は深まるばかりてある。
「ありがとうございます…カオリさん…」
「…ん!?今度は何!?」
スクーターをブリスターバッグに収納して、緩やかな階段を上がるアユムは、カオリにふと言った。
「…いつだって、あなたが背中を押してくれるから、僕はとうとう、北海道から東京まで来れたんです…」
「………な、何度も言わせないで!!これは、あたしの旅でもあるんだから!!」
赤くなった顔を悟られない様に、向こうを向いて言い放つカオリ。
「でも…出来れば宇宙人が攻めて来る前に一度来たかったわね…」
緩い階段の向こうには、60階建てのビルディング。ただし、半ばから吹き飛ばされて無くなっている。埼玉にいた時、飛んで来たビルの先端を見た様な気がする。そして、実はさっきから見て来た大都会の風景も、1年前の宇宙船の光弾であちこちにクレーターが開き、公園等の緑地は畑にされ、かつてこのビル街で我が世の春を謳歌していたであろう人々は、崩れ残った建物を整理して住んでいた。その惨状を目の当たりにして、カオリは呟いた。
「………本当、何をしたかったのかしら、宇宙人は…」
「カオリさん、地球表面の陸と海の割合は…」
「ところでアユム、謎のメッセージの伝える集合場所ってどこ…!?」
「え!?えーっと…『お台場』…なんで地名に『お』が着くんでしょうね…」
※ ※ ※
1時間後、旧港区…
電波塔の役割をとうに終えてしまった東京タワーは宇宙人の攻撃で根本だけを残して蒸発していた。かつてやんごとなきお方の離宮があった場所には畑が造られていた。潮の香りが漂ってくる。目の前には頭上で一回転している大きな橋、自動車だけでなく新交通システムとやらも通っていたらしい。そしてその向こうには、埋め立てて造られた、いくつもの人工島。
「…東京の人はとんでもない物を造りますね…」
かつては名所だったこの橋だが、海のある街には嫌な思い出のあるアユムの声は沈んでいた。
「こんな所を集合場所に指定するなんて、何したいのかしら…」
人工島へ続く虹の橋を、大勢の人々が、あるいは徒歩で、あるいは車に乗って渡ろうとしているのだ。エイジやアカネ達も、この中にいるはずだ。
これ、みんな、日本中から集まったアレッツ乗りなんだろうか…
「…万一誰かが攻めて来たら、橋を落とすつもりなのかな…謎のメッセージの送り主は…」
「やっぱり、戦争でもするつもりなのかしら、その人は…」
「僕達もあの橋を渡らなきゃならないのかな…」
渋滞という程でもないが、自動車はあまりスピードを出せていない様だ。
「アユム!み、見て!あれ…」
カオリが指差す先には、海の上を泳ぐ巨大な魚…水陸両用可変アレッツだ。それが何機か、群れなして向こうの人工島へ向かっていた。
「泳げるなら勝手に海を渡ってもいいのか…なら…」
アユムの言葉にカオリはその真意を察し、彼の横に並ぶ。アユムは小さなカバンの様な物を取り出し、
「ブリスターバッグ、オープン!!」
叫ぶと出現したのは、全高7mくらいの、濃紺色の武者鎧の様な巨人。額には三日月の前立てが着いており、カメラアイは左右色違い、体中に金色の差し色が入っている。
「スーパーノヴァ…」「スーパーノヴァだ…」「あいつも、ここに来てたのか…」
周囲のアレッツ乗り達から、ざわり、と声が上がる。
アユムとカオリを乗せた『スーパーノヴァ』は、腰の飛行ユニットを展開させ、空へ舞い上がる。橋の上に並ぶ自動車や、海上を泳ぐ水陸両用機を尻目に、悠々と空を征く。
※ ※ ※
同時刻、橋の上…
アカネが運転する自動車の助手席で、ハジメが窓の外の空を見上げ、見知った機影を見つけた。
「アユムお兄ちゃん…」
※ ※ ※
同時刻、対岸の人工島…
アユム機と同じく空を飛べる機体を持つレオは、既に空中から島入りを果たしていた。こちらに向かってくる濃紺色の機体を見上げ、
「アユム…やっぱり来やがったか…!!」
※ ※ ※
数刻後、お台場某所…
「報告します、アドミラル!!『スーパーノヴァ』、台場入りを確認しました。空よりの上陸を試み、我々の飛行機体の先導を受け、着陸地点て誘導されたとの事です!!」
青年がそう告げると、『アドミラル』と呼ばれた初老の男性は、
「ブラーボー!!ついに彼等が我々のメッセージに答えてくれたか!!」
と言って、派手に手を叩いてみせた。ワシ鼻に白い肌、青い瞳、白髪も若い頃は金髪だったろうと思われる、明らかに日本人には見えない、軍服を着た男だ。
「ハンス、これで島に集まったのは何人だ!?」
アドミラルに問われてハンスと呼ばれた男は、
「1000は下らないと思われます。」
「フランシーヌ…『アルゴ』の状況はどうだ!?」
今度はフランシーヌと呼ばれた女性が、
「横須賀沖を離れて、順調に東京湾へ移動中です。」
アドミラルはその場に集まった男女に両手を広げ、
「みんな、今までの尽力、心より感謝する。これで彼等アレッツ乗り達は、望む物を手に入れ、私の願いも成就する…」
それからアドミラルは部屋の隅にいる大男に目をやり、
「…君の協力にも本当に感謝している。」
言われた大男はニヤリと微笑み、
「ドウイタシマシテ。」
ハンスはそんな大男を不審の目で睨みつけるが、大男…網木ソラはヤレヤレと肩をすくめて見せた。
※ ※ ※
落星機兵ALLETS 第六部 最終決戦編




