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20ー8 旅の終わり

抗いたかった…僕を理不尽に叩き落とした、残酷な運命に。

知りたかった…本当は知るのが恐かった。でも知りたかった。僕がどんな人間なのかを…


     ※     ※     ※


レオ、アカネ、ハジメ、エイジ、そしてシノブの5人は、明日、東京へ発つらしい。


彼等は無事、アレッツ使用許可を得ることが出来た。アユムの『Z』でアルファベットを使い尽くしたため、彼等にはギリシャ文字が与えられ、それぞれの機体の肩に書かれる事になった。


アカネ機が『α』、レオ機が『β』、シノブ機が『γ』、エイジ機が『δ』、そしてハジメ機が『ε』。

アカネとハジメは同時に申請し、アカネはすんなり通ったのだが、中学生のハジメに許可を出す際に審議があったらしく、その間に後から申請した3人に抜かれて、最後はアカネの監督化においてという条件付きで認可が下りた。エイジがシノブに先を譲ったのにはどんな感情があったのか不明だが…とにかく、


明日の朝がアユム達と彼等との最後の別れになる。


     ※     ※     ※


夜…


秋から冬に変わりかけている星空を眺めながら、アユムは思った。


(時間切れだ…僕の旅はここでひとまず終わりだ。

明日、僕とカオリさんは埼玉を発ち、仙台へと戻る。

雪が降ってからじゃあもう遅いんだ…)


アユムは首から下げたお守り袋を見つめる。ピンク色の小さな袋の中に、深い青色のラピスラズリの原石、そして紐には小さな鍵。そう言えば、ラピスラズリはルリさんの名前に合わせた物なんだろうけど、この小さな鍵は、一体何だったのだろう…


(…ルリさんに再会できてたら、謂われを聞けたのかな…!?)


…今さらしょうがない…


「…ま、この旅は、僕にとって、端っから、過ぎた挑戦だったんだよな…でも…

これでいい…これ以上カオリさんに迷惑をかける訳にはいかない…」


呟くアユムの顔を、遠くから見つめる姿…


「アユム…」


カオリであった。


     ※     ※     ※


これでいい…カオリは思った。これでアユムは明日、あたしと一緒に仙台に帰ってくれる。


危険な、あての無い旅も、これでようやく終わり。冬越しまでに仙台で住み家を見つければ、アユムを新たな友人に加えた新しい生活が始まる。ルリさんに会えなかったアユムの胸の微かな痛みも、時が経てば薄れて行くだろう。あたしだって一緒にいるんだ。いつか北国にも春は来る。


でも…


アユムは幼少期からダイダをはじめとする地元の人々によってひどいいじめを受けていたらしい。仙台に来て出会ったルリという少女から告白を受け、まともな返事もしないうちにSWDが発生。アユムの旅は、いじめと両親との死別という、理不尽に彼を叩き落とした運命への反抗と、彼が人に好かれる資格があるのか、彼が人を好きになれるのかという自分自身への問いから始めた物だった。


カオリは…気づいた時には空から星が振る中、自分がどこの誰かも知らずに、どこかも分からない場所に放り出されていた。


何故、あたしがこんな目に合わなきゃならないのか、

あたしはどこから来た誰なのか…


記憶喪失という理不尽な運命への反逆と、自分自身への問い…

アユムはそんなカオリの話に共感し、旅への同行を認めた。他者との接触が苦手な彼が…


何のことはない。アユムの旅は、彼が始めたものだったが、それをカオリが後押ししたのだ。


そして、仙台にたどり着いて、いざ、記憶が戻ってみると、カオリにあったのは、格闘系の大会を荒らし回った『伝説の助っ人』としての女子高時代と、初めて出来た彼氏に夢中になり、武道に明け暮れた過去を封印した大学時代。一旦記憶を失ったため、これまでの半生を俯瞰して見ることが出来た結果、カオリは分からなくなった。


あたしは、どんな女なのか。


この荒れた世の中に、男が造った社会が壊れ、男が作った法が壊れた今、あたしは安全な家に隠れるのか、男と肩を並べて戦うのか!?


この危なっかしい、しかし内に芯の強さを秘めた少年は、なおも南に旅を続けるという。あたしはどうするのか!?


あたしはどんな女なのか!? どんな女になりたいのか!?


     ※     ※     ※


仙台で、アユムの旅の本当の目的を聞き、一度はそれを否定し、言い争いになり、お世話になっていた富士野先生の家に戻った時、富士野先生はカオリに言った。

「でも記憶はもう戻ったんだろう!?なのに相変わらず星空が怖くないのはどうしてだい!?」


カオリは苦笑して、

「ほんと…何でなんでしょうね…」


富士野先生はカオリをしばし見つめた末に、


「相川君…ちょっといいかな…!?」


「はい…」


「…かみさんが洗濯物を取り込むのを忘れてたらしいんだ。君、すまないが、代わりに取り込んでくれないか…!?」


「あ、はい…」


それからカオリは、洗濯物の取り込みをしながら、必死に頭を動かし…父と共に死んだ母が離婚して、東京の方で生きている事にした…


     ※     ※     ※


時は再び巻き戻り、翌朝、旧埼玉県さいたま市…


レオ達5人は東京へと旅立った。例の謎のメッセージの送り主から、再度、具体的な集結の日時と場所を指定されたのだ。


「…僕達は仙台に戻りましょう。」

そう言って旅支度を始めるアユム。


これで、いい…カオリは思った。でも…


「アユム…ちょっといい!?」

「何ですか!?カオリさん…」


カオリは無言で、ブリスターバッグを差し出す。メーラーが起動されており、そこに書かれていたのは、『全てのアレッツ乗り達よ、東京へ集え。そこで、お前達の欲する物が手に入るだろう。』のメッセージ。


「…まだ、あきらめるのは早いんじゃない!?」

…やっぱりアユムのあんな落ち込んだ顔は見たくない。


「でも…」


「『欲する物が手に入る』んでしょう!?額面通りじゃないにしても、そこには日本中からアレッツ乗りが集まるんだから、ルリさんの情報を持ってる人もいるかもしれないわ。」


今、あたしは、どんな顔をしてるんだろう…カオリは思った。


「それに…『全てのアレッツ乗り達よ』って言うんだったら、あんたの後ろに乗ってるあたしも、『欲する物』を手に入れる権利がある!!」


あたしはどんな女なのか…どんな女になりたいのか…!?


「この旅は…最初っから、あんたの旅であると同時に、あたしの旅でもあったんだ!!だから…」


昨日アユムは、この長く険しい旅をずっとして来れた理由を『一緒に歩いてきてくれた女性(ひと)がいたから』だと言ってくれた。だから…


「行こう………東京へ!!

あたし達の目的地はそこだ!!」


あたしは………馬鹿だ。


第五部 首都圏編 完

皆様よいお年を。

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