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20ー5 歩む・上

気まずくなる雰囲気に、不意にアユムは、


「あ!そ、そうだ!!仕事!!仕事しないと!!廃墟へもそのために来たんだった!!」


するとアカネが、

「そういえば、その様な事を言ってたな…だがこんな所で何をするつもりだ!?」


アユムは真っ直ぐ前を指差し、

「仕事…って言っても、今回のは半ばプライベートな事情ですけどね…ほら、あれ…」

その先にあったのはジャンクの山。その中腹に、1台のスクーターが顔をのぞかせている。


「こういう所は、宝の山なんですよ。亡くなった前の持ち主には申し訳ないんですけど…」

そう言ってアユムはリアカーを止めると、ジャンク山の中腹のスクーターに両手をかける。

「…生きてる人間のために…こいつらにも…もう一働きして…もらわないと…」


スクーターを掘り起こそうとしているらしいが、非力な彼の腕ではびくともしない。


「…」「……」


不意にエイジとレオが、スクーターの上のジャンクを両側から持ち上げた。左と右のハンドルを、カオリと、アカネが掴む。

「1、2の3で引っ張り出すぞ!!」「分かりました。それまで持ち堪えます。」

アカネとエイジが叫ぶ。


「1、2の…3!!」


アユム、カオリ、アカネの力でスクーターは死骸の山から引きずり出され、安全を確認してエイジとレオが支えていた瓦礫をゆっくりと降ろす。


「こんな物を何に使う気だ!?」

アカネが問う。掘り起こされたスクーターは、ハンドルと後輪は無事だが、前輪とバグダッド電池は壊れていた。


「いえ…これがいいんです…」

そう言ってアユムはブリスターバッグから工具を取り出す。アレッツはメンテナンスフリーだが、自動修復機能が破損した場合に備えてリペアキットも搭載されている。


「それを実際に使ってる者を見たのは初めてだな…」

「うちの落合(ウォッチャー)は存在すら教えてくれなかっただろうな…」

エイジとレオが言ったが、アユムは、

「僕は『仕事』で結構活用してましたよ。それに…以前、アレッツを緊急修理する必要が生じた時にも使いましたしね…」

平泉周辺のホワイトドワーフ戦で、破損したアユム機とソラ機を修理する際に用いたのだ。そう言えばソラさんは、『先に東京に行く』と言っていたが、今頃どうしてるんだろうか…


「さあ、早速こいつを改造しますよ。」


それからアユムは、なし崩し的に手伝ってくれる事になったエイジ達に、そこを持ってて、あそこを押さえてて等と指示を出しながら、壊れたスクーターを改造し始めた。後ろ半分を切断し、カオリのスクーターに載せていたバグダッド電池…アレッツジェネレータに載せ替えた時に取り外した…を、前だけになったスクーターに載せ、後輪と組み合わせる…


一通り作業が終わった時、アユムは、

「舞鶴さん…ちょっとこれに座っていただけますか!?」

と言って、ブリスターバッグから、ある物を取り出す。


「これは…車椅子!?」

それは、明らかに手作りの車椅子。自電車の車輪やフレームを加工して造ったらしい。

「これを…君が!?」


「郡山で出会った師匠に図面をみてもらって、加工の技術も教わりました。」

「うちのおやっさんか…」

レオが言うと、シノブとエイジが、

「タイチョーも目覚まし時計を直してもらったっスよね。」

「ああ。だがあんな物まで造ってたとは知らなかった。」


「それからここまで、何度も図面を手直ししながら材料を集めて、時間を見ては造って行きました。」

「完成したんだね…アユムお兄ちゃん…」

ハジメが言った。彼女もアユムが図面を引いているのを見た事があった。


「荷重試験です。座ってみてください、舞鶴さん…」

「あ…ああ…」

促されるままにアカネは椅子に腰を下ろす。その際、背もたれの後ろに背負子の様な物が着いているのに気づいた。

「これを使うのは…母親か!?」


「僕の同級生の女子です。SWDで両足を失って、親身になって支えてくれた僕の友達との間に子供を宿しています。」


「…」

アカネは車椅子に座ったまま、何度かシートに体重をかけてみたり、車輪の手すりを回して前後に動かしたりその場で旋回したりしてみせ、そして言った。

「…私が座ってもびくともしない。だが車輪の動きはスムーズだ。きっとその女性が、赤ん坊を後ろに乗せてもスムーズに動けるだろう…」


アカネは太鼓判を押した。するとアユムは、


「それで…次はこれなんです。」


そう言って、さっきまで造っていたものを持って来た。スクーターのハンドルと前輪に、バグダッド電池を取り付けた物。それをアカネが座る車椅子の前に取り付ける。アカネはちょうど、三輪スクーターに乗っている様になった。


「デチューンして出力は安全な速度までしか出ない様にしてあります。」


アカネがハンドルを握り、グリップを握ると、車椅子はゆっくりと前へ進みだした。


「驚いたな…この様な物があったとは…」


「ええ…僕もおやっさんに教わって初めて知りました。必要に迫られなければ、気付きもしない物です。本当に…」


アカネは思った。彼の女友達とやらには、これから過酷な生涯が待っている事だろう。だがそれも、彼女の伴侶となった青年と、アユムの存在によって、間違いなく和らぐだろうと…


「渡会アユム君…」

不意にアカネが言った。

「…以前の私の発言を取り消し、謝罪しよう。君は『何もして来なかった放浪者』などでは無い。

君の旅がいかなる物であったのか、今、理解した。」


「そんな事も、言われてましたっけ…」

アユム自身、今の今まで忘れていた…

おまけ


アカネ「ところで、荷重試験の被験者に私を使ったという事は…私がこの中の女性の中で一番体重が重そうだと言いたいのか…!?(ゴゴゴゴゴぉぉぉ~~~!!)」


アユム「ご…ごめんなさぁぁぁい!!」

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