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20ー4 レオの事情 エイジの事情

「2人が一緒にいた理由は分かりましたが、どうして役所にいたんですか!?」

アユムが訊ねると、アカネが、

「私達2人分の機体の使用許可を申請するためだ。こっちではそういうのが必要だと知ってたからな…」


するとカオリがレオをジト目で見つめて、

「聞いた…!?同じ自警団団長でも、対応が違うわねぇ…」

「面目ねぇ。それにしても…この辺じゃまだ『県』が残ってんだなぁ…アレッツに乗るのに役所に届けを出さなきゃいけねぇなんて…」


「元々の自治体の底力が強いからな…宇宙人の攻撃を受けても維持できたらしい。まあ、規模がだいぶ小さくなってしまったから、警察も行政も同じビルに入ってるがな。」

アカネが周囲に広がるビル街の廃墟に、かつての繁栄を思い浮かべながら言うと、アユムとハジメが、

「それがあの『役所』ですか…」

「国を作ろうって言ってるボク達の所とは、すごい違いだね…」


「ま、彼等は彼等、我々は我々だ。もっとも、アレッツによる治安維持は警察の仕事と言う建て前と、民間人がアレッツを持っている現実とを擦り合わせた結果、アレッツの使用許可制度が出来たらしいし、東京は図体が大きいから、自治が行き届かず混沌としているそうだが…」

「なるほど、それでか…」

アカネの言葉にレオが意味ありげな素振りを見せ、


「次は俺の事情を話した方が良いな。アユム、お前等が郡山を去った後、俺達は自警団として村のために戦い続け、かつての俺達と同じ野盗を倒し続けた。ちょうどその頃、『何故か』北の方から次から次へと野盗団が南下して来たからな…例のビデオ会議の後、元手下に頭を下げて復帰してもらって、親父には村の人達にも口聞いてもらって、自警団を大きくしたんだ。」


「そう言えばレオ君…『アイスバーグ』のみんなに無理を言って出てきたと言ってましたが…」


「ああ、それは…」

レオが言いかけたその時、


「アユム君…!?」「カオリチャン…!?」

聞き覚えのある男女の声がした。そこに立っていたのは…


「最上さん…」「シノブさん…」

『最上エイジ隊』の最上エイジと、久野シノブだった。


「ご無沙汰してます。でもどうしてあなた達がこんな所…へ!?」


エイジとシノブの目が大きく見開かれ、アユムの後ろ辺りに釘付けになっていた。そこにいたのは…


「きょ…」「教官殿…」


無表情な舞鶴アカネの口角がわずかに上がり、

「ほう…貴様等か…卒業後も噂は耳にしていたぞ。」


「「きょ…恐縮至極に存じます、舞鶴教官殿!!」」

最敬礼するエイジとシノブだった。


     ※     ※     ※


10分後…


SWDスペースウォーズ・デイ後、日本に秩序と安定をもたらすために、アレッツを駆って各地で戦闘を…そして現在(いま)は、軽井沢暫定政府の下に身を寄せているのか…」

アカネが言うとエイジは、


「た…大変申し訳ございませんでした!!『ジョシュア王国』に舞鶴教官殿がいらっしゃるとは露知らず!!」

あんなに(へりくだ)ったエイジを見るのは初めてだった。エイジとシノブは、『軽井沢暫定政府』と『ヴェーダ公国』を動かして、アカネが自警団長を勤めていた『ジョシュア王国』に侵攻してしまったのだ。


「さっきから『教官』はよせ。私はとうに除隊したいち民間人だ。」


そんな3人のやり取りを見て、アユムとカオリは、

「舞鶴さん…あの人SWD前は何してたんだろうと思ってたけど…最上さんの同業者…元教官だったのか…」

「どうりで…あたしが格闘技の大会を荒らし回ってた事も知ってるはずだわ…」


     ※     ※     ※


「えっと…長野にいるはずの最上さん達がどうして埼玉に…ああでもレオ君の話を聞こうとしてたんだっけ…」


「いい。俺もそいつの事が気になる。」

そう言うとレオはエイジを鋭い視線で睨んだ。


そう言われてエイジはふぅ、とため息をつき、

「…軽井沢暫定政府には、少年問題担当大臣と、青年問題担当大臣しかいなかった。」


「確か、いじめ問題と、ニート問題の担当大臣だったな。」

アカネが言うとカオリが、

「…その人達に、日本を統治する事って出来るんですか!?」

すると今度はシノブが、

「無理っスね。」

そもそも彼らがちゃんと仕事をしていたなら、アユムやダイダ、『生きたおもちゃ』の様な者は出てこなかったのだ。


「軽井沢暫定政府と『ヴェーダ公国』は、互いに依存関係にある。暫定政府は『公国』から保護を得、『公国』はそれによって東信(長野県東部)を統治する大義名分を得ている。どちらも日本統一という『火中の栗を拾う』様な事なんてしたくないらしい。実際に『火中の栗』と言ったのだぞ。仮にも日本政府の高官だった人物が、日本を再統一する事を…全く…あんな奴らだったなんて、私は今まで一体、何のために…」


項垂れ歩くエイジに、ただリアカーを引くガラガラという音だけが響いた。


「アユム君との約束だから、なんとか沼田盆地へ自警団を侵攻させたが、やりすぎたらしい。東京方面への偵察任務を命じられた。補給も、期限も、報告の義務も無い…要は厄介払いだ。これなら私も、どこかの村の自警団に収まったほうが良いのかもしれないな…」


『宇宙人の攻撃で何もかもが崩壊した日本の再統一』 この短期間ではあまりにも非現実的な理想だった。いずれにせよ、エイジがアカネやレオのしている事を頭ごなしに否定する危険性は無いだろう。


「舞鶴教官…本当に申し訳ございません。教官のいらっしゃる国に攻め込んだ挙げ句に、この様な事になってしまって…」


するとアカネはフッと笑って、


「宇都宮侵攻の前に、私は一刻も早く任務を中断(・・)出来る様に、様々なプランを立てた。東信勢力を手引きすると言うのも、最初期の没案の1つだ。」


…エイジ隊は理想論を掲げすぎたが、この人のやってる事が現実的だとも常識的だとも思えないな…


「そ…そう言えば、どうして最上さんと久野さんの2人だけなんですか!?『エイジ隊』は、あと2人いらしたんじゃあ…」


「…その内の1人の新庄は、『エイジ隊』を除隊したよ。(なが)の放浪暮しに疲れたらしい。上田は彼の地元だそうだし、『ヴェーダ公国』自警団に転属したいと言ったので、餞別代わりに乗機をくれてやった。」


「ご…ご苦労、お察しします…」


「…そして、残った1人、酒田は…言いにくいのですが、舞鶴教官の顔を見るなり『先に行く』と言って逃げました…」


舞鶴教官、どんだけ恐れられてんだ…!?


「…話は逸れたが、私達が埼玉まで来た理由の1つは、さっきも言った通り東京の偵察、もう1つは…情けない話だが再就職先探しだ。」


「すまないが『ジョシュア王国(うち)』は受け入れられないぞ…」

アカネが言うとエイジは、「わきまえております…」。


「『アイスバーグ(うち)』も無理だぜ…」

レオが言った。『パンサーズ』時代にレオの手下が一度だけ『エイジ隊』と交戦した事がある。


「『ユニバレス連合(うち)』は…国を救ってくれた恩人って事になるんだろうけど…ごめんなさい。いち団員のボクにはそういう事を決める権限がありません」

ハジメが申し訳無さそうに言うと、エイジは苦笑して、


「気長に探すか、どこかで村を作るか…」


「ところであんた…」

不意にレオがエイジに言った。

「…あんたのアレッツの色は、何色だ!?」


「…グリーンの迷彩塗装だが…」

「アーシのはケバいイエローっスけど、『エイジ隊』の他の機体はみんなグリーン迷彩っスよ。」

エイジとシノブが言った。


「獲物は!?」

レオがエイジを睨む。

「汎用機だから何でも使うが…サブマシンガンとコンバットナイフだな…」


「スナイパーライフルは…!?」

更にレオはエイジを睨みつける。レオは『あの時』、その場におらず、出撃した手下の根古田の証言を聞いただけだった。麓の村から山の中腹を狙撃され、根津は死んだと…


「……作戦内容次第では、使うが…!?」

エイジは『あの時』、その場にいて、全てを見て真実を知っていた。が、敢えて言葉を濁した。


そのまましばらくエイジを睨み続けていたレオだったが…不意にフっ、と笑って、

「…悪かったな。変な事聞いちまって…」

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