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20ー3 アカネの事情 ハジメの事情

数十分後…


アユムとカオリの目の前には、彼らが長い旅路の果に知己を結んだ4人の男女が並んでいた。


「いつぞやのビデオ会議以来だが…こうして直に顔を合わせる日が来ようとはな…」

そう言うのは『アイスバーグ』自警団団長の氷山レオだ。


「それはこっちの台詞だ。我々にも事情があるのでな…」

と、『ジョシュア王国』自警団団長の舞鶴アカネが言う。


「ボ…ボクはまた会えてうれしいよ、アユムお兄ちゃん…」

控えめに言うのは『ユニバレス連合』自警団の少年兵…実際には少女の小鳥遊ハジメだ。


「では…説明していただきましょうか。あなた達がどうして埼玉に来てるのか…」

アユムが促したが、


「その前に一言いいか!?」

最後の1人が口を挟む。

「お前ら…どうしてうちを会議室代わりにしてるんだ…!?」

…大宮復興村のプロトアレッツ乗りにして医者の折場ダンさんだ。


「ご迷惑をおかけします…」「お…お邪魔してます…」

アカネとハジメがダンに会釈したが、


「ご迷惑だしお邪魔だ!!こんな診療所でも患者は来るんだ!出ていってくれ!!」


ダンに怒鳴られ、アユム達は診療所を追い出されてしまった。


「…俺はあの人の言い分の方がもっともだと思うぜ…」

村の通りを歩きながらレオが言った。


「すみません。皆さんの事情を知りたいので、お話を伺いたいんですけど…仕事をしながらでいいですか!?」


「仕事…!?」

事情が今一つ飲み込めないアカネが首を捻った。


     ※     ※     ※


10分後…


リアカーを引くアユムを先頭に、大宮駅周辺の廃墟へと向かう一行。最初に口を開いたのはアカネだった。


「まず、私達『ジョシュア王国』だが、沼田盆地は『ヴェーダ公国』に占領された。余所者の支配を嫌った多くの住民が前橋、高崎近辺に流入し、占領地に残る決断をした者達も不自由な日々を過ごしているだろう…」


「謝りませんよ…あなた達を追い出さなきゃ、宇都宮がそうなってましたからね…」


「ああ…沼田盆地は直に取り戻すとして…私は自警団団長を辞任した。」


「「え………っ!?」」

意外な宣言に声をあげるアユムとカオリ。


「栃木県併合に失敗し、沼田盆地を侵略され、配下の中隊長の暴走を許し、ついでに国王陛下を殴った責任を取った。」


「いや、それらほぼ全部あなたのせいじゃ無いでしょう…ていうか、王様殴ったのがついで…!?」

リアカーを引きながら呆れるアユム。


「…まあ、ちょうど自由の身になったので、近頃何かと騒がしい東京方面の様子を偵察する事にしたがな。」


「まさか団長辞任はそのためですか!?一軍を指揮出来る人間が自由の身になって、直に東京の現状を見て今後の自警団の方針を判断するための…」

「さあどうだろうな…」

「じゃあ…あなたとハジメちゃんが一緒にいた理由は…!?」

「私は友好国である『ユニバレス連合』自警団団員の小鳥遊ハジメ殿を同行者として指名し、彼女は『ジョシュア王国』自警団への出向という形で、一緒に東京へ行く事になった。」


ハジメはアカネ達が攻めてきた直後、アユム達と一緒にアカネと会ってたし、最後にアユムと共同でアカネと戦っている。アカネがハジメの存在を意識していても不思議ではないとアユムは思ったが、彼女にハジメと同じくらいの娘がいる事までは想像がつかなかった。


「でも…ハジメちゃんはいいの!?舞鶴さんと一緒で…」

心配するカオリにハジメは、

「ボクはもう自警団の一員なんだよ。これはお仕事。中学生は大人なんだから…」

最後はおどけて言うと、アユムは、

「高校生は子供だよ…そう言えば、『ユニバレス』や自警団の人達は良くしてくれてるの!?」


「…もちろんだよ…」


そういうハジメの台詞の前に、若干の間があった。


「あ、そうだアユムお兄ちゃん聞いて!!ボクね、学校へ通える事になったんだよ!!」


「良かったじゃない!」「おめでとう、ハジメちゃん!!」


「『ユニバレス』の子供たちに、中学卒業程度の勉強はさせてくれるんだって。でも、色々準備が必要だから、始まるのは春になってからなんだって。だから今は、この任務をちゃんとこなさないと…」


     ※     ※     ※


ハジメがアカネと共に東京へ行く事になった前日…


団長室へ呼び出されたハジメに、福田団長はこう言った。


「小鳥遊…お前さんは大人たちに交じって、アレッツ乗りとして実際によくやってると思うよ。


でもね…大人たちの中にはいるのよ…子供を戦わせる事を快く思わない人達が…『だったら小鳥遊はどうやって暮らして行けばいいのか』その答えなんて持ってないくせに、ね…


そんな時に、『ジョシュア』の舞鶴団長が、お前さんを東京偵察に従軍させる様に要請があった。あちらさんもお前の事を気にかけてるらしい。だから…


今回の東京行きで、出来ればお前さんがアレッツ乗りとしてちゃんとやってるって言える様な手柄を立てておいで。


もう一つ…


今、世の中は荒れていて、俺達は生きて行くためにアレッツで戦う事が必要だ。


でも、俺達だっていつまでも俯いたままじゃいられない。世界は近いうちに復興する。1年前の様な、平和で豊かな暮らしに…


そうなっても俺達はいくらでも身の振り様はある。でも小鳥遊…お前さんはどうなる!?ロボットに乗っての戦いしかして来なかったお前さんは…


今回の東京行きはいい機会だと思う。


世の中を自分の目でちゃんと見ておいで。そして、自分がどんな人間になりたいか、将来について、しっかり考えておいで…


…ま、盗っ人に成り下がった上に茶番の戦争ごっこしてたおぢさんに言えた義理じゃ無いけどね…」

おまけ


アユム「ちょっと待って!舞鶴さん以外であの部隊を統率できる人っているの!?あなたが団を離れてる間にあの王様の領土拡張欲が再燃したら!?沼田盆地の『ヴェーダ公国』に『ジョシュア王国』が滅ぼされたら!?『ユニバレス連合』は、その先にある『アイスバーグ』や仙台はどうなるの!?」


アカネ「…そうならないためにも、私は明確な手柄を立てて、自警団長に返り咲かねばならん。だからくれぐれも、私の邪魔をしない事だ。」

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