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19ー10 東京に集え

旧福島県郡山市復興村、現『アイスバーグ』…


オレンジ色のライオン型アレッツ、レオ機を先頭に隊列を組んだ数機のアレッツが、村外れに到着した。皆いずれも、虎か狼を象った四脚獣型だ。


先頭の機体から氷山レオが降りてくると、残りの機体からもそれぞれパイロットが降りてくる。うち2機は『パンサーズ』からのカムバック組と、民間からの志願兵だ。他の中隊にも何人かずつ振り分けて、『アイスバーグ自警団』はようやく隣国『ユニバレス連合』と同程度の頭数を揃えることが出来た。


「本日の訓練とパトロールはここまで!!全員、ブリスターバッグをメカニックに預けとけ!!解散!!」


レオの号令に団員たちは敬礼を返し、メカニックの元へと並んで歩いて行く。


「お疲れさん、レオ君。」

そう言いながら歩いてきた犬飼に、レオはブリスターバッグを渡す。


「悪いな…エンジニアの修行や部下の指導で忙しいのに、全員のブラックリスト編集まで頼んじまって…」


「ま、それこそ新しく入った部下が手伝ってくれるから、さ…それに…ああいう所から組織は綻ぶのかもしれないし…」


ここ数日前から団員達のブリスターバッグに届いていた謎のメッセージ。この送り主のブラックリスト登録をメカニックに依頼したのだ。


「ま…俺達はあれだけ大騒ぎして堅気に戻ったんだし、新兵達も村を守るために入った奴らだ。あんな怪しげな物に惑わされる奴なんていねぇだろうよ…」


集めたバッグの数を確認しながら、ふと犬飼が言った。

「…根古田君は今頃どこまで行ったかなぁ…」


レオは眉をピクリと引きつらせて、

「…あいつは体調が悪いからしばらく休むって聞いたぞ…」


「えぇ〜〜〜っ!?俺には『レオ団長から極秘任務を受けて村の外で活動する。ブリスターバッグの携帯許可も出てる』って…」


「そんな命令出したおぼえは無ぇぞ!?」


嘘をついてアレッツを持ち出してまで自警団を抜けた理由…たった一つだけ、心当たりがあった…


     ※     ※     ※


『ジョシュア王国』…


自警団中隊長一派による、『ユニバレス連合』自警団襲撃事件に関する関係者事情調書…


証言者1:『ジョシュア王国』自警団団員A


「何ですか、これは…!?俺は抑留先から帰ってきたばっかり……分かりましたよ。聞かれたことに答えりゃいいんでしょう…

ええ。俺はあの時、川の向こう岸の茂みにブリスターバッグを持って潜んでましたよ。連中が川を渡っている最中にアレッツを起動させて、向こう岸とこっちとで挟み撃ちにするつもりで…運悪く見つかって捕らえられ、宇都宮で何日にも渡って拘束され、その間に肉体的にも精神的にも拷問を受けました。詳しいことはいちいちおぼえてませんがね………い、いや、奴等にいちいち聞く事は無いでしょう。ゆ、友好関係にヒビが入りますよ…わ、分かりました。さっきの発言は取り消します…

と、とにかく、俺は中隊長の命令に従っただけですよ。上官の命令に絶対服従なのは、軍隊の常識でしょう!?全ては中隊長の命令です。俺は悪くありません!!」


証言者2:『ジョシュア王国』自警団団員B


「ええ。俺も中隊長から襲撃に参加する様に言われました。でも行きませんでしたよ。何故って、そりゃぁ…あの命令が舞鶴団長を通していない物だって分かってましたからね…

…自分の忠誠心は、徹頭徹尾、『ジョシュア王国』と舞鶴団長に捧げた物であります!!

………え!?………よして下さいよ…中隊長(あの男)を親分と呼んでたのは昔の事ですよ…もっとも、あいつはあの頃から嫌な奴でしたけどね…手柄は独り占めするくせに、俺達の失敗はいつまでもネチネチと…

今回の事も、あの男の妙な虚栄心による暴走なんじゃないですか!?とにかく、俺は関係ありません!!」


証言者3:『ジョシュア王国』国王、北条ヒデヨシ


「私は国家元首だぞ………分かったよ。

確かに、中隊長の襲撃作戦を許可したのは私だ。だがあの時点では、一刻も早く王国に帰還するには、さっさと宇都宮を侵略して併合するのも現実的な方策だった。それに、部下に機会を与えるのも、上に立つ者の役目だろう…もっとも、中隊長は私の期待に答えられなかったのだが…

私の任命責任は…ひとまず良い!?そ、そうか…なら、責任を取るのは中隊長だな…」


     ※     ※     ※


「…お疲れ様です…」

そう言いながら、デスクの一方に座り、ブリスターバッグのテキストエディタを打つ舞鶴アカネに、反対側に座っていた北条王は「ふぅ」とため息をついて椅子から立ち上がった。

「後は中隊長自身の調書ですね…」

これまでの証言をまとめながら言うアカネに、北条王は、


「…中隊長は更迭、野盗上がりの中隊長派も大人しくならざるを得ず、自警団は君の下に意思統一され、風通しが良くなる…願ったり叶ったりかね…!?」


アカネは表情を変えず、

「仰っている意味が分かりかねます…まあ、沼田奪還へ向けて、体制は強化せねばなりませんが…」


その時…取調室のドアをドンドン叩く音がして、

「舞鶴団長!!た、大変です!!」


「騒々しいぞ!!何事だ!?」


「ちゅ…中隊長がいません!!脱走しました!!」


「な…何ぃぃぃぃぃ〜〜〜っ!?」

叫ぶ北条王。アカネはブリスターバッグのメーラーを起動し、数日前に届き、即座にゴミ箱に入れたメールを開いた…


     ※     ※     ※


『ユニバレス連合』…


旧『ユニヴァース村』の郊外を歩く2人の男…うち1人はさっきからブツブツ愚痴をこぼしている。


「ったくよぉ…俺は自警団で、アレッツ乗りなんだぜぇ…なのに何だよ…こないだの不審者の尋問といい、今回の任務といい、アレッツに乗らない出番ばっかり…」

1人はアルファセブンのチャラ男だった。


「大体なんだよ、『チャラ男』って…これだけ出番が増えるなら、役名ぐらい考えろよな!!」

「しょうがないでしょ!?まだ中学生で、おまけに謹慎中だった小鳥遊に、あんな大男の尋問なんてさせれる訳無いでしょ!?」

もう1人は『ユニバレス連合』自警団の福田団長だった。最近はデスクワークが多い彼が出張らなければならない、今日の任務はデリケートな案件だった。


周囲に家屋はまばらで、辺りには畑が広がっている。


チャラ男は、はぁ…、とため息をつき、

「分かってるよ…これも自警団の仕事だっつーんでしょ!?それに…これは俺達男の役目だ…ハジメちゃんや女共にはさせられねぇ…」

真面目な顔でそう言うと、福田団長も、

「…ま、そう言うこと。」


それから2人がやって来たのは、畑に隣接した汚い小屋。福田団長がコンコンと粗末な扉を叩く。


「団長…いや、元団長さん…いるんでしょ!?」


返事がない。福田団長はなおも扉を叩き、


「最近どう!?もう土いじりには慣れたんでしょ!?…野良仕事にアレッツなんか使わないでしょ!?いい加減に私達に引き渡してくれないかなぁ!?私も野盗時代からあんたには世話になってたから、これ以上事を荒立てたくないのよ…」


今回の2人の役目は…『ジョシュア王国』侵攻の際、自警団から逃げ出して農民に転職した『ユニヴァース村』自警団元団長から、ブリスターバッグを回収する事だった。


これまで何度も引き渡しを要求してきたが、その度にヒゲの元団長に睨まれ、凄まれ、怒鳴られ、追い返されてきた。居留守を使われたのは初めてだが、暴力を振るう危険性がある以上、女子供には任せられない。


「おいコラクソヒゲ野郎!!居留守使ってんじゃねーぞ!!」

チャラ男が怒鳴り、ドンドン扉を叩く。

「ずっとヤラセの戦争で俺達をだましてたくせに、敵が攻めてきたら逃げ出しやがって!!てめーみたいなヘタレにアレッツは必要無え!!」

「ちょっと!刺激しないでよ!!」


「出てこいつってんだよ!!」


バタン!!チャラ男が乱暴にドアを引くと、それは鍵がかかっていなかった。薄暗くて薄汚い小屋の中には…誰もいなかった…


その時、福田団長のブリスターバッグにビープ音が鳴る。通信機能を起動させると、聞こえてきたのは幼い少女の声。

『団長さん!?こちらアルファエイト。』

別の任務で他の団員と共に『マロニエ村』へ赴いている小鳥遊ハジメだった。


『「マロニエ村」周辺で目撃された不審なアレッツですが、そのまま南西に出ていったみたいで、足取りは掴めませんでした。』


(南西…新幹線の線路に沿って行くと大宮…東京か…)


『…それで、住民から目撃情報を聞き込んだんですけど、それがどうやら…』


「ああ…お前さんの推測通りだと思うよ…」


空っぽの寝ぐらを見渡して、福田団長は呻いた。数日前から『ユニバレス』自警団のブリスターバッグにも届いていた、謎のメッセージ…


(元団長さん、あんた…あんな物に惑わされたのかい…)

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