19-7 カスタマイズ Episode 18&19
郡山以降にアユムのアレッツの武器…
長距離狙撃のための「アンブレラ・ウェポン(スナイパー)」と、中距離面制圧のための「アンブレラ・ウェポン(ガトリング)」。
紛らわしいのでそれぞれに「雲晴らし」、「雨刈り」という名前をつけた。
今、『ブリスターバッグ』の中で、それら2振りは前後に連結されていた。
「雲晴らし」のグリップと、「雨刈り」の先端を折り畳み、それぞれにジョイントを取り付け、アレッツ自身の全高より長い、超長銃身の大砲にしたもの。
アレッツ兵器ビルドのシミュレーションモード。データの中で、それを試作し、同じくデータの中のアユム機に装備させてみたのだ。
「形だけは出来上がったんだけど…」
とりあえず、試射してみる。
「射出、開始。」
シミュレータのボタンをタップしてみる。後ろ側の「雨刈り」の多銃身が高速で回転し、生成したパーティクルを次から次へと前側の「雲晴らし」へと送られて行き、細長い銃身から射出される。
長い長い光の柱が!!
………数秒もしないうちに勢いを失って消えてしまう。画面には"Energy Empty"の文字。
「ありゃ!?せめて1分は保たせたいのに…」
エネルギーの供給量自体が足りないのだ。ジェネレータもコンバータも…
「データをいじろう。エネルギー供給量を無限大に…」
もう一度射出…しかし1分保たずにガーガーとワーニングが出る。"Joint Broken"
「連結用のジョイントが耐えきれないのか…」
今度はジョイントの耐久力をデータ上無限大に…ここまで耐久性上げるにはガチガチに補強材で固めなきゃならないな…
三度射出………何とか1分経過。ジョイント分離、通常戦闘に移行……ガー、ガー、ガー…またもやワーニング。"Overheat"
「熱!?膨大なエネルギーを射出し続けた熱で使い物にならなくなってる!!」
ピっ! アユムはシミュレータを落とす。
「エネルギー供給に物理的耐性に排熱か…問題山積みだな…」
でも…何としてでも完成させないと…
カオリさんと約束したんだ。ダイダとの決着が着いた以上、僕はこれから、前を向いて進んで行かないと…
ルリさんに告白の返事をして、
あいつ…『生きたおもちゃ』を、止めないと…
謎の監視者『ウォッチャー』によって、アユムの各地での『活躍』は、9本の尾ひれを付けて喧伝されている。にも関わらず、仙台のユウタ達も、郡山のレオ達も、宇都宮のハジメ達も、果ては群馬のアカネ達も無事だった。当初危惧していた、アユムを鬱陶しく思った『生きたおもちゃ』が、アユムの関係者を殺す様な事はしていないらしい。『全知』なるチート能力を持つあいつならなおの事、彼等とアユムとの関係を知らないはずか無いというのに…
自分の復讐以外の事に興味が無いのか、アユムの事は端から歯牙にもかけていないのか、あるいはその両方か…
そして、想定される最悪の事態…『生きたおもちゃ』が『全知』の能力を使ってルリの事を知り、居場所を突き止め、先回りして殺す危険性は、皆無だ。
何かを知るには疑問に思う等の『知りたい』という意志が必要だ。『生きたおもちゃ』の精神状態から推測すると、アユムの旅の目的なんか、多分考えもしないだろう。
そして、『全知』の能力の正体…宇宙の果てから来たロボットが地球のいじめっ子の住所を探し当てた事を考えると、何等かの地球の情報にアクセスしているのだろう。であれば、記録の無い情報…誰も知らない事や、誰も記録を残さなかった事を知る事は出来ないだろう。実際、『生きたおもちゃ』は、『グラスウール事件』が、クラスメート全員が緩く関わった悪質ないじめだった事を知らなかった。あの担任教師が大事になるのを避けて記録を残さなかったのだろう。
話を戻そう。アユムとルリの関係は、つい最近まで2人だけの秘密だった。記録なんて残っているはずが無いので、『生きたおもちゃ』がその事に気づく事も無い。ましてや彼女の現住所なんて、知ってるなら教えて欲しいくらいだ。
(でも、僕とあいつとの進む道はいつかきっと交わる。その時のために準備しないと…)
ブリスターバッグのメール機能には『全てのアレッツ乗り達よ、東京に集え。そこで、お前達の欲する物が手に入るだろう。』のメッセージ。
あいつにも、きっと届いているはずだ。
そう言えば、後から造ったスナイパーとガトリングの2振りのアンブレラ・ウェポンに名前をつけたので、前から使っていた2振りにも名前をつけた。
刀身が短めの方が『アンタレス』、長めの方が『フォーマルハウト』。
アユムの旅が夏から秋にかけての、南へ向かってのものであったため、夏と秋の夜空の南の一等星の名前を取って名付けたのだが、さそり座の『アンタレス』は『火星の敵』という意味で、黄道に近い赤い星であるため、火星が隣に並んで赤さを競い合っているかの様であるため、この名前がついたらしい。またみなみのうお座の『フォーマルハウト』は『魚の口』という意味で、フォーマルハウトが属するみなみのうお座は、ギリシャ神話の愛と美の女神であるアフロディーテの化身とされている。火星つまりアレスはギリシャ神話の軍神の名前でもあるため、偶然神様の名前つながりになってしまったが…この名前はカオリを意識してつけられた物なのだろう。
(カオリさん…あなたがいなかったら、僕はここまで来れなかった。強さと美しさと優しさを兼ね備えたあなたは…僕の女神だ…
まあ…そんな事言ったらカオリさんはケタケタ笑うだろうから言わないけど…)
でも…
『人を好きになるって言うのはね…他の何を差し置いてでも、その人のことを第一に考えるって事よ!!』
『富士野先生が仰ったの。「君には生き別れのお母さんがいる。」って…だから…あんたの旅に、これからも連れて行って欲しいの。』
『相川さんのお母様は、お父様と一緒に事故で亡くなっている。』
「………僕はいつまでも、あの女性の優しさに甘えていていいのかな…!?」
アユム「あと、アフロディーテはともかく、アレスは男神だよな…」




