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19ー3 苦肉の策

翌日…


決闘の指定場所には、数体の野盗アレッツと、対峙する群青色のアレッツ。


「よく来たな、『スーパーノヴァ』。たった一人で、な…」

「いくらお前でもこの人数は捌けんだろう。貴様一人では、な…」

「お前はここで死んでくんだ。一人っきりで、な…」


『スーパーノヴァ』のコクピットの中では、アユムが、


「僕は、一人がいい………



って、言ってたんですけどねぇ…」


「ざーんねん。この子にはあたしがいるんだよ!!」


アユムはニヤリと笑い、コクピットのリアシートには、カオリが座っていた。


「「「な………!?」」」

慌てたのは野盗どもである。


「何でぇぇぇぇぇっ!?お前ら、ケンカ別れしたんじゃなかったのかぁぁぁぁぁ〜〜〜!?」


     ※     ※     ※


前日、カオリの見知らぬ男とのヌード写真を見たアユム。


「ち…違う………これ(・・)カオリ(・・・)さん(・・)じゃない(・・・・)。」

アユムは言った。


「え………!?」

アユムの言葉にカオリも意外だった。


「…アユムクン、ドウシテそれがカオリチャンじゃないって分かるノ!?」

ソラが躊躇いがちに聞くと、


「体型が、全然違います。カオリさんはもっと胸が大きくて、お腹が引き締まってる…」

「アユムーーーっ!!」

カオリが絶叫する。


「…ドウシテ、そんな事が分かるノ!?」

ソラが恐る恐る聞くと、アユムは、


「…見た事、あるから…(第一部1ー6話参照)」

「記憶消せ〜〜〜っ!!そして一度見ただけでおぼえるな〜〜〜っ!!」

アユムの頭をガンガン殴るカオリ。

「大人ネ!大人の関係だったのネ!!アユムクン!!」

ソラも嬉しそうに身体をクネクネさせる。


「ここ、よく見てください。カオリさんの身体は正面から光が当たってるのに、顔だけ横から光が当たってる。首の太さも不自然です。多分、コラージュですよ。誰だか分からない女性のヌードに、カオリさんの頭を付けた…」

「だからよく見ないで…首から下が別人だって分かってても恥ずかしいんだけど…」

カオリが顔を赤らめながら言うと、アユムは「こういう事はあいつが詳しいな」と言いつつスマートフォンを操作する。ピ、ポ、パ…


『おう、アユム!どうした!?』

電話に出たのは仙台の黒部ユウタだ。

「もしもしユウタ!?これこれこういう感じの画像持ってない!?」

『任せとけ!俺のエロ画像フォルダが火を吹くぜ!!』

そして送られて来たのは、アユム達に届けられた写真とそっくりの画像。ただし、女性の顔がカオリとは似ても似つかない胸が大きいだけのブスになっている。


「どうやら元画像はこれですね…」

『ユータっ!!あんたこんな物持ってたの!?私という者がありながら!!もうすぐ父親になるってのにっ!!!』

『げぇっ、カナ!?…あんぎゃ〜〜〜(ドカバキグシャッ!!以下、殴打する音がずっと響く)』

…どうやら仙台に残して来た2人はあれからも仲良く暮らしているらしい。


「とにかく、この写真は良からぬ者の仕業でしょうね。アレッツ乗りの僕等にケンカを売るって事は、恐らく同じアレッツ乗り…野盗でしょう。僕の強みがカオリさんとの連携にあるから、僕等を分断して倒そうって魂胆で…『スーパーノヴァ』を倒して名を上げようと思ってるか、アレッツジェネレータの発電機転用という余計な事を考えた僕への恨みか…その両方でしょうね。」

そう言いながらライターを取り出してコラージュ写真を焼くアユム。当のアユムに看破された時点で、良からぬ者達の目論見は潰れてしまっているが…


「…どの道、その写真ヲ作って送った張本人達ハ、もう一度接触を取ってクル訳ネ…」

ソラは顎に手を当てながら、

「ダッタラアユムクン、カオリチャン、あんた等ケンカしたふりをしなサイ。」

と、言った。


「え…!?」「ケンカの、ふり…!?」


「ソ!奴等の目論見に嵌まったふりヲして、アノ写真が原因でケンカ別れした演技をするノ。思いっきり派手に、奴等の目にも入るくらいに、ネ。逆にそいつ等ヲ釣り出しテ、全力のアナタ達デ懲らしめちゃいなさいヨ!!」


「え…」「は、はあ…」


「アユムクンだって年上のカノジョを辱しめられてハラワタ煮えくり返ってるんデショ!?とことんやっちゃいましょうヨ!!」


ソラのその一言を聞いたアユムとカオリは、真顔になり、


「あのー、ソラさん…」

「私達、そう言う関係じゃ無いです…」


     ※     ※     ※


「…告白してくれた女の子を探しテ返事するために旅してるオトコノコと一緒に旅スル、自分ノ記憶ト生き別れノ母親ヲ探すオンナ…あ、アナタ達って本当に面白いワネ…」

ソラさんは苦笑し、

「…分かったワ。その事モ設定に入れテ、ワタシがケンカの台本を書いてアゲル!」

ウィンクして、ブリスターバッグのテキストエディターを操作し出した。


「あ…でもカオリさんはアナウンスとか演技とか苦手みたいだから、難しいと思うんですけど…」


「分かったワ。カオリチャンの台詞は最後に一言だけにしテ、アユムクンが一方的に罵って、ワタシが宥める感じにするワネ。」


     ※     ※     ※


…と、言う訳で、ソラの台本を基に演技して、嵌めたつもりが嵌められた野盗達の前に、二人連れ添って現れたアユムとカオリであった。


「…あんた達、あたしのセクシーショットをどうもありがとう…お礼にあたしの全てを見せてア・ゲ・ル♡

…あたしの剣技の全てを、ね!!」

カオリの台詞は最後は口調で人を殺せそうだった。

「カオリさん…なるべくパイロットは殺さないで下さいね。出来るだけ…」

「アユムうるさい。今回上半身の操作はあたしにさせてくれる事になったんだから黙ってなさい!!」

「カオリさん…万一の時はあれは正当防衛だったって証言しますね…」


アユム機の左右の腕には閉じた傘に見える、剣にも銃にもなる長短2振りの武器。短い方は北海道からずっと使っていた物、長い方は東北を旅している途中で造った物。


左手にアンブレラ・ウェポン(ミドル) 『戦神の敵(アンタレス)』!!

右手にアンブレラ・ウェポン(ロング) 『美神の魚口(フォーマルハウト)』!!

そして、操る機体は、戦神にして美神なる無銘の剣豪の太刀筋を、忠実に再現する逸品!!!


「辱められし女の怒り、思い知りなさい………!!」

「カオリさん僕のキメ台詞取らないで〜〜〜!!」


「あわわわわ…」「誰だよ『スーパーノヴァ連環の計』なんて下らねえ事考えたの!?」「お、俺じゃねぇ!!こっち見んな!!」


恐怖に互いに身を寄せ合う野盗達。いくつもの村を食いつぶし、内部抗争にも勝ち抜いた…所詮弱い者いじめの暴力の犬だった。


「行っくぞぉぉぉぉぉ〜〜〜っ!!」


「「「ぎゃ~~~~~っ!!!」」」


     ※     ※     ※


それから、幾筋もの流星が野盗達の周りを飛び交い、何体もの野盗機はたった1機の前にスクラップとなった。悪名高い野盗どもは東京の地を踏むことなく果て、入手出来たアレッツジェネレータは多くの良民の生活を潤すだろう。


バラバラになった野盗機のパーツがそこかしこに転がる中に、1人立つアユム機。そのコクピットのリアシートで、カオリがアユムに言った。


「それにしても…あんたあの演技の最後に泣いたんですって…!?台本に無かったわよね!?大した役者じゃない…」


アユムは顔を赤らめ、


「か、カオリさんだって、最後の一つだけの台詞は、『バカ〜〜〜っ』ってだけだったはずなのに…何ですか、『人の気も知らないで』って…」


「あ、アドリブよ。アドリブ。それから…聞いちゃったのね…富士野先生に…」


「ええ…」


「………ごめん…」


「……いつか、ちゃんと話して下さいね…」


2人の様子を遠巻きに眺めていたソラは、


「そう…素人役者に泣きの演技なんてさせられないカラ、最後にアユムクンが泣くナンテワタシの台本には書かれていなかっタ。それからカオリチャンノ台詞も『バカ』だったノニ、実際出たノハ『人の気も知らないで』ダッタ。そしてその前のアユムクンの台本に無い台詞…ナノニ2人はただノ旅の道連れだと言ウ……フフ…アナタ達、本当に面白いワネ………」


     ※     ※     ※


以降は埼玉到着後の、アユムと富士野先生との、メールのやり取りである。


アユム->富士野先生

(中略)カオリさんも、生き別れのお母さんに必ず会わせてあげます。


富士野先生->アユム

それは何の事だね!?


アユム->富士野先生

カオリさんのお母さんはお父さんと離婚して、東京の方にいらっしゃるんじゃないんですか!?


富士野先生->アユム

相川さんのお母様は、お父様と一緒に事故で亡くなっている。

私がお二人のお葬式の手伝いをしたんだ。間違えたり忘れたりする訳が無い。

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