18ー7 子供部屋のダイダラボッチ
旧埼玉県某所…
住宅街の廃墟にある、半ば崩れた一戸建てがあった。家人は1年前に全員いなくなった…
その2階の子供部屋に、昼日中から眠るダイダの姿があった。
子供用の小さなベッドは彼の巨体には合わず、背中丸め、脚を抱え込むように横たわっている。こんな姿勢では熟睡できるはずが無い。が、そんな事はどうでもよかった。
どうせ眠れないから…
※ ※ ※
暗闇の中に、ダイダは立っていた。辺りには何も無い。何も見えない。なのに…ダイダは何かに怯え、辺りをキョロキョロと見渡していた。
チクっ! 不意にダイダの右つま先に、針で刺された様な痛みが走る。
ボコボコっ!! ダイダの右足首一面が水ぶくれで覆われる。
ボコボコボコボコ… 水ぶくれは足首から脛、膝、太腿へと登り、広がっていく。痒い…痛ぇ!!
ボコボコジクジクボコボコジクジク… 水ぶくれと激痛は股から腹、胸へと這い上がって行き、肩から左腕に抜け、あっという間に腕が水ぶくれでボコボコになる。
痒い!!
思わずダイダは左腕を掻きむしる。すると、皮膚の下から、虫のように小さな小さな渡会アユムが何十人も何百人も現れる。どいつもこいつも俺の肉をむさぼり食ってる。痛ぇ痛ぇ痛ぇ!!
ギ ン! 何百人もの渡会アユムが一斉にこっちを振り向き、ダイダと目が合う。アユム達は何故か、左右の目の色が違っていた。
キシャァァァァァっ!! 中央の渡会アユムが奇声を張り上げ、 ピョン!と飛びかかり、ダイダの首…頸動脈に噛み付く!
※ ※ ※
「グェアァァァァァっ!!」
ダイダは飛び起きた。廃墟の子供部屋で。全開になったカーテンからは、陽光が燦々と照りつけている。
暗い夜だと星降る夜とアユム機の悪夢を見るので、昼間なら少しは休めるかと思ったが…『生きたおもちゃ』に負わされた全身の大火傷の痛みで、またもや起こされてしまった。
全身至る所が火傷で赤黒く変色し、皮膚が剥けてしまっているのだが、持って産まれた強靭な体は、彼を未だに生に繋ぎ止めていた。
ダイダの枕元にはロボットのおもちゃが落ちていた。ベッドの上に、かつての部屋の主がおもちゃ箱に使っていた収納があり、そこから落ちて来た様だ。それにしても…
「恐るるぉしい、夢だったぜぇぇぇ…」
その瞬間、ダイダの脳内の血液が沸騰した。恐ろしい!?恐れてる!?
誰が!? 俺が!?
誰を!?
………渡会を!?
「ガ ァ っ!!」
ダイダは吼え、拳をロボットのおもちゃに叩きつける。その一撃でロボットの首が飛ぶ。
「渡会、渡会、わたるるぁいぃぃぃぃ〜〜〜!!何で…何でなんで俺が、お前を、お前なんかを〜〜〜っ!!」
ガン!ガン!!拳を叩きつける度にロボットのおもちゃの手足がもげ、原型を失っていく。
「俺は、俺は、ダイダ様たぞ~~~!!」
叩きつける度に、火傷を追った拳に激痛が走る。その痛みが彼に更にストレスを与え、そのストレスを発散するために更にいじめと破壊に走る、悪循環だった。
「なのに何だ!?あいつのせいで俺は星空にビビり、眠れなくなって、アレッツを何度も壊され、火をかけられて…」
最後のはアユムではなく『生きたおもちゃ』だが、連日の不眠はダイダから元々怪しかった正常な思考を奪っていた。
「…こんな所に来ちまって、帰る道も分からなくて…」
最後の台詞は弱々しかった。
「俺は、いじめる側、渡会は、いじめられる側だ…もう一度あいつを、叩いて、蹴って、突ついて、バラバラにぶっ壊してやるるぅぅ~~~…」
グッ…ダイダは血の滲む拳を握りしめ、
「渡会~~~…俺と、お前を………北海道へ戻してやるぅぅぅ~~~!!」
子供部屋にダイダの唸り声がこだました…




