18ー5 ロボットものの世界の終わり
「これを見てください…」
そう言ってアユムが映したのは、自身がレストアし、ここまで乗ってきたスクーター。シートを開けて中を見せると、本来バグダッド電池が収納されているはずのそこにあったのは謎の機器。いや、どこかで見た事がある様な…
『『『アレッツの、ジェネレータ!?』』』
レオ、犬飼、アカネ、福田団長から異口同音に声が上がった。だがおやっさんはきょとんとした顔で、
『何、言ってるんだ!?あれはバグダッド電池だろう!?』
予想通りの反応にアユムは微笑みながら、
「皆さんが仰るとおり、これはアレッツのジェネレータです。前々から思いついてはいたんですけど、郡山で僕のスクーターの調子が悪くなった時、バグダッド電池を外してアレッツのジェネレータに載せ替えました。」
するとカオリは慌てて、
「ちょっと…そんなとんでも無いスクーターと、何であたしのスクーターは一緒に走れてたの!?」
「カオリさんのスクーターのバグダッド電池もついでにアレッツのジェネレータに載せ替えてましたよ。」
「な…何ですってぇぇぇ〜〜〜!?」
「あの時分解したでしょ!?何故かカオリさんには止められましたが…」
「あんた、あのズタボロの精神状態で正常に判断してたの!?」
どうりであの後、妙にスクーターの調子が良かったはずだ。そして、アユムがこんな事しようとしてたなら、もっと全力で止めるべきだった。
「話を元に戻します。おやっさんはさっきこれを見て、『バグダッド電池だ』と仰ってましたが、それも合ってます。何故なら…ここからは僕の推測ですが、アレッツのジェネレータは、非常に高度に進化したバグダッド電池だからです。」
『『『な、何だってぇぇぇ〜〜〜!?』』』
各地から一斉に声が上がる。
「半壊したアレッツを何度か見て、前々から思ってたんですよね。アレッツのジェネレータ…もう、『アレッツジェネレータ』でいいか…アレッツジェネレータは、バグダット電池に似てるなって…バグダッド電池はエネルギー保存則の回避、アレッツのブリスターバッグは質量保存則の回避…ね!?似てるでしょ!?」
『そ、そんないい加減な…』
『似てるって…こんな事に、何で誰も気づかなかったんだろう…』
『そりゃ、バグダッド電池の知識と技術があって、アレッツ乗りやってる奴なんて、こいつくらいしかいなかったからだろう…』
「旅をしながら、半壊したアレッツジェネレータを分解、調査して、丁度奥羽山脈の峠で無傷のアレッツジェネレータを2機(ダイダ機の両脚分)手に入ったので、郡山滞在中にそれを僕とカオリさんのスクーターに載せました。全長7mのロボットの膝下に載ってるアレッツジェネレータは、大きさ的にもスクーターのシート下に入りますし。そして、スクーターの中のアレッツジェネレータが十全に機能している事は、郡山から大宮まで、何の問題もなく走って来れた事が証明しています。」
アユムの話に皆がザワザワと議論し出す中、『アイスバーグ』の氷山コタロウ氏が発言した。
『これが世紀の大発見だということは分かった。だが、このビデオ会議にはどんな意図があるんだね!?』
アユムは画面上の各地の人々に言った。
「もう我々が宇宙人の落としたロボット兵器に悩まされる時は終わりです、これからは我々が宇宙人の落とし物を復興に利用する時です。と言う事です。」
『つまり、アレッツジェネレータを生活用のエネルギー源に転用しよう、そのために野盗等、良からぬ者のアレッツを狩ろうって言うのか!?』
おやっさんがそう言うと、犬飼は、
『荷電粒子砲を撃つロボットの動力源だ。電力換算でもSWD前の一般家庭何百世帯分を賄えるんだ!?』
『俺はアレッツを倒し続けるのに異存は無え。』
レオが言った。以前のアユムとのビデオ会議の際、アユムから倒したアレッツの残骸を保存しておく様に言われてたが、そういう事か…
『俺達は不要とされたらアレッツを引きずり降ろされて、脚からジェネレータをほじくり出されるって事かい!?』
福田団長が言った。もう模擬弾で茶番の戦争なんかやっていられない。
『近々信州産の活きの良いジェネレータが大量に手に入る予定だ。我が国でも活用していくが、国王陛下に提案して輸出でもしてみるか!?』
舞鶴アカネが物騒な事を言った。最上さん逃げて~!!
『もしかしたら、俺はバグダッド電池よりも、アレッツジェネレータの方が分かるかもしれないな。』
犬飼が言った。
『足を洗った野盗の再就職先として、アレッツジェネレータのエンジニアって道が出来るのか…』
レオが言った。これで『豹の檻』の元パンサーズメンバーにも未来が見えてきた。
『でもそれだと、折角バグダッド電池の技術を学んだおやっさんは…』
『また学び直せばいい。今度はバグダッド電池の知識もあるし、お前らが産まれるずっと前からのエンジニアとしての経験もある。それに、当分はバグダッド電池のニーズもあるだろうからな。』
『ステキヨ、アユムクン…アナタはワタシが思ってた以上の子だったワ…』
ソラが身体をクネクネさせながら言った。
暗い夜に、寒い冬に悩まされる事の無い日々、日本を北から南へ縦断するのに武装しなくても良い世の中、アレッツの無い世の中の到来に、皆心踊らされる中、仙台のユウタが言った。
『でもよぉ…バグダッド電池は地球の技術だけど、アレッツジェネレータは宇宙人の物なんだろう!?違う星で出来た物が、なんでそんなに似てんだ!?』
すると『アイスバーグ』のおやっさんと犬飼が、
『地球と奴らの星とで、物理法則が違う訳じゃ無いだろう!?』
『違う星が同じ様な文明水準まで進化した時、偶然よく似た技術を発明した、そう考えたら納得行くと思うぜ。』
宇宙人は、人。人形ロボット兵器を作った存在は、地球人と同じ姿をしている。その言葉を口に出さないまま、その後いくつかのやり取りの後、アユムはビデオ会議を終了させた。
※ ※ ※
ビデオ会議終了後、『アイスバーグ』…
レオは言った。
「犬飼…アレッツジェネレータをいくつかそっちに寄越す。絶対、ものにしろ。」
「ういっス!」
「それと親父。俺も元『パンサーズ』に復帰を促してみるから、村の人達に自警団の参加を募ってくれ。兼業でもいいから、と…」
「『ジョシュア』や『ユニバレス』を刺激しないか!?」
「親父だって危機感感じてんだろ!?奴等の規模は俺達よりずっと大きいらしい。これからの自警団の相手は、野盗じゃなく、よその『国』の自警団だ。」
※ ※ ※
『ユニバレス』…
「お疲れ様、小鳥遊…」
福田団長が、後ろでずっと見ていたハジメの方を振り向くと、彼女は胸に手を当て、
「エンジニア…」
※ ※ ※
『ジョシュア』…
ピッ! アカネは録画ボタンを切った。後でこれをうちの技官に見せよう。
「それにしても…あのアユムという少年、『スーパーノヴァ』ではなく、こっちの方が本分なのかもな…」
※ ※ ※
旧埼玉県さいたま市…
カオリはアユムに、
「全く…あんたがこんな事考えてたなんて…」
アユムは微かに微笑み、
「カオリさんには、いっぱい叱ってもらいましたからね…」
その言葉にカオリはぷいと向こうを向いた。その時の彼女がどんな表情をしているのか、アユムには分からなかった。一部始終を見届けた折場ダンは、無言でその場を立ち去った。
カオリを先に帰して、ビデオ会議のために設営した機材を撤収していたアユムは、そう言えば富士野先生にメール打たないと、と思い、先生にこれまでの経緯を、差し障りのない範囲で書き、最後に、
『カオリさんも、生き別れのお母さんに必ず会わせてあげます。』
と、しめくくった。
すみません、郡山編の最後に、『スクーターはちゃんと修理されてた』事を書くのを忘れており、慌てて修正しました。




