18ー4 三カ国ビデオ会議
10分前、『ユニバレス連合』自警団詰め所、取調室…
「お前ぇ…こんな真っ昼間から酒でも飲んでたか、あぁ!?」
部屋の中のデスクの一方で尋問する、自警団アルファセブンのチャラ男。
「…あれハ自分デモはしたなかったと思ってるワヨ。」
反対側では不貞腐れた網木ソラ。
「…国が出来て攻めて来た奴らが出て行って、浮かれるのは分かるけどよぉ、昼日中とはいえ、村の真ん中で大声出すんじゃねぇよ!!不審に思った住民から苦情が出てんだよぉ!!」
カオリにセクハラ痴漢やらかしたこの男も、今では立派な公僕である。
「失礼ネぇ…ワタシは怪しい奴ジャナイワヨ…」
無茶苦茶怪しいソラは言った。
「…ま、騒乱罪程度でこっちも大事にするつもりはねぇんだ。以後注意してくれれば…」
「あ、ソウダ!!アンタ、『ウォッチャー』知らない!?これヲアップした奴なんだけド…」
そう言ってソラは自身のブリスターバッグに『ウォッチャー』の動画を映して見せると、途端にチャラ男の態度が強張る。
「お…お前…!?アレッツ乗りだったのか!?」「ワタシの事はどうでもいいのヨ!これヲ投稿した奴、知らナイ!?」「てめぇ、どこの者だ!?『ジョシュア王国』の残党か!?それとも茨城か!?南関東か!?」「チガウ!!」」「水陸両用!?やっぱり茨城か!?」「ダカラチガウって!!」「それを寄越せ!!」「イヤヨ!!」
噛み合わない押し問答の最中、遠くから「アユムお兄ちゃん、ごめんなさい!!」の声が聞こえ、
「アユムクンがここにいるノ!?アンタチョット待ってナサイ!!今ココに、話が通じる子がいるカラ…」
ドン!「わっ!!」チャラ男を突き飛ばし、「アユムク〜〜〜ン!!」ドタドタドタ…声の方向へ廊下を大股で走り、たどり着いた部屋にはおっさんと女の子がタブレットの前に並んでおり、タブレットの画面には探し求めていた愛しの君。
「アユムクン…ビデオ会議なのネ。まぁいいワ。オネガイ!ワタシは怪しい者ジャナイって、コノ人達に言ってチョウダイ!!」
※ ※ ※
『…その人は悪い人じゃないですから解放してあげてください。』
アユムは言った。まあ、色々怪しい疑惑はあるけど、危ない所を何度も助けてもらった事があるし、払いのいい太い客でもある…
『…あと、丁度いいのでソラさんもそこから会議に参加してください。』
「アリガトウアユムクン、分かったワ!!」
それからソラは乱入からの一部始終を呆然として眺めていたハジメの両手を握り、
「アナタ、アユムクンの妹ナノ!?」
「え…あの…その…」
※ ※ ※
5分後…
「オーイオイオイ!! オーイオイオイイ!!!」
『SWDで両親を失い、まだ13歳なのに今まで廃墟で一人で暮らして来たが、最近自警団のパイロットになった。』そんなハジメの経緯を聞いたソラは、滝の涙を流し、団長室は膝下まで浸水した。
『ごめんねハジメちゃん…その人、良くも悪くもそういう人だから…』
アユムがそう言うと、ハジメも、
「確かに…」
いい人みたいだ。ソラがようやく泣き止んでくれた事で、水も引いた様だ。
『そろそろ時間なので、既に招待した他の人も、ログインして来ると思います。』
すると福田団長が、
「ああそれなんだけど…うちの宮部国王は、別件があるから欠席だって…」
※ ※ ※
同時刻、『ユニバレス連合』、国王執務室…
宮部国王は『ジョシュア王国』の北条王とビデオ会議中だった。
「…次に、捕虜としてこちらで預かっている貴国自警団団員2名は、乗機も付けて無条件で返還させていただこう。残りの2人は…」
宮部国王が言うと、北条王は、
「我が国の自警団に、盗み働きをする者なぞおらんよ。そいつらは大方野盗の類だろう。煮て食うなり焼いて食うなり、好きにするが良い。」
「ではせめて、鹵獲した乗機だけでも返却させていただこう。戦力は…必要だろう。」
アユムとカオリが去った後、『ジョシュア王国』は『ユニバレス連合』を国として認め、友好条約を締結したいと申し出、『ユニバレス連合』の宮部国王はこれを受諾した。
『ジョシュア王国』は沼田盆地を『ヴェーダ公国』に占領された。まるで戦国時代のワンシーンの再現だか、これから戦って奪還するために戦力は必要だし、『ユニバレス連合』に後ろから斬られる訳にはいかないのだ。今後、沼田盆地から『ヴェーダ公国』を追い出せたとしても、今回の事で『ジョシュア王国』には他国侵攻の余裕が無いのは明白だ。短慮な王も馬鹿な気は起こさないだろう。
『ユニバレス』としても、今のうちに国内の安定に専心したい上、万一『ジョシュア』が落とされたら軽井沢暫定政府の尖兵である『ヴェーダ公国』は、次の標的を『ユニバレス』に向ける危険性が高いため、『ジョシュア』には何としても持ち堪えてもらわねばならない。
「…すまんな。」
「我々は、友好国だからな…(ビーッ!!)」
突如宮部国王の画面の隅に上にウィンドウとビープ音が上がる。
「渡会君…!?あ、そうか…ビデオ会議のアラートを消し忘れてたのか…」
それを画面の向こうの北条王が耳聡く聞きつける。
『渡会…「スーパーノヴァ」が、何の用ですかな!?』
宮部国王は慌てて、
「…き、貴殿の聞き間違いでは無いかね!?」
北条王はニヤァとこっちを睨んで、
『我々は友好国では無いんですかねぇ!?』
「………」
宮部国王の額に、いくつもの脂汗が浮かんだ。…極めて遺憾だ…
※ ※ ※
10分後、大宮…
『…と、言うわけで、宮部国王と対談中の北条王の代理で、私が参加することになった。』
タブレットの画面には『ジョシュア王国』自警団の舞鶴アカネ団長の顔。
「は…はぁ…」
招待メールを送らされたアユムも、ついこの間戦った相手と再び顔を合わせるのは気まずかった。だが、『ジョシュア』と『ユニバレス』の戦争が終わって友好国となったならもう仕方が無い。それに、今から話す内容は、拡散するに越したことは無いのだから…
しばらくして、郡山、次いで仙台と、通信が繋がった。郡山…『アイスバーグ』は、氷山レオ、父親のコタロウ氏、おやっさんと犬飼も一緒だった。アユムとカオリの後ろには、一昨日から世話になっている折場ダン氏も参加している。本当はエイジとシノブも呼びたかったが、独立国を名乗っている者がいる中に、暫定政府の関係者を呼ぶのはまずいと思って呼ばなかった。
舞鶴アカネの参加に、画面の中の氷山コタロウ氏の顔が一瞬強張ったが、コタロウ氏は襟を正し、
『はじめまして…「アイスバーグ共和国」、農業大臣兼防衛大臣の、氷山コタロウです。本日は大統領の代理で参加しました…』
するとアカネは無表情を崩さず、
『「ジョシュア王国」自警団団長の、舞鶴アカネだ。申し訳ないが、貴国とは遠く離れている上、北条王は内政に重きを置かれているため、私が貴国を訪問する事は、当面無いと思われる。』
今度はこっちの画面でコタロウ氏が、
『お気遣い、痛み入る…』
コタロウの後ろで、レオが『ユニバレス』のソラに、
『客人…いや、ソラ、済まねぇ…お前の追加ブースター、預かったままだ…』
『イイワヨ。次に会う時まで使ってテ…』
そしてレオは画面を見つめ、
(このオバサンが『ジョシュア王国』の女将軍、舞鶴アカネか。アユムの謎技、『インビジブル・コラージ』の正体を見破ったと言う……『ユニバレス』の団長は…ああいう頭もいるって事か。…後ろの子供もアレッツ乗りなのか!?)
※ ※ ※
『ジョシュア』ではアカネが、
(後ろにいるのが『アイスバーグ』のレオ団長か…野盗上がりとの事だが、うちの中隊長よりは大分ましか…そして『ユニバレス』にいるソラとか言う怪しい大男は何だ!?)
※ ※ ※
『ユニバレス』ではハジメが、
(『アイスバーグ』のレオ団長…怖そうだけど強そうな人…)
※ ※ ※
こうして…北関東から南東北までの三カ国を巻き込んだビデオ会議が始まった。
最初に口を開いたのは、主催者のアユムだ。
「まず…今回お呼びしたのはいずれも、僕がバグダッド電池の修理屋で、アレッツ乗りだという事をご存知な方たちです。」
『やっぱり…そうだったのか。』
一番隅のウィンドウに映っていた、仙台の黒部ユウタが言った。そこでようやくアユムは気づく。
「しまった…ユウタに僕がアレッツ乗りだって事、言ってなかったんだ…」
「アユム…」
カオリもジト目でアユムを睨んだ。
「えーっと…ユウタ、知ってたの!?僕がアレッツ乗りだって…」
『今の危険な日本をずっと旅してたって言うのが不自然だったし、お前が旅立った後、仙台にも、お前と同じ名前の、滅法強いアレッツ乗りの噂が流れて来たんだ。』
「ごめん、今まで言ってなくて…ちなみに、富士野先生は!?」
『「君たちはもう大人なんだから、私がとやかく言う事は出来ない。無事帰って来る事を祈るしかない」って…』
「…あとで先生にメール打っとこう…カナコは!?」
『お前の旅の本当の目的はあいつから聞いた。出来れば今のあいつに心痛の種を増やしたく無いんだがな…』
「色々ごめん…」
※ ※ ※
『アイスバーグ』…
「今のは何の話だ!?」
レオが言うと、後ろで見てたおやっさんが、
「アユムは俺の所に、身重の女友達のために車椅子の作り方を学ぶために来てたんだ…」
※ ※ ※
『ユニバレス』…
「アユムお兄ちゃんは、うちにいる間も、設計図を書いたり資材を集めたりしてたよ…」
ハジメが福田団長に説明した。
※ ※ ※
『ジョシュア』…
(友人のために車椅子…あの少年に、そんな目的が…!?)
アカネは思った。
※ ※ ※
再び大宮、アユムはコホンと咳払いをして、
「えー…気を取り直して、本題に移ります。これを見てください…」




