18ー2 ライオンは檻の中
アユムとカオリが大宮に着いて2日後の早朝、
旧福島県郡山市郊外の復興村、現『アイスバーグ』…
村には柵で囲われた住居と畑が隣接されており、そこが元『パンサーズ』出身者…現在はその大部分が『アイスバーグ』を野盗から守る自警団となっている…の住処となっていた。
一部の村人達はここを、『豹の檻』と呼んでいるらしい。そこにどんな感情があるのかは言うまい。
彼らの一日は、『豹の檻』の隅に立てられた墓標に揃って手を合わせる事から始まる。『パンサーズ』解散前の最後の戦いで、命を落とした元メンバーの墓である。真ん中に立ってる墓に刻まれた名前は、『根津』…
それから彼らはそれぞれの仕事に向かう。畑仕事、アレッツに乗って周辺のパトロール等々…
『檻』と村との間には閉ざされた門があり、元『パンサーズ』メンバーは許可なくして村に入ることは出来ない上、一度に入れる人数も制限されている。これまでの彼らの蛮行を考えればやむなしだろうが…
また、『檻』内には新たな畑が造られていて、ジャガイモが植えられていた。元『パンサーズ』メンバー達が、村長を辞めた氷山コタロウ氏と共に造った物だが、収穫は冬が始まるギリギリを待たねばならない。
今、彼等の食料は、村からの持ち出しによって賄われている。本当にありがたい事に…
オウオウオウーーーーーっ!! 付近の森から獣の遠吠えの様な音が聞こえる。獣…正確には獣形アレッツだ。『アイスバーグ』自警団の獣型四脚アレッツ。パトロール中の機体が、敵を見つけたという、村と自警団への、警報代わりの遠吠えだ…
※ ※ ※
森の中で対峙するのは、2機の獣型アレッツと、3機の人型アレッツ。
「それ以上、村へ近づくな!!」
自警団機の虎型アレッツのパイロットが警告する。
「うるせぇ!!こちとらもうメシが底をついたんだ!!」
「だから里へ降りるのやめようって言ったのにぃ…」
「こんな所で野垂れ死んでたまるかよぉ!!」
野盗機達は威勢はいいが切羽詰まっている様だ。そこへ…
ガ オ ォ ォ ォ ォ ォ っ!!
獅子の遠吠えがこだまする。見上げると山の上に黄金色に近いオレンジ色の、ライオン型のアレッツ。パイロットは『アイスバーグ』自警団長の氷山レオだ。彼の機体もあれからグレードアップを果たし、各部のパーツがより鋭角的になった。
レオ機SSR
「悪いがてめぇらにやる物は何も無ぇ!!」
レオがそう言うと、レオ機の背中から何かが生えてきた。紫色の、飛行機や鳥の様な翼だ。かつて一時期レオの食客だった網木ソラの可変飛行アレッツの追加ブースターを借りてレオ機は一時的に空を飛べる様になったが、ブースターを返す機会が無いままソラが南に旅立ってしまったため、レオ機はブースターを背中に背負い続けていた。そして、背中から翼が生えるに連れて、頭部もライオンのそれから猛禽類のそれにモーフィング変型していく。これはライオンではなく…
レオ機SSR グリフォンフォーム
飛んだ!!
そして空中から地上の野盗機に向けてパーティクルキャノンを射出!!
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
野盗の1機が胸を撃ち抜かれて沈黙する。
「お…落ちろっ!!」
野盗機がレオ機を撃ち落とそうとパーティクルキャノンを乱射するが、希少な飛行機体を相手した事が無く、弾はかすりもしない。そうこうしている内に2機目も太股を撃たれる。
「くそ〜〜〜っ!!」
残る1機が『アイスバーグ』への略奪を諦めて南へ逃げようとするが、レオ機は空から野盗機を追う。
「ここで見逃しても、逃げた先の村を襲うんだろう!!」
レオ機、急降下! 野盗機の背後から噛み付く。
「お…俺は、東京に行くんだ…ぎゃ〜〜〜っ!!」
残る1機も、獰猛なグリフォンの餌食となった…
※ ※ ※
戦い終わって住処に帰ったレオ。
「レオ君お疲れ!」
声をかけてくる犬飼に、レオはブリスターバッグを渡し、
「すまんがメンテ頼む。あと、グリフォンフォームへの変型をもう少し速めてくれ。」
「へーい…あ、そうだ、レオ君、あれ見てくれよ。」
そう言うと犬飼は、向こうに四脚で立ってる虎型アレッツを指差す。
「おーい、始めてくれー!」
犬飼が声をかけると、虎型アレッツは徐々に4本の脚を曲げ始めた。虎の胴体と頭が段々低くなる。ついには脚は完全に折りたたまれ、腹の下に隠れて外からは見えなくなった。まるで四角い胴体に頭だけ生えてる様だ。
「輸送用圧縮形態、『香箱座り』!」
犬飼が得意げに言うと、
「…いや、ブリスターバッグがあるからいらねぇだろう…」
レオもさすがにあきれた。
「………『おててないない』…」
「…何故かわいく言い直した!?」
「犬飼っ!!」ゴッチーーーン!!「痛ぇ!!」
おやっさんが犬飼の背後から頭に拳固を食らわす。
犬飼は『パンサーズ』解散後、おやっさんに弟子入りした。エンジニアとして完全復活したおやっさんのしごきは…相当きついらしい。
「くだらねぇ事やってねぇで仕事を覚えろ!!」
「痛ててててててっ!!」
犬飼の腕を引っ張って村へ連れて行くおやっさん。
「早くしろ!!お前と一緒じゃないと、うちのかみさんが飯食わせてくれねぇんだ!!俺を餓死させる気か!?」
「じゃ…じゃあレオ君、メンテはちゃんとやっとくから…」
…やれやれ…レオはおやっさんに連れられていく犬飼を見送る。
しかし食事か…レオの体力は、既に一時期の栄養失調から復調していた。自分の分を手下達に渡そうとすると、親父がうるさいのだ。これもまた、ありがたい事に…
レオは付近の山…『パンサーズ』のアジトの廃工場があった場所を見つめる。
(あそこから脱け出させてくれた『あいつ』に、感謝しねぇとな…)
不意にレオのスマートフォンに着信がある。『あいつ』からだった。
「…ようアユム、今、どこまで行った!?…ビデオ会議をしたい!?…分かった。3時からだな………『おやっさんと犬飼も呼べ』!?」
※ ※ ※
同時刻、旧さいたま市復興村…
折場ダンの家には2日前から奇妙な客が泊まっていた。渡会アユムと相川カオリ。アレッツで戦いながら北海道からずっと旅をして来た2人は、どうやら人探しが目的で、その相手はSWD直前に大宮駅で降りたらしい。
ダンは大宮駅が多くの路線が乗り入れるターミナル駅で、ここで降りたという情報しか無い人探しは雲を掴む様な話だと言ったが、アユムは諦めて帰るどころか、しばらくここで活動したいから宿を紹介してくれと言った。
しょうがないので妻と2人で暮らしている自身の家に住まわせると、アユムは宿賃代わりに近くの廃墟から拾って来たジャンクで、家のバグダッド電池を直してしまった。そして…これまた直したインターネット無線通信機で、ビデオ会議をしたいと言い出した。さっき郡山の相手と約束を取り付けたらしい。そして…
次の相手は宇都宮だそうだ。




