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18ー1 来た道遠く 往く道遥か

いつの頃からだろうか。ブリスターバッグのメール機能を介してアレッツ乗り達に届けられたメッセージ…


『全てのアレッツ乗り達よ、東京に集え。

そこで、お前達の欲する物が手に入るだろう。』


     ※     ※     ※


落星機兵ALLETS 第五部 首都圏編


     ※     ※     ※


西暦2053年10月末、


旧埼玉県さいたま市大宮区…


大きな街だ。

それが、大宮に入った時のアユムの第一印象だった。


まだ、大宮駅にはかなり遠い辺りから、道の左右には高いビルが並んでいた。

マスコミがよく、埼玉を田舎の代名詞にしていた意味が、アユムには分からなかった。こんな大きな街のどこが田舎なのか…


大きな街、だったんだろうな。アユムは思った。ビルの街並みの至る所にクレーターが出来ている。1年前の宇宙人はこの大きな街を徹底的に破壊し尽くしたらしい。時刻を考えると人家は夕食後の団欒時、商店やオフィスでもまだ開いていた所はあっただろう。いずれにせよ、多くの建物が明かりを着けていたはずだ。その街明かりが、大気圏外の宇宙人達にはどう映ったんだろう…


そう考えると…これはある意味、運が良かったのかも知れない。亡くなった方達には不謹慎だろうが…


大宮駅とその周辺は、宇宙人の砲撃の直撃を免れ、ほぼ原型を留めていた。


SWDの直前、アユムに告白してくれた少女、ルリさんは、上りのはやてに乗ったという。仙台を出たはやての次の停車駅は大宮。今、アユムの眼の前にそびえる巨大ターミナルだ。


ついに、ここまで来れた…


     ※     ※     ※


ペデストリアンデッキへの上り階段を見つけたアユム。


「僕は駅舎で調べ物をして来ます。崩落の危険性がありますから、カオリさん、ここで待ってて下さい。」

「あたし一人でここにいた方が危険でしょ!?あたしも行く。」


結局、スクーターをブリスターバッグにしまうと、2人で階段を登って行くことになった。ペデストリアンデッキは幸いにも崩れる事は無く、駅舎の間近までビルが迫っている様子が、仙台駅の西口に似てるなとアユムは思った。

が、駅舎に入ってしばらく進むと、仙台駅とは比べ物にならない長い長い通路が続いており、左右にステーションデパートのショウウィンドウがしばらく続いた後、ようやく左右に改札が見えてきた。だからこれで何で田舎なの!?


壊れて動かない自動改札を抜けると、左右4つずつホームへ降りる階段があり、その先にようやく、新幹線の改札が見え…通ろうとしたアユム達に改札が閉じる。


「よかった…ここは生きてるみたいだ…」


アユムはブリスターバッグを取り出し、スマートフォンをケーブルで接続すると、カオリに改札のカードリーダーにかざしてもらう。


「便利なものね、ブリスターバッグって…」

「ソラさんに郡山での別れ際に、色々役立つアプリをもらっといて良かったです。」


自動改札のデータをハッキングする。1年前の、8月、13日…


「………あった!」

「本当!?」


カオリも思わず駆け寄ると、バッグの画面に出ている降車者リストは、『サトウ ルリ』の文字。


「日付を考えると間違いありません。ルリさんは、大宮で、新幹線を降りた!!」


ついにアユムは、ルリの足取りをつかむ事が出来た。


「幸先いいわね。」

「こりゃ思ったより簡単に見つかりそうですね。次はカオリさんのお母さん探しですね…」

そう話しながら駅の中を元入った入口へ戻ると…


「おい、君たち!!」


3機のアレッツが近づいてきて、ペデストリアンデッキにいるアユム達2人を見下ろした。3機のアレッツ…いや、中央に立つさっきの言葉の主のアレッツは他の2機やアユム機より一回り小さく、背中にむき出しのパイロットシートが着いていた。


「プロトアレッツ…今時!?」

「俺は廃墟漁りと作業だけしかしないから、これでいいんだ。」

プロトアレッツの腹部には、本来上半身を懸架する4本のパイプしか無いのだが、そのプロトアレッツの腹部には4本のパイプの間に四角い箱が付いていた。箱は前部が開いており、中には白い箱がたくさん詰められていた。プロトアレッツの右手には白い箱…薬品だろうか…が握られており、それを腹部の箱に入れ、蓋を閉じた。

「荷物収納、輸送用のコンテナか…」

「それよりここは崩落の危険があるんだ。降りなさい。」

プロトアレッツのパイロットである、三十代の男性が言う。そのプロトアレッツは、何故か肩に『R』の文字が書かれていた。左右2機の方には、これまた何故か、『V』と、『W』…


「すみません…駅に用事があったので上りました。」

「あたし達、もう降ります…」

「…県警のアレッツに見つかったら厄介だぞ。そうなる前に降りろ。」


『R』のパイロットにそう言われて、アユムとカオリが階段を降りようとすると、不意に『R』が叫ぶ。

「待て!!お前、何でプロトアレッツの事を知ってた!?お前、堅気じゃ無いな!?」


すると『V』のパイロット、

「あ、お前ら…その顔、渡会アユムと相川カオリ…『スーパーノヴァ』か!?」


「『スーパーノヴァ』!?東北からずっと南下してると聞いたが、ついに埼玉にまでやって来たのか!?」

『R』のパイロットが言う。アユムとカオリの顔と名前は、アレッツ乗りの間で既に知れ渡っていたのだ。


「ちょうどいい!!こいつを倒せば、俺達の名も上がるぜぇ!!」

『W』のパイロットのその台詞に、『V』がパーティクルブレードを抜いた。


「よせ!お前ら…」

『R』は2機を止めようとしたが、アユムは、


「しょうがない…カオリさん、行きますよ!!」「ええ!!」

2人はデッキの上で並び、アユムがバッグを掲げ、

「ブリスターバッグ、オープン!!」


現れ出でたるは濃紺色に金の差し色が入った鎧武者の様なアレッツ。左右のカメラアイの色が異なり、額には三日月の前立て。音に聞こえし『スーパーノヴァ』。パイロット本人は『ノー・クラウド・クレセント』と名乗っているが…


「妙な技を使われる前に殺るぞ!!」「おう!!」


『W』が援護射撃する中、『V』がブレードで斬りつけようとする。が、アユム機は腰の飛行ユニットを展開すると宙を飛び、後ろの『W』に特殊兵装を射出する!不意に援護射撃が止んだのを不審に思った『V』が振り向くと、そこには棒立ちする相棒の『W』と、傍らにへたり込む『V』のパイロットの姿。

(何をされた!?)

思う間もなくアユム機が特殊兵装の2発目を『V』へと射出。次の瞬間、『V』のパイロットはコクピットから外へ放り出されていた。


ソラからもらったパイロット強制排出アプリ、『マスターキー』を特殊兵装の弾に仕込んだ、『マスターキー弾』。奴らのレアリティが低くてよかった。


「く…くそっ!!妙な物使いやがって!!」「真面目に戦え!!」

『V』と『W』のパイロットが、各々の機体のコクピットへ戻ろうとしたその時、


「止めんかお前らぁ!!」


『R』のパイロットが叫び、『V』と『W』のパイロットの動きが止まる。


「で、でも『R』…」「こいつらナメた真似を…」


「その人達は流れ弾が当たったり、倒れた機体の下敷きにならないタイミングを狙ってお前らを外に出した。その人達にお前らを害する意思は最初から無い!それに、最初に手を出したのはお前らの方だろうが!!」


「「ぐ…っ!!」」

『R』の言葉に『V』と『W』は二の句が継げなかった。どうやらこの人はまともらしい。あ、そうだ…


「あのー…もう戦う意思が無いんでしたら、ちょっとお尋ねしていいですか!?

あなた達の村に、仙台から来た18歳の女の子っていませんか!?」


「…うちにそんな子はいないな…」

『R』がそう言い、『V』と『W』も首を横に振る。


「そうですか…ありがとうございます…」

そう言ってアユム機は背中を向け、去って行こうとすると、『R』が、

「待て、お前ら!…もしかして、人捜しでここまで来たのか!?」

「ええ。捜してる人はここで新幹線を降りた事を、ついさっき突き止めました。だからその人は、埼玉のどこかにいるはずなんです。」

「………」

しばらくすると『R』が膝をつき、むき出しのコクピットからパイロットが降りて来て、自機をブリスターバッグに収納する。そしてアユム機を見つめると、


「ついて来い。見せたい物がある。」


     ※     ※     ※


アユムとカオリがアレッツを降りると、『R』はスマートフォンを取り出し、

「その前に…ここにアクセスして、名前と年齢を記入しろ。」

示されたURLのサイトには『埼玉県アレッツ使用許可申請書』と書かれており、申請者名の記入欄と、下に推薦者名の3つの空欄があった。言われるままにアユムは自分の名前を入れると、

「ほら、これを読め。」

『R』が自身のスマートフォンでQRコードを表示し、読み込むと推薦者名の一番上の空欄に、『折場弾(おりば だん)』の文字が出た。次に『R』…折場ダン氏は、

「Vの字、Wの字、お前らの名義も貸せ!」

「えー…なんで…」「俺達がそいつのために…」

「嫌なら俺はお前らを、アレッツ不法使用でチクらねばならん。」

件の申請サイトの一番下には、『自衛、作業、移動以外の目的での使用を禁ず』とある。

「「分かったよ…」」

『V』と『W』の名前も空欄に記された。


「送信したな…!?なら、今度こそついて来い。」


折場ダンとアユムとカオリ、そしてアレッツを降りた『V』と『W』は、ペデストリアンデッキを上り、大宮駅の構内へと入っていく。そして、


「あれを見ろ。」


ダンが指差した先にあったのは、色とりどりの線がごちゃごちゃと引かれたあちこちに地名が書かれた表示板。首都圏の路線図だ。


「あの線が全部首都圏の鉄道だ。そして、一番上あたりの何本もの線が出入りしている所が、この大宮駅だ。」

「大きな駅だなとは思ったんですが…」

「ここは東日本を走る新幹線が全部停まる上、私鉄を加えれば10本は路線が通っているから、東京駅の広い構内での乗り換えを避けるために、大宮で普通列車に乗り換える人は結構いたんだ。」

アユムの眼の前の路線図の大宮駅、県内や東京はもちろん、栃木や群馬にもつながっていた。

「それだけじゃない。この駅の南の南浦和駅や武蔵浦和駅に、オレンジ色の路線が繋がっているだろう…!?」

ダンが示したオレンジ色の線は、下の開いた大きな円を描いていた。

「武蔵野線だ。西は千葉県の船橋、東は西国分寺や府中に繋がっている。そこから更に乗り換えたかもしれん…つまり…


お前さんの捜し人は確かにいる。この広い、1年前までは一千万人以上の人が住んでた首都圏の、どこかに、な…」


ダンの言葉にアユムは呆然と路線図を見つめていた。その時、不意にスマートフォンに着信があった。さっきの申請サイトからのメールだ。そこにはあるアルファベットが記されていた。


「…そのアルファベットをアレッツの目立つ所に書いとけ。これでお前さんは私闘以外でのアレッツの使用が許される。

俺からのせめてもの餞別だ。お前さんの果てなき無謀な旅路への、な。

じゃあ、せいぜい野垂れ死ぬなよ。」


アユム機の肩に、『Z』の文字が刻まれた。

おまけ


アユム:「ロボットで『Z』ってすごく恐れ多いんですけど…」

ダン:「俺なんかロボットで『R』だぞ…」

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