17ー6 真紅の侵略者
「団長さん、今のうちにみんなを連れて逃げて!!」
アユムが言うと倒れていた自警団機6機がよろよろと立ち上がる。パイロットは全員無事らしい。
「ボクはまだ戦えるからここに残ります!!」
ハジメが言うと福田団長が中破した機体を引き連れ、去っていく。
「分かった。もうそろそろおびき出された2隊も戻ってる頃だろうから、援軍を連れてくる。」
あとには、アユム機とハジメ機と、アカネ機だけが残された…
「カオリさん…あの舞鶴アカネ…『インビジブル・コラージ』の正体を突き止めたみたいです…」
アユムが言った。だからさっき、必殺技は不発に終わった。
「大丈夫だ、あたしがいる…」
リアシートのカオリが頼もしい…アユムは見た事がなかったが、カオリは高校時代の、『伝説の助っ人』の顔に戻っていた。
「分かりました。あなたとの共同操縦と『インビジブル・コラージ』と…パイロットとマシンと勇気の全部、使い切ります!!
誰も乗せてはいけないはずのリアシートに乗ってくれる女性がいた、こんなに嬉しい事はありません!!」
そのやり取りを通信機で聞いていたハジメは、
「アユムお兄ちゃん…カオリさん…ボクは…」
右手を胸の前でぎゅっと握り、意を決した顔でモニターに向き直った。
「…ボクに出来る事をします!!」
その会話はアカネ機にも聞かれていた。
「青臭い奴らだなぁ…嫌いじゃないが…いいだろう、かかって来い!!!」
※ ※ ※
宇都宮のはるか南を流れる川の中を、赤と蒼のつむじ風が吹き荒れた。
「「うぉぉぉぉぉっ!!」」
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
アユムとカオリの駆る蒼いアレッツは、左右にアンブレラ・ウェポンを握り、アカネ機を斬り、あるいは撃った。『無銘の剣豪』カオリの操縦は変幻自在で、アカネにも振り下ろされたブレードがいつの間に次の攻撃に移ったのか分からなかった。
対するアカネの駆る真紅のアレッツの武器は、右手の鞭型パーティクルブレードだけ。だがその唯一の武器はあるいは直剣となり、あるいは体高の何倍にも伸びて弧を描き、しかもワイヤーで繋がれた個々の剣身が自立思考によって半自動的に敵を攻撃し、あるいは敵の攻撃を防御する妖刀であった。ハジメの援護射撃があってもアユムは互角に戦うのが精一杯だった。
ホバリングの水しぶきを上げ、水上を滑る2機。崩れかけた橋の付近で、2機は不意に止まる。双方ともコンバータのチャージ待ちだ…
アユム機の遥か後方、土手の上にあの女児が乗っている青いケンタウロス型アレッツがいる。が…アカネ機にとっては真正面だ。撃って来てもいくらでも対応出来よう。
静かな時が流れ、アユムが言った。
「…もう一度尋ねます。何で、こんな事するんですか!?」
言いながらアユム機はわずかに後ずさる。
「あなたは…あなた達は侵略者だ。どんなに強くてどんなに大義名分があっても、平和に暮らしてた他所の土地を土足で踏みにじって破壊して、やってる事は1年前の宇宙人と何ら変わらないじゃないですか!?」
「お前…学校で習わなかったか…!?『紀元4世紀、大和朝廷が全国を統一する』…古文書もないからほぼこの一文しか習わなかったと思うが…具体的に、どんな事があったと思う…!?」
言いながらアカネもアユム機を追って半歩前に出る。
「…!?」
突然、古代日本史の話をされて戸惑うアユム。
「ならこれはどうだ!?戦国時代、織田信長と豊臣秀吉は、天下統一を成し遂げた…具体的に、どんな事があったと思う!?」
「………」「アユムお兄ちゃん…!?」
アカネの言いたい事が分からなかった。
「…これからこの日本は、世界は、宇宙人に壊された世の中はどうなって行くと思う!?」
アユムにはアカネの言いたい事が分からなかった。いや、薄々分かっていたけど認めたくなかった。
「…いくつかの村が集まって国になり、その国同士でも統廃合が起き、うまく行けば最終的に日本は再統一される。」
それは…アユムとカオリが、この3日間、宇都宮で見て来た事だった。『ユニヴァース村』と『パレス村』が合併して『ユニバレス連合』になり、いくつもの村がこれに参加した。
「私達がしている事は…その過程で起きる数々の出来事の一つに過ぎない。今、こうしている間も、日本の、世界のどこかで出来た小さな国が、隣の国を併合しようと侵略戦争を仕掛けているに違いない。」
「自分のやってる事を、正当化して…」
言いながらアユム機は更に後ろに下がる。アカネ機も後を追い、前へ進む。
「世界に秩序と安定を。そのためには依って立つ誰かが必要なんだ!!」
「そうだぁ!!私は北関東の覇者となり、ゆくゆくは日本を統べるのだぁ!!」
選挙カーに乗った北条王が拡声器で叫ぶ。あの人、まだいたのか…!?
「その依って立つ誰かが、あんな人だって言うんですか!?」
アユム機が北条王の選挙カーを指差す。
「貴様に何が分かる!?何もして来なかった、ただの放浪者のガキが!!」
「だからって…あなたが手を汚す必要があるんですか!?あんな奴のために!?」
「言ったろう!?遥か未来の秩序と安定のために、この流血と破壊が必要なのだ!!」
「ぐ…っ!!」アユム機が足を止める。言論ではやっぱり大人には勝てない…
「惑わされないで、アユム…」
リアシートからカオリが言った。
「あたしはずっと見て来て、知ってるから。あんたがずっと、北海道から旅して、何をして来たか…」
「カオリ…さん…ありがとうございます。」
「…おしゃべりはこのくらいにしよう…お互い、エネルギーチャージは済んだはずだ…」
アカネ機が鞭型ブレードを構える。
「ええ…そうですね…」
アユム機も2本のアンブレラウェポンを構える。
「「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」」
両機は同時に突進!剣戟を交わすその刹那、
「ハジメちゃん!!」
アユムが合図を送る。作戦はさっきの会話中にハジメにメールで伝えてある。
「うぉぉぉぉぉっ!!」ドガガガガガッ!!ハジメ機がガトリングガンを乱射する。アカネ機の遥か上方、崩れかけた橋へ!!
ドッカーン!!ガラガラ!!
ハジメ機に撃たれて橋が崩れ、大量のコンクリート片がアカネ機に降り注ぎ、振りかざした鞭型ブレードの各パーツが、上から落ちてくるコンクリート片からアカネ機を守る様にシールドを展開する。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
完全に無防備になったアカネ機に、アユム機は手を伸ばし、アカネ機の左手首を掴む!!
「取った!!至近距離!!」
「今よ!!アユム!!」
「『インビジブル・コラージ』!!」
アカネ機の左手首を掴んだアユム機が、消えた。




