17ー4 教官3日目
同日、午前…
ハジメが去った後、アユムはこれまでと、これからの事を考えていた。
彼が2日かけて育てた『ユニバレス』自警団は、銃にも剣にもなる『アンブレラ・ウェポン』を装備しているが、銃撃戦が主体となる。
村等の拠点を防衛するために、拠点の前で陣取って、侵攻して来る敵をガンモードで撃つ。ブレードモードでの斬撃は、接近された時の最後の手段、そう教えている。中にはハジメ機の様な、後方支援機までいるくらいだ。この部隊編成にも育成方針にも間違いは無い。
問題は、当面の敵である『ジョシュア王国』自警団もほぼ同様の編成で、しかも数でも機体のレアリティでもパイロットの練度でも、奴等の方が上という事だ。真正面から戦っても勝てる訳が無い。しかも奴等には、舞鶴アカネという戦女神がいる。銃撃戦の最中に高速で突進され、あの鞭の様な剣で引っ掻き回されて、僕たちは全滅だ。
最上さんは何か手を打ってくれるみたいだが…最低でも舞鶴アカネ単機でも相手する事を考えないと。
「他のみんなに銃で援護してもらって、僕の機体が、あの真紅の女将軍と接近戦…!?」
あの変則的な武器を相手に…『カオリモーション』を強化しているとは言え…『インビジブル・コラージ』は…ああ言う武器を持った敵は天敵だ!
「あと一枚…駒が足りない…!!」
アユムは必死で頭をフル回転させた。が…足りない一手を埋める物は見つからなかった…
ふぅ… アユムはため息をつき、椅子に深く腰掛ける。
そう言えば…今日は静かだな…
野盗襲来の報が次々と来て、みんな出払ってるんだっけ…
そして…
昨日からずっと、僕は出撃させてもらえていないな…
※ ※ ※
同日、昼、国王官邸、執務室…
『あと…最後になったがうちの村から来ているパイロット達は、絶対に五体満足でうちに帰してくれ。それと子供たちに、ひもじい思いと寒い思いはさせないでくれ…』
「分かった…それじゃあ…情報提供、感謝する。」
宮部国王はそう言って、『サンライト村』村長との通話を切った。その時…
「国王陛下!ら、来客です!!」
宮部国王はスマートフォンをポケットにしまうと、
「来客!?アポイントは無かったはずだが…一体どこだね!?」
「そ…それが…」
※ ※ ※
「『マロニエ村』…!?」
「そうだ。我々は貴国に恭順したい。」
宇都宮南西に出来た復興村の村長が、『ユニバレス連合』への臣従を申し出てきたのだ。
「ありがたい話だが…あなた達の村は、『ジョシュア王国』の侵攻を受けなかったのかね!?」
奴らが赤城山を南に迂回してきたとすれば、彼らの村は通り道にあたるはずだ。
「ああ…宇都宮が目当てらしく、見過ごしてくれた。しかし…これからもずっととは行かないだろう。だから…」
「分かりました。お互い協力しましょう。」
宮部国王は『マロニエ村』村長の手をがしっと握った。
「それで…我々はこれから自分の村へ帰りたいのだが…正直、ここへ来るのも奴らの目を盗んで命からがらでな…」
『マロニエ村』村長は、自身が護衛として連れて来たアレッツに目をやった。趣味に走った、明らかに実戦には向きそうにない機体が2機…
「我々は…何をすれば…!?」
さっき握った村長の手が微妙に強張っていた気がした。
「申し訳ないのだが…帰り道の護衛をお願いできないだろうか…!?」
※ ※ ※
自警団詰め所…
「…と、いう訳なんだ。」
国王がこれまでの経緯を説明すると、福田団長は、
「困りましたねぇ…第2中隊も第3中隊も出張ってて、もう私の第1中隊しか残ってませんよ…」
「何かあったら、『ユニバレス』は僕が守ります。」
アユムがそう言うと、福田団長は、
「やれやれ…行くしかないか…」
※ ※ ※
福田団長と、ハジメの青いケンタウロスを含む8機の第1中隊は、『マロニエ村』の村長を乗せた自動車と、趣味に走った護衛アレッツを連れて、南へ向かう。南西の『ジョシュア王国』駐屯地と、南東の宇宙船の墜落跡を迂回して、南へ…
「………」
福田団長は隊員達にメールを送る。ハジメをはじめとする7人の隊員はそれを無言で読む…
途中で右手に川が見えてくると、『マロニエ村』のアレッツは、村長の車を前後から掴み上げて、土手を降り、川を渡っていった。
「何を…!?」
福田団長が聞いたが、『マロニエ村』村長は、
「橋がみんな落ちてるんです。ここが浅瀬なんですよ…我々は先に渡って安全を確認しますから、皆さん後からお願いします。」
こっちが何か言うのも聞かず、2機のアレッツはじゃぶじゃぶと向こう岸の土手へ上がってしまった。
福田団長はハジメ機に通信を入れる。サブウィンドウの中のハジメが無言で頷いた。
「何をしているのですか!?皆さんも渡って来て下さい。それとも、敵の真っ只中を私達だけで帰れと!?」
村長が急かしたが、福田団長は、
「敵さんなら…もう、そこと、そこにいらしてますよ。」
と、向こう側の土手と、こちら側の土手の茂みを指差す。
「『ナックルマシンガンは対人兵器』。出て来てもらえないかなぁ…バッグを捨てて…」
団長機の右拳を突き付けられた茂みが揺れて、そこから2人の男が片手を上げて立ち上がり、もう片手でブリスター・バッグを捨てた。福田団長機が左拳のワイヤーガンで落ちているバッグを撃ち、手元に引き寄せる。これで2人は無力化された。
「何故だ…!?何故待ち伏せがバレた!?」
そう喚きながら、向こう岸の土手から3人の人影が現れる。うち1人は舞鶴アカネと張り合ってた嫌味な中隊長だ。
「えーっと…あんた達は『ジョシュア王国』自警団の人だね!?なら理由を答える義理は無いねぇ…」
そこへ1台のワゴン…天井に手すりが着いて人が乗れるタイプの選挙カーが土手の上へと走ってきた。手すりの周りには、『無所属 北条ヒデヨシ』と書かれている。
「何だねこれは!?賊軍『ユニバレス』を壊滅させる第一歩では無かったのかね!?」
天井に乗っている北条王が不機嫌そうに言った。
「ま…まだです…陛下、とくご覧あれ!!私があなたに勝利を捧げます!!アレッツ、起動!!」
中隊長が叫ぶと、左右の団員もそれにならう。向こう岸の土手の上に、3機の朱色のアレッツが現れた!
その時…『ユニヴァース村』の自警団詰め所から通信が入った。
『本部よりアルファワン…団長、今、野盗退治に茨城の県境と「エッグプラント村」へ出ていた第2中隊と第3中隊から通信が入ったんですけど…「救援要請を出した覚えも、野盗に襲われた事実も無い」って…』
「ああ…偽情報だったんだろうね。我々を分断するための…」
伏兵を察知された時点で半ば失敗してるが…
「村長さん…やっぱりそいつらとグルだったの!?」
ハジメは呻いたが、村長は、
「黙れぇぇぇぇぇっ!! 廃藩置県でうちに併合されたのに県庁を持っていきやがって…」
「それ私達もあんた達も誰も産まれてない頃の話だよね!?」
福田団長が叫んだ。まぁ、彼らの悪感情を知ってるから、さっき団員達に、罠の可能性をメールで送り、ハジメ機に対人センサーで周囲を索敵させたのだが…
「団長さん…うちの市とあの市って、同じ県なのに仲が悪いの!?」
まだ小学生だったハジメには分からない。
「…お隣同士、同じ県内程仲が悪いものなのよ…」
福田団長の言葉に、村長が叫んだ。
「おまけに今度は勝手に領有宣言しおって…!!我々はここに、『ジョシュア王国』の支援を受けて、栃木に『マロニエ共和国』を建国する!!」
「明らかにあいつらの傀儡政権じゃないの!!」
「それでも栃木を手に入れればいいんじゃ!!先生がた、よろしくお願いします!!」
そう言い残して、『マロニエ村』村長と2機のアレッツは引き上げて行った。朱色のアレッツのコクピットの中で、向こう岸の青系の機体を睨み、中隊長は叫び、右手のパーティクルブレードを突き出す。
「お前らを各個撃破してあの女の鼻を明かしてやる!!行くぞ!!」
…だが、他の2機は背中を向けて逃げ出した。
「あ…お、お前ら…!!」
「ユニバレスはザコだって聞いたから来たのに…もう半分やられたじゃないですか!!」
「来るんじゃなかった!!日和った奴らの方が利口だったぜ!!」
因みに、今回の宇都宮親征に従軍した『ジョシュア王国』のアレッツは30機。うちアカネの派閥である民間出身者は『サンライト村』の一件で付いて来た19機。残り10機、中隊長を除く9機が、野盗出身で中隊長の派閥だ。その内、今回の単独行動に付いて来たのは4機だけ。この事実こそが、『ジョシュア王国』自警団の現状の縮図だった。
「お前ら…待……あ。」
中隊長は向こう岸から8機のアレッツにパーティクルキャノンを向けられている事に気づく。
「あわわわ…」「あわわわわ…」
北条王と『マロニエ村』の村長もさっきまでの威勢の良さはどこへやらだ…
「ボクがあいつを狙ってますから、今のうちに!!」
ハジメが言うと、団長は、
「アルファツーからアルファファイブ、向こうへ渡ってあいつらを確保して。」
第1中隊の4機がホバリングで川を渡り、向こう岸で一味にアンブレラウェポンを突きつける。『マロニエ村』のアレッツからパイロットが降りるのをモニター越しに見ながら、『ユニバレス』自警団団員達は、
「団長…こいつら、どうします!?」「『ジョシュア軍』の結構お偉いさんなんだろ!?」「おまけに王様までいるし…こりゃ戦争ももう終わりかな!?」「俺達大手柄じゃん!」「それ以前に俺達を裏切った『マロニエ村』の事は…」「ていうか何で『マロニエ村』!?」「ほら…フランス語のマロニエを和訳すると…」「…あー…」
福田団長は向こう岸に向かって恭しく、
「うちの国王陛下に決めていただくために、私達の村へお越しいただく事になりますが、よろしいですね!?」
北条王と中隊長は『ユニバレス』を国として認めて群馬へ撤退するのを交換条件に釈放という事になるか。『マロニエ村』への対処は…宮部国王がまた遺憾の意と辞意を表明しそうだなぁ…
とりあえず撤収しよう。そう思ったその時…
「だ…団長!!敵機接近です!!数、1!!」
ハジメがそう報告する。
「さっきの1機が戻ってきたのかな…!?」
団長は言ったが、
「す…すごく速いです!!」
団長を初め中隊全体に緊張が走る。北から飛んで来たのは…赤いからっ風だった!!
キ ィ ィ ィ ィ ィ!!
一度見たら忘れない真紅の女性型アレッツ、『ジョシュア王国』自警団団長、舞鶴アカネ機だ!!
「無断出撃に国王陛下が連いて行ったと聞いて飛んで来たが…これはどういう事だ!?」
「え…!?て、敵襲!敵襲だ!!!」
「そ…そうだ!!舞鶴君、そいつらを倒したまえ!!」
北条王と中隊長にとって、『地獄で仏』とはまさにこの事だった。どちらかと言うと出てきたのは『鬼』だが…この場合鬼のほうが頼りになった。
「………こんなところに何で来たんですか!?…まあいいです、あとで事情は説明願います。」
眼前に居並ぶ青二才どもを前に、雌の赤鬼のカメラアイがギン!と光った…
舞鶴アカネ機 セミスフィア(女性体型)指揮、近接戦闘特化型SSR




