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17ー2 並の男より男らしい女

アユムの教官就任2日目昼頃、旧宇都宮市街地南西、『ジョシュア王国』自警団駐屯地…


北条王に呼び出された舞鶴アカネが出頭すると、王はいきなりこう切り出した。


「舞鶴君、君が余計な事をしたせいで、『サンライト村』が自称『ユニバレス連合』とやらの傘下に加わったそうだな!?」


苦虫を噛み潰した様な王に、アカネは表情を変えずに、


「私の事はきっかけに過ぎません。彼等には最初から、外からの圧力に対して一つにまとまれる底力があったという事でしょう。」


「言い訳する気かね!?」


「全て、必要な手続きでした。今、臣従を交渉している勢力に与していない第三勢力が現れたなら、その事を確認して、個別に対応する旨を告げる。ご多忙な陛下に代わって、私がして差し上げたんですよ。」


「ぐ…っ!!し、しかし、北関東に覇を唱える、私の野望は…」


「『お隣さんが自治出来ずに困っているなら助けてあげよう。』元々この親征は、その程度の意図だったと記憶しておりますが…!?」


有無を言わさぬ迫力でアカネに凄まれ、何も言えなくなる王。


「…そして、奴等はちゃんと自治出来ていた。我々の助けは必要無い。そう言うことです。聞いたところによると、奴等の自警団は東北から来た野盗団を撃破したとか。我々の領土と領民も心配です。


国へ帰りましょう。ここまでです。」


「………下がれ!!」

爆発寸前の怒りを押さえ込んで、王は右手を振った。


     ※     ※     ※


同日、夜、アカネの天幕内…


真ん中に設えられたテーブルに自身のブリスター・バッグを置き、ランプの灯りで画面の動画を凝視するアカネ。昨夜、『ウォッチャー』なる謎の配信者から送られてきたメールに添付されていた未公開動画。アユム機が以前の自警団とやり合った時の物で、アユム機が上へ向けてパーティクルガトリングガンを撃ち放った次の瞬間、アユムは消え、そのまま現れなかった。撮影日は『ジョシュア王国』が宇都宮に侵攻した数日前。未公開動画。自分だけが知り得た情報。だが…


「…ますます分からん…ん!?」


動画を凝視していて唐突に違和感を感じる。画面の端…拡大してみると、ある時刻からそこにアユム機が現れていたのだ。


「消えたと思った『スーパーノヴァ』は、ここに現れていたのか…」


もう一度動画を巻き戻す。『インビジブル・コラージ』が発動してアユム機が消え、画面の端に現れるまで約1分…時間制限があるのか…!?敵機をバラバラにしたり、乗っ取ったりだけてはなく、こんな第3の効果まであるのか…!?


「…分からん…『スーパーノヴァ』…渡会アユム…一体何なんだ、あいつは…」


アカネは目と目の間を指で押さえる。長時間動画を見続けて目が疲れた。


「…風呂に入ろう…」


アカネは荷物からアメニティグッズを取り出すと、自分の天幕を後にした。


     ※     ※     ※


『ジョシュア王国』自警団は野外入浴装備を所有しており、今回の親征にも団員の衛生管理のために持って来て、駐屯初日から稼働していた。舞鶴アカネは入浴時間を一日の一番最後と決めていた。他の団員と鉢合わせると、彼女等が気を遣うからだ。それに、アカネも…


ここでなら、女将軍の仮面を外せる。


「…ん~~~っ!!」


余人には決して聞かせない声をあげて、アカネはビニールシートで覆われた湯船の中で伸びをした。


じゃば…アカネは湯船から立ち上がる。湯気の向こうで、熟れた曲面の上を幾筋もの雫が伝い落ちた…


     ※     ※     ※


星空の下、共同の風呂場から自分の天幕へと帰ろうとするアカネ。


既に残暑が去った夜風が、風呂で火照った身体に心地よかった。


ふと星を見上げる。夜間でも行動できる様に、来る日も来る日も星空を見て、スターフォビアを克服したのだが、国造りの多忙で星空を見上げる余裕すら無かったな…


「これはこれは舞鶴団長殿、お風呂上がりですか!?中々色っぽいですなぁ…」


いい気分がぶち壊しだ。あの嫌味な中隊長に会ってしまった。


「…やはりあなたは自警団長なんかやめて、どこかの男の所で家庭に入ったほうがよろしいのでは!?…ああ失礼、あなたはようやく持った家庭を失ってしまったんでしたなぁ…」


…アカネの心の奥底に、冷えたナイフが産まれた気がした。


「いやぁ…うまくいかん物ですなぁ…並の男より男らしい女に惚れる奇特な男が現れたと思ったら、並の男より男らしい女に引け目を感じて離れていってしまうとは…あっはっは!!」


こみ上げる怒りを抑え込んで、アカネは、


「…私の代わりに団長になりたいのでしたら、もう一度御前試合をしても良いのだが…!?」


アカネに凄まれて笑い顔が凍りつく中隊長。段々声を荒げてアカネは続ける。


「一度と言わず、何度やって差し上げても結構ですよ。それで私を負かせられたら、あなたが新しい団長です。今すぐにでも国王陛下の御前で、何度でも叩きのめして差し上げよう…」


中隊長の全身がガクガクと震えた。今でも思い出す御前試合。自警団長を決めるための試合。なすすべもなくコテンパンに敗れ去った、どうすれば勝てたのかすら未だに分からない御前試合…


(くそっ…この女には勝てない…こうなったら『スーパー』…)


「…言っておくが『スーパーノヴァ』を倒して私を出し抜こうと思っているならやめておけ。あれは名前通り、一等星の卵かもしれんぞ。」


中隊長の全身に脂汗が浮かんだ。分かっていた。『スーパーノヴァ』は舞鶴団長以上の、理解の範囲外だ。


失礼する…去っていくアカネの後ろ姿を、中隊長は歯噛みしながら睨みつけた。


気を紛らわせるかのように星空を見上げるアカネ。北の尾根すれすれに、ひしゃく型の7つの星が見える。北斗七星。先程名前が上がった『スーパーノヴァ』渡会アユムがここにいたら、あの星にまつわる話を色々聞けたのだが、さすがにアカネは彼のそんな趣味や特技までは知らない。


北斗七星のひしゃくの柄の端から2つ目の星、『ミザール』は、『アルコル』との二重星。視力の良い者なら2つに分かれて見え、大昔は軍隊の入隊試験…視力検査にも使われたそうだ。


アカネには何とか2つに見えるがぼやけて見える。長時間動画を見続けたせいで、目が疲れているだけだと思いたい。


(今に私も、眼鏡がなければ小さな字が見えなくなるのかな…)


愚にもつかない事を考えながら、アカネは自身の天幕へと歩いた。




不意にアカネは足を早める。自身の天幕へ駆け込むと、さっきまで見ていた動画をもう一度全部、最初から最後まで見直し、呟いた。


「…気でも触れてるのか!?」


     ※     ※     ※


夜は明けてアユムの教官就任3日目、朝…


「陛下…私は陛下の忠実な下僕です…」


嫌味な中隊長は、北条王の足元に跪いていた。


「私は舞鶴アカネとは違います。私が陛下に勝利をもたらし、陛下の覇道をお支え致します。『ユニバレス』を自称する山賊どもを平らげ、栃木の地を群馬の物と致しましょう…」


その言葉に北条王は満足げに頷き、中隊長は王に見えない様にニヤリと笑った。

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