17ー1 コンシダレーション Episode 15
教官就任2日目、午後…
『ユニバレス連合』自警団8機は、宇都宮からはるか北にいた。
彼等の前方、山向こうは旧福島県、そして彼等の後方には『エッグプラント村』と称する小さな復興村。
「レーダーに感あり。共有します。」
ハジメが告げた。
「機影、5、か…」
福田団長が呟いた。
「でも…いいんですか!?これで向こうもボク達がいるの気づきましたよ!?」
ハジメは言ったが、団長は、
「いいの。これで帰ってくれれば、ね…」
しかし…レーダーに映った機影は、そのまま南下し続けた。福田団長はアレッツの通信機を立ち上げ、全回線で呼びかける。
「あー、こちらは『ユニヴァースおよびパレス連合王国』自警団である。未確認機の操縦者に告ぐ。敵意が無いならアレッツを降りなさい。これ以上近づくなら…」
機影はなおも南下を続けた。
「…そんなに怖いかねぇ、郡山の自警団とやらが…」
アユムから聞かされた。数日前に郡山で大掛かりな戦闘があり、周辺のいくつもの野盗団が壊滅させられ、新たに自警団が出来た。生き残った野盗の一部が、郡山を捨てて南下した、と…
そして…もし、福田団長がレオの素顔…激怒した顔と、彼のアレッツを見たら、奴等が郡山から逃げるのも止む無しと考えるだろうが…
福田団長は『ユニバレス』自警団を暫定で3隊に分け、自分と、旧『パレス村』自警団のナンバー3だった男と、民間出身の団員にサポートとして旧『ユニヴァース村』自警団のナンバー6を付けて、各々の隊長にした。福田団長率いる第1中隊が、『エッグプラント村』に野盗討伐に来ているのだ。残りの第2中隊と第3中隊は宇都宮で村の警護と訓練だ。
「ま、警告を聞かなかったから、仕方無いよね…アルファエイト、小鳥遊、やれ!!」
「はい!!」
他の6機が左右に道を開けると、アルファエイト…ハジメ機が前に出る。
ハジメ機はあれから更に手を加えられた。
今の姿を一言で言えば、『ランスを持った青い雌のケンタウロス』だった。
レアリティの低い機体に長射程を与えるには、様々なハードルが存在する。ジェネレータ出力、コンバータ容量、積載量、射撃時の安定性、他にも高い射撃精度やレーダー、センサー機能等々…これらをクリアするために、アユムの提案で、ハジメ機の後ろにアレッツがもう1機くっつけられた。『サンライト村』から手に入れたUCの機体。あれを『馬の後ろ半身』の形に改造して、ハジメ機の尻に増設したジョイントで接続した。ジェネレータもコンバータも積載量もアレッツ2機分。安定性も確保。膝のスパイクと膝下のシールドは取り払われ、ハジメ機は上半身が人間、下半身が馬の、ギリシャ神話に出て来る『ケンタウロス』の様な姿になった。ついでに馬の後ろ半身にはレーダーが増設され、頭部も前に長く伸びたセンサー感知距離の広い物が付けられ、小隊の『目』の役割を与えられた。その上でパイロットであるハジメの希望で、太股を太くしてジェネレータを搭載し、肩幅を狭くして胸部をやや前に張り出させた、女性体型になった。ともかくこれで、
ハジメ機はアンブレラ・ウェポン(ガトリング)を撃てる様になった。
「ターゲット、ロックオン!!」
射程に入った3機をカーソルを動かしてロックする。
「ファイヤ~~~っ!!」ドガガガガガっ!!
ハジメ機 R第三形態
野盗機のうち2機が、胸部のコンバータを撃ち抜かれる。
「それでは皆さん、今回も安全に怪我無く参りましょう。」
福田団長の締まりの無い号令とともに、他6機のアレッツも一斉に銃を連射する。更に2機が沈み、接近した1機も、団長機のブレードで一閃された。
「終わりました。ご協力感謝します。」
福田団長は『エッグプラント村』の村長に一礼するが、村長は、
「君らが勝手にやった事だ。」
と、素っ気ない返事を返した。撤収しよう。と思ったその時、村長は、
「あー、君らへの恭順だが、条件次第で前向きに検討しなくも無い。」
「そのお話は、うちの王様と直接お願いします。」
そう言い残して、福田団長一行は南へと去って行った。
※ ※ ※
1時間後、自警団詰め所…
「ただいまー!アユムお兄ちゃん!!」
帰還するや否やハジメはアユムに与えられていた部屋へ飛んで行った。アユムは自身の『ブリスター・バッグ』と格闘していた。
「お。お帰り。」
アユムは顔だけ上げるとぎこちない笑みを返し、再び『ブリスター・バッグ』に視線を落とした。
「今日もボク大活躍だったよ。アレッツもすごく強くなったよ!!これもアユムお兄ちゃんのおかげだね。」
そう言いながらハジメはアユムの向かいに座る。
「あんまり無茶するなよー。ただでさえあの機体は無茶なビルドしてるんだからな…」
ハジメの笑顔が直視出来ない。前から時々ドキッとするくらい可愛い表情をすると思っていたが、ハジメ君がハジメちゃんだと分かった今となっては納得だ。何より…
…こう言う、無条件の好意を向けられる事に、アユムは慣れていない。
ハジメはアユムの『ブリスター・バッグ』を覗き込みながら、
「何これ…大砲!?ものすごく長いね…」
「あ、ああ…こう言うのも必要なんだ。」
ハジメは天井を見上げながら、
「やっぱりボクの機体はまだまだなんだね…」
今見た大砲は、ハジメ機には運用出来そうに無い。
「ホワイトドワーフ、『天使』、『ジョシュア王国』の舞鶴アカネ団長…ああ言う人達を倒せるのかな…」
それからハジメは不意にアユムの隣に座り、
「ね!?アユムお兄ちゃん!!」
「わっ!!」
思わず悲鳴を上げるアユム。
「お兄ちゃんの機体、『天使』の腕みたいなのって着けれないの!?」
「さ…『サテライト』の事…!?」
この子何で僕の隣に座ってるんだろう…!?
『サテライト』…遠隔操作攻撃端末。『六本腕の天使』が、新たに装備した機能だ。前回の戦いでは、これに苦戦させられた。同じ力を手に入れれば、対応のしようもあるかもしれない。
「無理…だね。」
アユムは言った。
「やっぱり…無理、なの!?」
「操縦のしようが無い。僕達は両手両足を使ってようやくロボットを動かしてるんだ。その上『サテライト』までなんて、出来る訳が無い。」
「それじゃあ…舞鶴アカネ団長。あの人が使っている武器は!?」
ハジメちゃん近い近い近い!!
「ほ…本来、ああ言う鞭みたいな剣は、作れたところで実用性が無いんだ。振ったところで必ず刃の側が当たってくれるとは限らないから…」
「じゃあ、あの赤いアレッツは…!?」
「複数の標的の同時ロックオンで、敵の側に刃が向く様にする事は出来ると思う。後は…剣戟モーションを独自の物にしてるんだと思う…」
いずれにせよ、舞鶴アカネは強い。アレッツも、彼女自身も。
「お兄ちゃん…」
ハジメはアユムの腕にすがりつく。
「は…ハジメちゃん…!?」
「ずっと、ここにいてくれないの…!?そうしたらボク等、もっと強くなれると思うんだ…」
ハジメは潤んだ上目遣いでアユムを見つめた
「は…ハジメちゃん…僕は…」
その時、バタン!!ドアが開く音がして、カオリが入って来る。
「ハジメちゃん…こんな所にいた!!」
「か…カオリさん…」「カオリさん…」
カオリはツカツカとハジメの隣に歩いて行き、ハジメの腕を抱き抱える様にアユムから引き剥がす。
「駄目でしょう!!出撃後のデブリーフィングをサボっちゃ…」
カオリの体がハジメに押し付けられる…ダメだ。ボクの機体じゃ太股の出力も胸の容量も全然足りない…
「ほら!行くわよ!!」そう言ってハジメを引きずって部屋を出て行く刹那、ハジメの耳元で小さな声で、
(男には男の世界があるの。邪魔しちゃだめでしょう。)
バタン!!ドアは閉じられ、アユムは1人取り残される。
ふう…アユムはため息をつく。
ハジメちゃんが僕に好意を抱いていたのは気づいていた。最初はそれを、弟が兄を慕う気持ちみたいな物だと思っていたが…本当は、い…いせい…
い、妹が兄を慕う気持ちだったんだな。
そう、思うことにした。
ふう…アユムはまた、ため息をつく。でも僕にはどうする事も出来ない。だって…
…僕のアレッツのリアシートには、誰も乗せちゃいけないんだ…




