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2ー5 彼も人也 我も人也

アレッツは2機いた。


廃屋の窓を覗き込んでいる1機と、その後ろにもう1機。どちらも性能が一番低いパーツか、アユム機と同じ下から2番めのパーツの混成だ。


「何だ子供かぁ…中学生くらいか…!?」前の1機のパイロットが言った。


「高校生です!!」つられてアユムが答えてしまった。ブリスター・バッグはあわてて隠したので、持ってたのを見られてないらしい。


「まぁいい…食い物と着る物、あと毛布とかあったら寄越しな!」

野盗のテンプレの様なセリフを吐くアレッツ。上半身は一番性能の低いパーツ、下半身と、恐らくジェネレータは僕のと同じ下から2番めに上げているか…武器はパーティクルブレードと、シールド。上半身のあちこちに追加装甲が施されている。


無言のアユムが癇に障ったのか、剣持ちアレッツは声を荒らげて、


「さっさとしやがれ!!命が惜しくねぇのか!!」


その間、後ろのアレッツは無言で武器を構えていた。こちらは上半身と腕、そしてコンバータが下から2番めの物で、下半身とジェネレータが一番低い物。武器は、パーティクルキャノン。


「…分かりました。今から出てきますので、ちょっと待ってて下さい。」言いながらアユムは荷物をまとめる。


「へっ…!最初から大人しくそうしてりゃいいんだ…」剣持ちアレッツが言う。こいつが前で動きながら攻撃…近接戦闘型で…銃持ちは移動を捨てた後方支援…砲撃型か!?


「ほら…出てきましたよ。」

言いながらアユムは、ブリスター・バッグを後ろ手に、廃屋の入口から出てくる。


「さっさと持ってる物全部出しやがれ!言っとくが、妙な真似したら命は無ぇと思え!!」


この男はこれまで、どれだけの人を泣かせてきたのか…アユムの胸にふつふつと怒りが沸き上がり、彼は、持っていたブリスター・バッグを前に突き出す。


「へ…!?」剣持ちアレッツは一瞬、彼が何をしたのか分からなかった。



「ブリスター・バッグ、オープン!!」



現れ出たのは深い青色、鎧武者の様な、左右のカメラアイの色が違うアレッツ。ただし今回は左腕に小型のシールドを新たに装備している。2機の敵アレッツが硬直している間に、アユムはコクピットに入り、アレッツを起動させる。


(今回は2機…だが…負ける訳には行かない!!)


ギン!色違いのカメラアイを光らせて、立ち上がるアユム機。


「お…お前もアレッツ乗りだったのか!?だが構うもんか!おい、やるぞ!!」


後ろの銃持ちがパーティクルキャノンを構え、剣持ちがパーティクルブレードを振り下ろす。


「うわっ!」アユム機がブレードモードのアンブレラ・ウェポンを抜いて、敵のブレードの刃を受け止める。


ヴォン! 怪音が轟いて光の刃を形成する力場が相互干渉を起こす。が…


「く…っ!!」アユム機のアンブレラ・ウェポンがわずかに斬れた。同レベルだと専用のパーティクルブレードの方が出力が高い。誘爆は…幸いにも起きない。


ヒュ ー ー ー ン!!「う…っ!!」


不意に向こうから光弾が飛んで来て、アユム機はシールドで防御する。もう1機いる銃持ちのパーティクルキャノンだ。その間にも剣持ちが何度も斬撃を加えてくる。しかも嫌らしいタイミングで銃持ちの牽制。アユム機はそれらをアンブレラ・ウェポンとシールドで防いで行くが、2対1でアユム機はじりじりと後退を余儀なくされる。


「ほらほら、どうしたぁ!?」


更に攻撃を激化させる2機のアレッツ。新品のシールドをボロボロにしながら、アユム機はついに壁際に追い詰められる。この廃墟の街で一番高いビルだ。だが…


(これでいい…この武器(アンブレラ・ウェポン)は初見では何だか分からない。今までの事でこれをブレードだと思っているはず…)


「死ぃぃぃねぇぇぇ!!!」


剣持ちのパーティクルブレードに斬り上げられてアユム機の左腕が上へと跳ね上げられる。


(今だ!!)


自然に上を向いたアユム機の左手から、ワイヤーガンが上へ向けて射出され、高いビルの中程に先端のアンカーが着弾、そのままワイヤーを巻き取ると、


アユム機は地を蹴り、ブースターを噴射させて宙に浮いた。


「え…!?」


目の前からアユム機が消えた事に戸惑う剣持ちアレッツだが…飛び上がり際にアユム機に頭を蹴られ、メインセンサーを潰される。


ビルの壁を滑る様に上がっていくアユム機。アンブレラ・ウェポンをガンモードに持ち替え、


高い位置から後方の銃持ちに掃射!!


タ タ タ タ ダっ!! 銃持ちは右肩と頭部をやられる。


「じゅ…銃にもなる武器か…」

サブセンサーで一部始終を見ていた剣持ち。


アユム機は再びアンブレラ・ウェポンをブレードモードに持ち替え、ワイヤーガンのアンカーを開放する。



「お前らそのアレッツで、何人の人を襲って来た!?」


落ちざまにブレードで、剣持ちの左肩から左太腿の付け根を斬り下ろすアユム機。


「虐げられし者の恨み…」


剣持ちの股間でブレードの刃を上へと返し、右太腿の付け根から右肩へと斬り上げる。


「思い知れっ!!!!!」



Vの字に斬られ、両手両足を失い、ゴロン、と、その場に転がる剣持ちの胴体。


「ぐ……っ!!」

コクピットから人影が現れる。革ジャンにモヒカンの男でも出て来るかと思ったが…出てきたのは、薄汚れたYシャツの男。髪もひげも伸び放題だが、元は七三だったのではないか。


「丸っきり普通の人じゃないですか…」あきれるアユムに、男は、


「う…うるせぇっ!!」


それからアユム機は後ろの銃持ちにアンブレラ・ウェポンを構えて近寄り、


「そこのアレッツのパイロット。あなたもコクピットから出てきて。」


すると、さっき出て来た男が、

「そいつは勘弁してくれ。」

と言う。


「はぁ!?見逃せって…聞ける訳無いでしょ!!アレッツは破壊します。」


「頼む!!」


「放置したらまた誰かを襲うんでしょう!!そこの人、コクピットから出て!!」


「待て…待ってくれ!!」ついにはアユム機の脚にすがりつく男。


「危ないから離れて!!ジェネレータが熱持ってて熱いですよ!!」アユム機は男を引き剥がそうとする。その時…



「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」


銃持ちアレッツのコクピットから小さな人影と、変声期前の甲高い声が現れる。出て来たのは…小学生くらいの、少年!


「え…!?」


「父さんをいじめるなぁぁぁぁぁっ!!」少年はアユム機の反対の脚にすがり着く。


「お前…コクピットから出るなと、一言もしゃべるなと言っただろう!!」男…父親が少年に抱きつく。


「父さん、もう止めようよ、こんなの…もう嫌だよ、こんなの………!!」


「何言ってるんだ…!!母さんが死んだ時、父さんと約束したよな、『父子2人、どんな事をしてでも生きて行こう』って…!!」


アユムは…眼の前で起きている事が、一瞬分からなかった。


「あ…あんた等…何やってんだよ…!!子供に…何させてるんだよ…!!」


「うるさぁぁい!!子供の君に何が分かる!!」


それから父親と子供は、抱き合ったままわんわんと泣き出した。


アユムは、コクピットから降り、ブリスターバッグにアレッツを収納すると、代わりに2食分の食料を、2人の側にポイと放り投げる。


「………それ持って、近くの村にでも行って下さい。そこで、仲間に入れてもらって、これまでの事を全部忘れて、誰にも話さず、2人で生きて行って下さい。」


「で…出来る訳無いだろう!!今更畑仕事なんて…」


「その野菜がどこから来たと思ってるんですか!?あなた達がやる前から諦めていた事を、既に実践して成し遂げた人たちがいますよ…僕がそれを見てきました。」


まだ何か言いたそうな見つめる2人を置いて、アユムはスクーターを取り出し、ヘルメットをかぶり、西へと、廃墟を走り去った。


     ※     ※     ※


「何やってんだよ、僕は…!!」


スクーターを走らせながら、アユムは独りごちた。僕だって食うに困ってない訳じゃ無いのに…僕だってお腹をすかせてるのに…!!おばさんやカオリさんからもらった、貴重な食料を…っ!!


いつの間にか西の空で夕日に変わっている太陽。日が暮れるまでに今夜の寝ぐらを探さないと…


戦う力を手に入れた。戦いには勝った。だが…やるせない気持ちと空きっ腹を抱え、アユムはスクーターを走らせた。


(じいちゃん…僕、今、ロボットに乗って戦ってるよ…でも…


リアルロボットものの主人公って、こういう気持ちだったんだね…


今なら分かるよ…あの時、じいちゃんが何を言いたかったのかを…)


そしてアユムは思い出していた。さっき見た夢の続きを、じいちゃんの言葉の続きを…


     ※     ※     ※


「兵器が人型である事への唯一の必然性がある。それは…さっき言った様な、ロボット兵器がこの世界の外からやって来て、誰が作ったのか分からん場合についても関係あるんじゃが…


人型ロボット兵器を作った存在は、人間…ワシらと同じ姿をしとるという事じゃ。」

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