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16ー9 来訪者多し

こうして、『ユニバレス連合』自警団は新たに傘下に加わった『サンライト村』から、7機の増援を得た。頭数だけで言えば30%増だ。だが…


あのハゲ…もとい村長が残して行ったのはレア4機とUC(アンコモン)3機。性能の高いSR(スーパーレア)8機は、村へ連れて帰ってしまった。まぁ当然だろう…しかも…


「え…!?あんた達みんな民間出身!?しかも昨日志願したばっかりの新兵!?」

新たな部下となったパイロット達の頼り無げな顔つきとひ弱な体つきを見て、福田団長は呆然とした。


「はい…隣県が攻めて来たとか言われて村を守るために志願して…」

「そしたらいきなり村長さんが宇都宮に連いて来いって言われて…」

「勝手に国を作ってうちを領土だと言い出したユニバレスに抗議しに行くから護衛しろって」

「そしたら置いて行かれて…」

「私達…どうすれば…」


パイロット達の手が、不安で震えていた。

福田団長は彼の手をぎゅっと握り、


「俺達何が何でもあんた等を村へ帰してあげるから、俺達と一緒に強くなって、この場を切り抜けようね…」


一方、UC(アンコモン)機から出てきたパイロットは…


「「「び ぇ ぇ ぇ ぇ〜〜〜!!」」」


降りて来るなりギャン泣きした。


「…3人とも、SWDチルドレン…しかも全員ハジメちゃんより年下で、おまけにうち2人は未就学児…!?」


…と、いう状況だった。


「私達も他人の事、言えないけど…」

「これはさすがに…」


「「「ぎ ぇ ぇ ぇ ぇ〜〜〜!!」」」


なおも泣きわめく3人。1年前に親を失い、ずっと村で物乞い紛いの事をしてなんとか死なずに来て、大人に捕まって無理やりロボットのパイロットにさせられ、知らない場所に連れて来られて置いていかれた。そりゃ泣きもするだろう。


「…極めて遺憾だ…」

宮部国王が、吐き捨てる様に呟いた。


そして、3人の幼子を、ハジメがぎゅっと抱きしめる。


「今までよくがんばったね…もう、大丈夫だよ。ここの人達はみんな、優しい人達ばかりだよ…」

ひっく…ひっく…お姉さんに抱きしめられ、子供たちはしゃくり声を上げてようやく泣き止むと、大人達が顔を見合わせて頷いた。宮部国王がスマートフォンを取り出して操作する。


「あー、もしもし、『サンライト村』の村長か!?宮部だ。ああ。帰り途中に申し訳ない。…あんたが連れて来たUC(アンコモン)機のパイロット(・・・・・)だが…ああ。うちで(・・・)引き取って(・・・・・)いいんだが(・・・・・)……ああ。うちの方が余裕があるしな…」


ハジメの顔がぱぁっと明るくなって、

「よかったね…これでみんな、今日からうちの子だよ!!」

「「「お姉ちゃん…」」」


「そ…そうだ、王様!!」


アユムがある事をひらめき、王様にそれを進言する。宮部国王は頷くと、


「…あー、村長さん、見返りと言っては何だが、彼らの機体3機を、うちでいただきたいんだが…ああ、ああ…すまないな…」


こうして3人のSWDチルドレンはアレッツを降り、『ユニバレス連合』に住んで、自警団の裏方の手伝いをする事になった。


     ※     ※     ※


同日、午後、訓練の時間…


『ユニバレス連合』自警団は、SR(スーパーレア)10機、レア14機となった。うち8機8名の新兵組は基礎訓練を終えてベテラン組に合流していた。


「王様は…!?」

ベテラン組の訓練を見ながら、アユムは通信機でカオリと会話していた。向こうは新兵組の訓練を見ている。

『今日もう何度目かの会談中。ただしリモートで。』


あれから今日だけでも何件か、旧栃木県の山中の、東側と西側の復興村が、『ユニバレス連合』に恭順を申し出た。


「西の村々は『ジョシュア王国』が赤城山を越えて直接攻めて来る事を危惧し、東の村々は反対側の隣県が攻めて来る事を危惧して、それぞれ助けを求めて来たみたいだね。」


中には『恭順するから援助してくれ』と、身も蓋もない事を言って来る者もいた。


『大きめの村の中には、勝手に領有宣言された事を不服に思う者もいるでしょうけど、現に「ジョシュア王国」が攻めて来ているから、当分大人しくしてるでしょ…』


言い方は悪いが、『サンライト村』が見せしめになった。今後自分達が『ユニバレス連合』の領土ではないと発言したら、『ジョシュア』の女将軍がロボットの軍団を引き連れて侵略して来るのだ。


アユムの目の前では、左肩アーマーを赤く塗った機体と白く塗った機体に分かれて、模擬弾と光剣で模擬戦をする18機のアレッツ達。

「こっちは様になってきたねぇ…」


一方のカオリは、今朝の時点で基本動作が覚束なかった2機に、今日合流した『サンライト村』の4機を含めた6機を相手に、基本動作の訓練をしていた。

『こっちもそろそろ全員卒業できるわよ。』


ドガガガガガっ!! 射撃姿勢を取ったハジメ機が模擬銃を斉射する。

「そろそろ次の段階に進んだほうがいいね…」


キュルキュルキュル… 新兵のアレッツがビルの上階の壁面にワイヤーガンを撃ち込み、巻き取って壁を登る。

『次の段階!?』


「…実戦。経験を積むという意味でも、マテリアルを稼ぐという意味でも…」

『「ジョシュア」軍を相手するの!?さすがに無茶でしょ!?』

「うん…だから、もうちょっと弱い敵から相手してもらうのがいいと思う。…僕らがここにいられる時間も限られてるし…」

『そうね…でも、弱い敵って言うと…』

「野盗…かな…」

『…この辺のは前の自警団が全部倒しちゃったんでしょ!?』

「そうなんだよねぇ…」


訓練を見守るカオリが天を仰ぐ。

『…あーあ…不謹慎だけど、どっかにいないかしらねぇ…未だに活動続けてる野盗…』

「しかも出来れば、そこそこ弱くて、おまけに倒されてもしょうがない様な邪悪な奴…」


『…一人だけ心当たりがあるわね…でも…』

「ああ…あいつはもう死んだ。」


     ※     ※     ※


…いきなりだが時は数日遡る。旧福島県の栃木県との県境付近の復興村跡。


三つ巴の対決の後、『生きたおもちゃ』との決着が着かないまま、アユムとカオリは燃える村を後にした。それからしばらくして…


村の側を流れる川の凪いだ水面に、不意に大量の泡が沸く。泡は段々多く、大きくなって行き、そして…


ザバン!水中から赤黒い手が現れ、川岸を掴み、ザバン!!焼けただれた上半身が陸に上がる。


「グェー…ハー…グェー…ハー…」


『生きたおもちゃ』にガソリンをかけられ火をつけられ、燃えながら川に落ちたはずのダイダだった。


「…か、川の中で…い、息を止めてたかるるぁ…やり過ごせたぜぇぇぇぇ…」


全身大火傷を負い、水中で長時間息を止めて、しかも直前に背中を切り裂かれて、おまけにここ数日落ちる星のトラウマで心を患い、常人なら何度死んでも不思議ではない状態だったが、持って生まれた強靭な身体故、生きながらえていた。


赤鬼のような焼けただれた身体でフラフラと立ち上がり、ダイダは叫んだ。


渡会(わたるるぁい)…いじめ壊して…いや、ブッこるるぉしてやるるぅぅぅぅぅ〜〜〜!!!」


彼の怒りの矛先は、自身を火あぶりの刑にした、自身よりも危険な(ヤバい)『生きたおもちゃ』ではなく、アユムに向けられた。


おるるぇは不死身だぁぁぁぁぁ〜〜〜!!てめぇをミンチにして、てめぇのシケたロボットをスクラップにするまで死なねぇぇぇぇぇ〜〜〜!!


グェーーーーーっハッハッハ!!!」


     ※     ※     ※


時は再び現在に巻き戻る。


手前(てめぇ)るるぁ!!食いもん出しやがるるぇぇ!!」


『ユニバレス連合』に現れた全身黒に腕だけ赤黒いアレッツ、ダイダ機。


「いらっしゃ〜〜〜い!!」

「よく来てくれたわね〜〜〜!!」


アユムとカオリが気持ちの悪い笑顔でダイダを出迎えた。


「げぇっ!?わ、渡会(わたるるぁい)!?」


「目標、前方の野盗機、全機、構え!!」

アユムが号令すると、青系のアレッツ24機が前後3列に並び、ジャキン!と、一斉にアンブレラ・ウェポンを構える。

「グェっ!?」

嫌な予感がするダイダ。

「撃てーーーーーっ!!」

タタタタタ…ダダダダダ…ダダダダダダ!!!24機のアレッツから一斉攻撃され、ダイダ機はあっという間にスクラップ…あるいは、ミンチになる。


「わ…渡会(わたるるぁい)!!第1話以来の悪役に、この雑な扱いは何だぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」


ダイダ、泣きながら退場。これで大勢からいじめられる者の気持ちが少しでも分かって改心してくれれば…しないだろうなぁ…

おまけ 僕とボク



「あ、ちょっと、ハジメちゃーん!!」

アユムがハジメを呼び止める。


「なぁに、アユムお兄ちゃん!?ボクに何か用!?」

ハジメが訊ねる。出会った頃とは比べようもない、屈託ない笑顔。恐らくこっちが、彼…いや、彼女の本当の顔なんだろう。


「その…大変…だったみたいだね、廃墟暮らし…僕も両親を亡くしたから…」


「ボクはおじいちゃんが途中まで一緒だったから、寂しくはなかったけどね…」


ちなみにハジメの祖父が失踪した数日後、旧『パレス村』近辺に身元不明の老人の行き倒れ死体が発見され、無縁仏として葬られたそうだ。恐らくこの老人がハジメの祖父だろう。ハジメは無縁仏の墓に手を合わせ、祖父との再会を果たした。


「その…君のおじいさんが言ったんだよね!?『男の子の振りをしろ』って…」


「まぁ、ボクと話そうって人はいなかったし、たまにいても、ボク、こんな外見(なり)だから、みんな勝手に男の子だって思ってくれたよ。」


「でも、もうみんなに知られちゃったよね…」


「うん。ボク、肩の荷が降りた気がするよ。」


「もう、男の子の振りをする必要なんて無いんだよね!?」


「カオリさんのおかげで、ボク(・・)、久しぶりにおしゃれ出来たよ…」


「いや、だから…」


「なあに、アユムお兄ちゃん…ボク(・・)がどうかしたの!?」


「いや、女の子がボクって…」


ボク(・・)のどこかおかしいの…!?」


ニコニコした裏表のない笑顔。だからこそ妙な迫力があった…


「………いや、何でも無い…」


「そう…じゃあ、ボク(・・)、行くね…」


そう言って去って行くハジメの後ろ姿を呆然と見つめ、アユムは呟いた。



「………実在したんだ…天然もののボクっ娘…」


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