16ー8 教官2日目
日は変わって教官就任2日目…
新生『ユニバレス連合』自警団の、訓練以外の初仕事は…
…ただ突っ立ってるだけだった。
『パレス村』の西の空き地にテントがひとつ張られ、その東側…村に近い側に、総勢20機の青系のアレッツが整列し、その後ろに止まった乗用車から、宮部国王が降りて来て、緊張した面持ちでアレッツの間を歩く。そして、テントの西側には、15機のアレッツと、その後ろに1台の車。そのから降りてきたのは、一人の禿げた男。自分が連れてきたアレッツの間を、ノシノシと歩く。
「『サンライト村』…!?」『ブリスター・バッグ』の通信機能で福田団長と会話するアユム。
「そ。この『ユニバレス』から北西に谷間を進んだ所にある復興村。そこの村長さんが来たのよ。」
禿げた村長は『ユニバレス連合』自警団のアレッツを無遠慮な目で見つめた。
(ふん!みすぼらしい連中だ…不格好な奴もいる。)
最後に目をとめたのはハジメの青いアレッツ。上半身がゴツいのに対し、下半身が妙に細い。おまけに膝下が左右非対称だ。右膝にスパイクが付いていて、左膝下は細い脚にアンバランスにゴツい装甲が付いている。同じ様な機体があと2機。おまけに全ての機体が傘を持っているのだ。
ハジメ機 第二形態 上半身:セミキューブ射撃特化型R
下半身:セミキューブ積載量、安定性重視型R
「初めまして…『ユニバレス連合』国王の宮部です。」
宮部国王が挨拶すると、
「…初めまして。『ユニバレス連合、サンライト村』の村長です。」
妙に当てつけがましく言う村長。それを聞いて福田団長は、
「あー…やっぱりね…」
※ ※ ※
数分後、テント内…
「私の村は君達の国の領土だったんだなぁ…知らなかったよ。」
『サンライト村』村長は厭味ったらしく言うと、我らが宮部国王は、
「…遺憾に存じます。」
政治家のような発言をした。国王だから政治家か…
「宇宙人が滅茶苦茶にした街を、私達はマイナスから作り直して来たんだ。慣れない土いじりをして、額に汗して、手に豆を作って、ね…」
「はぁ…我々もよく分かります…」
「分かる…!?それを何の縁もない者に、『ここは我が国の領土でござい』と言われた悔しさが分かるか!?ああ!?」
ドン!村長はテーブルを叩く。
「い…遺憾に存じます…」
「…自由と自治を勝ち取るためなら、我々は流血も辞さない覚悟で出てきたんだよ…分かってるのか、ああ!?」
そう叫んで村長はテントの外の、自身が連れてきたアレッツを指差した。
昨日宮部国王は建国宣言の際、『ユニバレス連合の国土は旧栃木県全土』と発言した。宇都宮に侵攻してきた『ジョシュア王国』を牽制し、追い返す意図があったのだが…あの動画は旧栃木県全土に配信され、過剰に反応する者が現れた。『勝手にうちを領有宣言するな!』、と…この『サンライト村』村長が、その抗議者第一号だったのだ。しかも自前の戦力を引き連れて!
※ ※ ※
同時刻、テントの外…
「…これが、自警団の仕事なの…!?」
青い機体の中でハジメが言った。最年少の中学生らしい、瑞々しい見解だが、
「そ。俺たちがいなかったら、『サンライト村』はあの戦力で出来たての俺たちの国を滅ぼしたろうね…」
飄々と福田団長は恐いことを言った。
「それは…」
ハジメの脳裏に、昨日優しくしてくれた池田さん達の顔が浮かぶ。
「だから意味があるの。俺たちがこうして立ってる事にも、ね…」
「…分かり…ました。」
ハジメがそう言うのを聞くと、コクピットの中の福田団長はモニター越しに『サンライト村』の自衛戦力と思しきアレッツ部隊を見つめた。
(敵は15機…SRが8機、Rが4機、UCが3機か…パイロットの練度は未知数だが、機体のレアリティも機数もこっちがやや上…)
頭の中でこれからの事をシミュレートしてみる。
(最悪の事態は起きると仮定しよう…王様と村長の交渉は決裂する…俺たちとあいつらは戦闘になる……どう考えても奴らに勝ち目は無い…俺たちは勝利し、村長は王様に恭順するか『サンライト村』へ逃げていくか……でも、どっちにしろ………
…犠牲者、出るだろうなぁ…あいつらはもちろん、俺たちにも…その後あいつらの村がうちに恭順するとしても、あいつらにも家族や友人はいる…俺たちとあの村との間に、消えないしこりが出来るだろうなぁ…)
福田団長はガリガリと頭を搔き、
(まいったなぁ…何でこんな厄介な時に来ちまったんだあいつら…)
ふと頭を搔く指を止める。
(!? そうだ…何で今来たんだ!?『ジョシュア王国』の連中が居座ってるこんな厄介な時に!?それにあいつら、アンコモンまで混じってる貧相な戦力でどうやって俺たちに勝つつもりなんだ…!?)
その時、
ビーーーっ!! ビーーーっ!! レーダーに警告音が鳴る。次いで部下から報告が。
「団長!!アンノウン接近…い、いえ、『ジョシュア王国』軍です!!」
「なぁにぃぃぃぃぃ〜〜〜っ!?」
※ ※ ※
同時刻、テント内…
「『ジョシュア王国』軍が攻めて来たぁ!?」
会談中…というより、『サンライト村』村長に一方的にがなり立てられていた宮部国王は、その最中に福田団長からスマートフォンに通話が入り、出てみるととんでもない事態が告げられた。
「村長さん…会談はここまでだ!」
宮部国王は村長の手を引こうとしたが、村長はその手を振り払う。
「あんたの不誠実な態度にはもう我慢ならん!!」
「そんな事言ってる場合じゃないんだ!!」
「えーい!離せ!!」
「逃げるんだよ!!一緒に!!安全な所へ!!」
村長は宮部国王に見えない様にニヤリと笑い、テントを出て右手を振り上げ、
「戦争だぁ!!」
そこで村長の顔がこわばる。『ジョシュア王国』自警団は真紅の団長機をはじめとして20機。そのうちロングバレルパーティクルキャノンを装備した何機かが、狙撃体勢を取り、レーザーサイトを当てていた。
…『サンライト村』自警団のSR機の膝下に!!
「あ………」
村長の禿げた頭にボコボコと脂汗が浮かんだ。
「逃げないと!!あそこ撃たれたら大爆発して私達みんなお陀仏だよ!!」
宮部国王が村長の腕を引っ張る。
「王様!!」
青いハジメ機が2人をかばう様に立ちはだかり、左膝で立膝をつけ、右膝のスパイクを接地、左膝下の装甲を前方に展開させて巨大な盾にし、アンブレラウェポン(ガトリング・ライト)を構える。左右非対称な膝下はこの射撃体勢のためのものだったのだ。他の同型機も同じ姿勢を取り、各々の獲物を乱入者に構える。
「待て、小鳥遊!!まだ撃つな!!」
福田団長が制止する。しかし…『サンライト村』の奴ら、何を棒立ちになってるんだ!?うちのこどもパイロットでも、ちゃんと動ける時間的余裕はあったのに…
『貴殿が「サンライト村」の村長か!?』
「「うわっ!!」」
いきなり何も無い空間にアカネ機の顔が大写しになり、王様と村長は悲鳴を上げる。奴らのドローンが、いつの間にか近づいていたのだ。
『私は、「ジョシュア王国」自警団団長の舞鶴アカネだ。』
「そ…それがどうしたっ!!」
村長が喚く。
『そちらの宮部国王は昨日、「ユニバレス連合」の領土は旧栃木県全土だと宣言したが…貴殿等の村は「ユニバレス」の領土ではないのか!?』
「な…!?何を言い出す…」
『質問に答えてもらおう!!貴殿等の村は「ユニバレス」の支配下には無いのか!?』
空中投影されているアカネ機の顔が更に大写しになる。村長は、
「あ…当たり前だ!!わ…私はあんなの認めん…」
『なら「ユニバレス」への臣従の交渉が済み次第、貴殿等の村とも個別に交渉させていただくが、よろしいな!?』
「え…えーっと、つまりこれ…」
アユムが呟くと、福田団長が、
「『サンライト村』の村長さんは、村単独で、『ジョシュア王国』自警団を相手に戦争しなければならないって事だね…」
「話が違う…」
村長は何か言おうとしたが、アカネ機は遮るように、
『返答はいかに!?』
凄まれて村長ははるか南を見つめる。華麗かつ武勇に秀でた女将軍が指揮する、機体も兵の練度も高い赤い機兵軍団。それと戦争をする!? うちの村だけで…!?
…勝てるはずがない。
「………臣従…」
『今、何と仰った!?』
「我が『サンライト村』は、現時刻を以て、『ユニヴァースおよびパレス連合王国』に臣従する!!」
最早やけくそという風で、『サンライト村』村長は叫んだ。
『そうか…では、「ユニバレス連合」の宮部氏とは、「サンライト村」の件も含めて、今後も臣従の交渉をさせていただく。』
そう言い残してアカネ機の顔は消え、『ジョシュア王国』自警団の一隊は、自分達の駐屯地へと引き上げて行った。
…こうして『ユニバレス連合』は、ほぼ何もせずに、『サンライト村』を支配下に置くことが出来た。
※ ※ ※
駐屯地への帰路、アカネ機のコクピット内の舞鶴アカネはスマートフォンを操作していた。
メーラーを起動し、『サンライト村』村長とのメールのやり取りを全て削除し、呟く。
「困った物だな…一軍の将に過ぎない私ごときに、貴殿等の村の自治を承認する権限なぞ無いのに…」
それにしても…アカネは思った。去り際にドローンのカメラ越しに見た『ユニバレス』自警団のアレッツ部隊…昨日の今日でよくあそこまで…そして、映像の端に映った、こちらを睨む男女の姿…
「渡会アユム…相川カオリ…」あの部隊は、多分彼らが…
いずれ、戦場で相まみえる日を楽しみにしているぞ…
※ ※ ※
「こうなったらあんた等、何が何でも連中を赤城山の向こうへ追い返してくれよ!!」そう言い残して、『サンライト村』村長は東照宮の門前町に作った復興村へと帰って行った。しかも連れてきたアレッツの半分にあたる7機を、『ユニバレス連合』への援軍として残して…自警団も大幅な戦力アップとなった。が…
「ボク達って、何しにあそこへ行ったのかな…!?」
アレッツをホバリングさせて『ユニヴァース村』の自警団詰め所に戻る途中で、ハジメは呟いた。実際、何もせず、一発も撃たなかった。
「ハジメちゃん!!操縦に集中して!!みんなに遅れてるよ!!」
通信機からアユムの声がした。宮部国王を乗せた車にカオリともども便乗して、ブリスターバッグで通信していたのだ。
「りょーかーい!!」
自棄気味にハジメは叫んだ。あー、この機体鈍重すぎる…
詰め所に帰ってアレッツを降りようとした途端、通りかかった村人達の声が聞こえた。
「…他所の村の村長が抗議に来て、『ジョシュア』の連中まで攻めてきて…」
「…そいつらみんな追っ払ったんですって…しかも他所の村のアレッツまで味方に引き入れて…」
「…自警団…前の人達はともかく、今度のは頼りになるみたいね…」
噂に尾ひれが着いてる。でも…アユムは言った。
「…誇っていいんじゃないかな!?敵にも味方にも損害無し。これ以上の戦果は無いよ。」
「そう…かな…!?」
それからハジメ機はヒソヒソ話をしていた村人達の方を向き、右手を大きく振ってみせた。それを見た村人達は、大きな歓声を上げて手を振り返した。




