16ー4 自警団、新生
自警団の統合と大量の退団者発生に合わせて、民間人から新たに入団希望者を募ったところ…その中に小鳥遊ハジメの名前があった。
アユムとカオリと、福田団長と、宮部国王は、小一時間話し合ったが…結局、ハジメの入団を受け入れる事になった。
少年兵、SWDチルドレンの搾取、未成年の就労…どんな側面から見ても非人道的の誹りを免れなかった。だが、誰もSWDチルドレンの世話をする余裕が無いこの世の中で、彼らは何らかの労働をして、その代価を得て自らを養わなければならない。どんな仕事をするにしても、彼らにとっては茨の道となるだろう。アレッツ乗りは生命の危険があるという点で、想定される中で最もきつい仕事だろうが、力で成人に劣る彼らにとって、そのハンデが無いという点で最適の仕事とも言える。何より…高校生なら良くて、小学生がだめという理由を、アユムには見つけることが出来なかった。
もう、こうなったら、ハジメが生き残って行ける様に、アユムがちゃんと指導するしか無い…
敬礼し、それぞれの席につくハジメ達。
「…僕が、臨時軍事顧問の、渡会アユムです…隊長は福田さんですので…僕は、皆さんの教官、という事になります。」
よろしくお願いします…アユムは頭を下げた。
※ ※ ※
ここで時は昨夜に遡る。
『ジョシュア王国』自警団駐屯地から生還したアユムは、救出した宮部村長と、これまで村を守っていた福田副長とともに、これからの事を話し合って、自警団の再建と、そのためにアユムが臨時軍事顧問…要するに新人アレッツ乗りの教官となる事になった。
ようやく話し合いが終わり、カオリと宿に戻ったアユム。ふとスマートフォンを見ると、テレビ会議の招待メールが届いていた。差出人は…氷山レオ、郡山自警団の団長だ。元は郡山復興村を荒らす野盗のヘッドだったが、今は改心して、村を守る側になっている。
(郡山か…あれから数日しか過ぎていないはずなのに…色々なことが起きすぎたな…それにしても何の用だろう…!?)
そう思いながらテレビ会議に参加すると、スマートフォンの画面いっぱいに、ワイルドなイケメンの顔が大写しになり、
『おいアユム!!「ウォッチャー」は!?奴はどこにいるんだ!?』
「うわっ!?」
レオにがなり立てられ、悲鳴を上げるアユムであった。
(レオ君…!?そ、そう言えば今日の連戦の動画は『ウォッチャー』によって配信されてたみたいだから、郡山でも視聴出来たのか…)
レオをなんとかなだめ、事情を説明してもらい、ようやくアユムは、『ウォッチャー』が『パンサーズ』に獣形アレッツのレシピを導入し、最後に彼らを壊滅させた張本人である事を知り、アユムもレオに、あの動画は『ウォッチャー』が勝手に配信した物で、本人は見ていない事を告げた。興奮と混乱が覚めたレオは、『そう言えばあの動画で、最後に出てきた赤いアレッツ部隊は何だ!?』と、訊ねた。
※ ※ ※
「…と、いう事があったんですよ…」
スマートフォンに向かって、これまでのいきさつを簡単に話すと、
『隣県が国を造って攻めてきて、それに対抗するために、自分達も国を、ね…』
それからレオは声を潜め、
『実は、な…俺達の村も、このまま国という形を取ろうかって話が出てるんだ…今の村長をそのまま、初代大統領にして…』
「え…!?」
『…で、親父にも、農業大臣兼防衛大臣のオファーが来てて、受ける気らしい。』
レオの父親は元郡山復興村の村長で、レオとの間に確執が生じたのは、父親が仕事にかまけて家庭をないがしろにした事もあった。
「それって…」
『…心配すんな。俺もいつまで親父がどうの母さんがこうのって言ってねぇよ。俺にも守るべき群れがあるからな。それに、親父が暴走する様なら、俺があいつをぶん殴ってでも止めてやる!!』
「あはは…ほどほどにね…」
『話を戻すが、その「ジョシュア王国」とか言うヤベェ奴らの事は分かった。南と…山伝いに直接来るなら、猪苗代湖…西の方か!?そっちに警戒はしとこう。』
「まあ、そっちに行かせない様にここで食い止めてみせるけどね。あと、『ウォッチャー』についても、何か分かったら知らせるよ。」
『すまねぇ…本当は栃木に飛んで行きてぇけど、俺は咎人で村の守りだ。どっちの意味でも村を離れる訳にゃいかねぇ。』
「レオ君…」変わったな、この人…
『あいつに「パンサーズ」を潰された事はどうでもいい。ただ、奴の目的は、うまく言えねぇが、騒ぎを起こす事自体の気がする。放っておかねぇ方がいいと思うんだ…』
「確かに…最初の動画は煽ってる様に見えたからね…それに、あの舞鶴アカネさんという人も、動画を見て僕に接触して来た様に見えたし、実際、騒ぎ…乱を起こすのが目的なら、効果は出てると思う…」
『実は…「パンサーズ」時代にあいつはずっと、郡山をさっさと潰して、東北制覇に乗り出すべきだって言ってたんだ。大所帯の野盗団を食わすにはそうすべきだって…まぁ、奴の真意は他にあったし、俺がその提案を却下してたがな…奴が「パンサーズ」を潰したのも、乱を広げない俺を見限ったのかもしれねぇ…』
「それで次はターゲットを僕に変えたって事!?」
『郡山にこだわってる俺より、旅のアレッツ乗りの方が目的に合ってるのかもな…』
「うへぇ…」
それから2人はしばらく現状について情報交換をし、じゃあな。うん、またね…と、テレビ会議を切った。消えた画面をしばし見つめ、アユムはつぶやいた。
「考えなきゃならないことが多すぎる…」
※ ※ ※
時は再び巻き戻って現在、『ユニバレス連合』自警団詰め所…
「まず…皆さんの前に置いてある、小さなカバンの様な物、それは、『ブリスターバッグ』といって、宇宙人の人型ロボット兵器…アレッツの、輸送形態であり、メンテナンス、カスタマイズ用インターフェースでもあります。皆さんは…それに命をあずける事になります。そして…その中のロボットが、あなた達の分身になります。」
20人の団員達は、目の前のブリスターバッグの中に入っている小さな巨人を見つめた。今はまだ、無色で、無貌の人形を…
「まずは、カスタマイズの基本からお教えします。皆さんのブリスターバッグには、既に宇宙人語から英語への変換パッチを入れてあります。これで…”Left Knuckle”をタップして下さい…」
この中で一番学力が劣るのは、間違いなく小学生だったハジメだが…ちゃんとついて来ている様だ。
「そこを、”Knuckle Machine Gun”から、”Wire Gun”に変更して下さい…これで、あなた達のアレッツの左拳の武器は、マシンガンからワイヤーガンに変わりました。」
ナックルマシンガンは、拳の指の骨と骨の間に当たる箇所に片側3門ずつ着いている実弾機関砲…対人兵器だ。だが…今はそこまで言わない方がいいだろう。薄々感づいてる人もいる様だが…
こうして、最初の2時間は、カスタマイズの他、メンテナンスの仕方、アレッツ操縦のための座学を、一通り教えて行った。
『生徒』達は、小学生だったハジメが例外で、ほぼ全員、アユムより年上だった。高校生が教官という事に不満を抱く者が現れるのではと思っていたが…今のところ、大人しくアユムの講義について来てくれている。
「では皆さん、10分間の休憩の後、ブリスターバッグを持って外の廃墟に集合してください。アレッツを実際に起動させての実習となります。」
座学の最後にそう締めくくると、団員の1人が、小さな声ではあるが、「えっ!?」と言った。
「…どうかされましたか!?」
アユムが声の主に発言を促すと、
「い、いえ、もう実機に乗るのかって…自動車教習所でも、こんなに早く路上に出ませんし…」
わずかな沈黙の後、アユムは言った。
「皆さんには一刻も早く戦力になってもらわねばなりません。必要な事は乗りながら教えます。それに…じきに理由も分かると思います…」
※ ※ ※
10分後…
20人それぞれが、自機に乗り込んで廃墟に整列した。レアリティは、民間から参加した新兵組がR、元から自警団にいたベテラン組がSR。元々『ユニヴァース村』『パレス村』自警団の使用していた機体だった事もあり、ミッドナイトブルーの角型や、シアンの丸型がほとんどで、多くは青系のカラーリングが施されていた。中でもハジメの機体は…セミ角型Rの、鮮やかな青色をしていた。誰の機体を意識したやら…
20機のアレッツを前に、アユムが言った。
「皆さん…今から言う操作は全て左操縦桿の物です…シフトボタンを押して、メインモニターに出たカーソルを、スティックで左上の黒い点みたいな物に合わせて…大体でいいですから…合わせたら中指トリガーを押して…局所ズームのウィンドウが出ます。中指がズームイン、薬指がズームアウト…見やすい大きさにしてみて下さい…」
皆が言われるままに黒い点をズームインして見ると…明らかに人工物が、空に浮いていた。
「これが、皆さんに実機訓練を急がせた理由です…アレッツに付属している偵察用ドローンです。恐らく『ジョシュア王国』自警団が放った…」
「うっ…」「それって…」
団員たちからうめき声が上がる。
「ええ…僕らは見られています。与しやすしと判断したら即座に攻めてくるでしょう。だから、彼らに僕らは武装し、訓練している事を見せつけ、僕らと戦うのは不利益だと思わせねばなりません…」
団員達の雰囲気が、一層引き締まった様な感じがした。本当はあいつらの他、謎の観客もどこかから見ているのだろう。
「今から皆さんには、新兵組と、ベテラン組に分かれていただきます。新兵組はカオリさんの下でアレッツの基本操作の習得を、ベテラン組には僕の下でマテリアル稼ぎと機体のビルドを…新兵組でも飲み込みの早い人は即座にベテラン組に合流していただきます…」
※ ※ ※
ここで時は再び昨夜に遡る。
レオへのテレビ会議が終わった後、アユムは軽井沢のエイジにテレビ会議を申し込んだ。
『…そうか…隣県が攻めてきて、宇都宮も国を作ったか…おまけに「ウォッチャー」なる謎の存在…あの動画の裏側にそんな事が…』
「ええ…ごめんなさい、最上さん政府の人なのに、こんな話聞かせて…」
『いや…いいんだ…』
スマートフォン画面の向こうのエイジも、何か言いづらそうだった。
「明日から僕はこの国の自警団の臨時軍事顧問です…みんなをちゃんと戦える様に教えないと…まあ、首都圏へ行くのも告白相手捜しも、だいぶ遅れるでしょうけどね…
冬が近づくまでに問題が解決しなければ、宇都宮で越冬、いや、仙台の友人に車椅子を作って届けたいから、一旦仙台に引き返さなければならないでしょうね…」
『…アユム君、その話だが…』
不意に、画面の中のエイジが言った。
『…私達が、手助け出来るかもしれない。3日だけ、持ちこたえられないか!?』




