16ー1 ジョシュア王国
真紅の女性型アレッツ率いる謎の軍団が現れた時、実はアユムは何が起きたのかを正確に理解していなかった。
2つの村に分かれて争っていた宇都宮近辺の自警団達のヤラセを暴き、突如現れた『ホワイトドワーフ』を撃退し、これまた突然現れた『六本腕の天使』に一方の村長を殺され、切り札の必殺技『インビジブル・コラージ』をあと一歩の所で防がれ、そこに、彼女等が現れたのだ。
『ジョシュア王国』やら『親征』やらという聞き慣れない言葉の意味をその場では理解出来ず、ただ、『援軍が来て助かった』、と、思っただけだった。だからアユムは、その真紅のアレッツに、
「助けていただき、ありがとうございます。」と言い、そして、
「それにしても…そのアレッツ、すごいですね!!」と、脳天気な反応をしたのだ。そこからアユムは饒舌にまくし立てるかの様に、
「女性型ですか〜〜〜!!いや〜レシピは公開されてたけど本当に作る人がいるなんて…肩幅が狭い分、前に膨らませてコンバータを搭載するスペースを確保してるんですね!?」
言いながらアユム機は真紅のアレッツの肩や胸を触る。
「ジェネレータは…膝下の細さを考えると、太腿に搭載されてるのかな…」
アユム機はしゃがみこんで真紅のアレッツの太腿を触る。その間真紅のアレッツは黙って直立不動の姿勢を取っていた。
「ちょっと、アユム…」「アユム…お兄ちゃん!?」
通信機越しのカオリからは軽蔑する様な、ハジメからは少し驚いたような声がして、ようやくアユムは気づく。自分は例えロボットとは言え、女性の形をした物の胸や太腿を弄ってた事に!!
「す…すみません!!」
慌てて立ち上がったアユム機は深々とお辞儀をするが、顔を上げた瞬間、大きく上に上げられた女性型アレッツの右腕が振り下ろされる。
バッチーーーーーン!!
※ ※ ※
自機を降りて、ブリスターバッグに収納するアユム。バッグの中でフィギュア大になったアユム機は、今日1日の度重なる戦闘で満身創痍となり、修理が必要だった。頭部左頬に出来た掌型の凹みは、ついさっき付いたものだ。
「君は女性に対してあんな事をしていいと、ママに教わったのかな!?」
そう言いながら、真紅の女性型アレッツから降りてきたのは、やはり女性だった。カオリやシノブよりも年上そうな、でも死んだ母親より若そうな美女。ただし厳つい、怖そうな感じの女性だ…
「アユム…」「アユムお兄ちゃん…」
向こうからカオリとハジメがやって来た。目の前の女性の仲間と思しき男に、背中に拳銃を突き付けられてる…
「な…何をするんですか、あなた達は…!!」
アユムの叫びは女性が突き付けた拳銃で止められる。
「改めて、私は『ジョシュア王国』自警団団長の、舞鶴アカネだ。一緒に来てもらおう、『スーパーノヴァ』、渡会アユム君。」
※ ※ ※
アユムとカオリとハジメが、怖そうな女性…アカネに拳銃を突きつけられるままに連れて来られたのは、旧宇都宮市街地南西部。いつの間にか大量のテントが張られ、周りを柵で囲まれていた。
「約束だぞ…村の者たちには危害を加えないでくれ…!!」
向こうから拳銃を突き付けられた神経質そうな痩せた男がやって来た。空中投影越しに顔を見た、『パレス村』村長の宮部氏だ。
アユム達4人は一際立派なテントに連れて来られ、中に据えられた大きなテーブルに座るように促される。待つことしばし、入って来たのは高級そうなスーツに身を包んだ、偉そうな男。
「起立!!」アカネの号令が飛び、アユム達もおもわず席を立ち上がる。
「注目!!」注目!?何に…!?今、入って来た人に!?
「礼!!」アユム達は頭を下げる。
「着席!!」アカネの号令で席に着く。注目…注目って一体…!?
「私は『ジョシュア王国』国王、北条ヒデヨシである!!」偉そうな男は偉そうに言う。ついでに偉そうな名前である。
「『ジョシュア王国』は、旧群馬県前橋、高崎及びその周辺を領有する国家である。SWD後の混乱の後に出来たいくつもの村が集まって出来たのだ。」
何でジョシュア王国なんだろう…ジョシュア…ジョーシューア!?
「我が国の国土は、北は新潟、南は埼玉や東京、西は長野、東は栃木と、様々な土地と接している。そこで私は、この地の利を利用し、北関東に覇を唱えるべく、その第一歩として、赤城山を南に迂回して、はるばる宇都宮に侵攻したのだ。」
それから北条王は宮部村長にニヤリと笑って、
「我が国に、臣従したまえ。」




