表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/263

15ー11 親征

宇都宮の人達にとって、今日は、SWD以来の厄日だった。


東西2つに分かれて戦争していた村に、姿を消せる『ホワイトドワーフ』が現れ、『生きたおもちゃ』が現れ、元担任だった宇田川村長は殺された。村を守ってくれるはずの自警団は、実は模擬弾を使ったヤラセの戦争をしていただけで、これらの危機に何も出来なかった。


アユムも正直、グチャグチャに混乱してる…でも、


あいつを放っておけば、またどこかで、殺戮と破壊を撒き散らす。


だから…


「お前を、ここで止める!!」


     ※     ※     ※


2機が戦闘を開始してからしばらく後…


ヒュン!!「ぐぁっ!!」 アユム機は、またもや被弾した。


濃紺色の『ノー・クラウド・クレセント』の周りに、何本もの腕型の『サテライト』がまとわりついて、あるいは左から斬りつけ、あるいは後ろから撃っている。


元々『六本腕の天使』には、肩の可動範囲が狭いという構造上の欠点があった。肩アーマーのせいで一定より上に向けられない事に加えて、3対の腕どうしが互いに干渉しあうのだ。前回の三つ巴の戦いの際、ケーブルだけを残して千切れかけた腕が、偶然アユム機の後ろから光弾を撃つ事が出来た時、『生きたおもちゃ』はひらいめいたのだ。


腕が干渉し合うなら、切ってしまえばいい、と…


本体から分離させた腕それぞれに、超小型反重力航行装置を搭載し、遠隔操作で自由自在に操れる様にした。その副次効果で、本体にも反重力航行装置を載せた事で『天使』自体も飛べるようになった。


『生きたおもちゃ』は思った。これはただの復讐の道具。そのはずなのに…


俺はどうして、ここまで強化したのだろう…


目の前の濃紺色の、左右のカメラアイの色が違う、三日月の前立てを着けたアレッツ…


見てるだけでもイライラする…



「何で、お前はぁっ!!」



20機近い『サテライト』が、アユム機を取り囲み、


「死ねぇぇぇぇぇっ!!」


その時、


タタタタタ…!!


パーティクルキャノンの散弾が横から降り注ぎ、大量の『サテライト』のいくつかが爆散して落ちる。



そこに立ってたのは、アンブレラウェポンを構えた、『ユニヴァース村』自警団の副長機。

「へぇ…まだ腕はなまっちゃいないみたいだねぇ…」

聞こえてきたのはあの昼行灯の副長の声。アユムが置いていったアンブレラウェポンを持ってここまで駆けつけたのだ。


そしてもう1機…


「わぁぁぁぁぁ!!アユムお兄ちゃーーーーーん!!」


シアンの機体が危なっかしい手付きでアンブレラウェポンを乱射する。聞こえてきたのはハジメと、


「ちょ…あ、あんた落ち着いて…!!」


カオリの声。乗り捨てられた自警団アレッツにハジメが乗ってアユムを助けに行こうとしたので、カオリはあわててコクピットを複座にして、後ろに乗り込んだのだ。ここまで歩いて来る間に、基本操作法を何となく覚えたらしい。


「副長さんに…ハジメ君と、カオリさん!?」

思わぬ援軍に驚くアユム。


「へぇ…いつも聞こえてくるあの女の声…今日はあっちに乗ってんだぁ…」

妙なことに感心する『生きたおもちゃ』。


しかし…


カッ…! カッ……!!「ありゃ!?弾切れ!?」

副長のアレッツのコクピットのコンソールには、"Charging… Please Wait"の文字。

(いくら模擬弾だからってコンバータをダウングレードさせるんじゃなかった!!)

向こうのハジメという子供の機体も弾切れらしい。だが…『六本腕の天使』には大きな隙ができた。


(今だ!!)


「インビジブル・コラージ!!」


アユム機は、消えた。


「へぇ…今日は俺に使ってくれるんだねぇ…」


そう言いながら残った『サテライト』を四方に展開させる。


「!?」

副長は消えたアユム機を探すが、


「撃たないで!!お兄ちゃんに当たるから!!」

ハジメに制されてアンブレラウェポンを下げる。


「どこだ…!?」

『サテライト』が索敵するかのようにあちこち向きを変えるが、


周囲を浮遊する『サテライト』の1機が、不意にクルクルと向きを変えながら光弾を乱射し、他の『サテライト』を全て落としてしまう。


「「「!!!」」」


その場にいた全ての者が凍りつく中、挙動不審の『サテライト』は最後に、『六本腕の天使』本体に光弾を撃ち込み…


しかしそれは、『六本腕の天使』の左手で弾かれ、


右手先から伸ばしたパーティクルブレードで、『サテライト』を斬撃!!


パ ァ ン!! 斬られた『サテライト』は弾け飛び、不意にアユム機が現れ、左手のシールドで『天使』の斬撃を受け止めていた。


「はぁ…はぁ…はぁ………」

コクピットの中で大息つくアユム。


「はぁ…はぁ…はぁ………」

同じく光る空間の中で大息つく『生きたおもちゃ』。


「アユムお兄ちゃん…」「あいつ…また無茶な事を…」

シアンの機体の中のハジメとカオリも気が気ではない。


しかし…『生きたおもちゃ』はまたもやニタァと笑い、

「なーんて、な!」

肩アーマーからいくつもの『サテライト』を展開させる!


「くそっ!!一体何機持ってるんだ!?」

コンソールを見ると…ジェネレータ出力も、コンバータ変換量もエンプティ…『インビジブル・コラージ』の影響だ…


今度こそ、万事休す…


そこへ…


タタタタタ…!!タタタ…タタタタタタ!!!


はるか南…正確には南西の方から、大量のパーティクルキャノンの銃撃が、『六本腕の天使』に浴びせられる。

「ぐぁぁ…!!」あちこち被弾する『六本腕の天使』。

売ってきた方を見ると、そこには軽く30は越える朱色のアレッツが並んで、パーティクルキャノンを斉射していた。


「総員、斉射ーーーっ!!」

中央の特に目立つアレッツの号令で、朱色の部隊は統率の取れた動きを見せた。指揮官と思しき目立つ機体は、真紅のセミ丸型(スフィア)のSSR、ただし胸部は前に大きく張り出し、肩や腕は細く、腰は左右に広く張り出している上、太ももが太く膝下が細い。まるで女性の体型だ。足首に至ってはハイヒールの様になっている。そして、先程の号令は張りの良い女の声…あれに乗っているのは、女性パイロットらしい。


「うぜぇ…邪魔すんなよぉ!!」

『生きたおもちゃ』は標的をアユム機から突如現れた謎の軍団に変え、全ての『サテライト』を赤い部隊に向けて飛ばすが…


真紅の女性型アレッツは、右手の武器…パーティクルブレードだろうか…を構えて突進!!『サテライト』も標的を女性型アレッツに変える。


「ハァっ!!」真紅のアレッツは右手を振るうと、ブレードの剣身がワイヤーで繋がれたいくつもの短い刃に分かれ、右手に引っ張られるままに鞭のように変則的にしなり、


「フンっ!!」パイロットの裂帛とともに、一撃で全ての『サテライト』が斬り落とされる。


「すごい…『サテライト』をあんな簡単に…!!」アユムは思った。あの人…強い!!


「ふ…フン!! 本来のターゲットに報いを与えてやれたから目標は達成だ!!」

『六本腕の天使』と『生きたおもちゃ』は負け惜しみと捨て台詞を残して、上空へと消えていった。


「助かった………のか!?」

アユムは呆けたが、


「…俺はそこまで楽観的じゃないのよね…」

副長が言った。


赤い部隊の1機が、大きな旗を掲げる。右前足を上げた馬のエンブレムが描かれた旗だ。明らかに1枚も2枚もアユム達より上手(うわて)な真紅の女性型アレッツから、再び声が上がる。


「我々は旧群馬県前橋市、現『ジョシュア王国』自警団、私は自警団団長の舞鶴アカネである!!

これは、『ジョシュア王国』国王の親征である!!」


王国…!?あそこ今、国が出来てるの!?しかも親征…!?王様直々に軍を動かして侵略戦争をしかけたって事!?すると今度は、偉そうな男性の声がした。


「あー、私は『ジョシュア王国』国王である。旧宇都宮市の民よ、我が国に臣従したまえ。」


今日は宇都宮にとってSWD以来の厄日。だが、厄災には続きがあった。


………隣県が、攻めて来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ