15ー10 『生きたおもちゃ』の卒業式
『生きたおもちゃ』の担任だったという事から、東北の日本海側に住んでたはずの宇田川氏は、恐らくいじめの問題で教師を辞めさせられ、流れ着いた宇都宮でSWDに被災し、いかなる因果か復興村の村長になり…
風の噂にいじめで引きこもった元教え子が、ロボットに乗ってクラスメート達を殺して回っていると聞き、いつか自分の元にやって来る事を激しく危惧した宇田川村長は、自身を守ってくれる戦力を欲し、村の自警団を強化した…
宇都宮の2つの村の『戦争』がいつまでも終わらなかったのには、敵の存在と不安を煽った自警団の他、宇田川村長の意図も関与してたのだろう。まぁ、頼みの綱の自警団が持ってた武器が模擬弾じゃ話にならないが…
「宇田川先生、俺はあんたのおかげで、こんなに立派になりましたよ。あんたのクソの役にもたたない根性論と忍耐論で、俺のいじめを黙認してくれたおかげで、ね…今日俺は先生から卒業します。だから先生も、この世から卒業してくださぁい!」
『し…しょうがなかっただろう!?生徒はお前一人だけじゃあないんだ!!お前みたいな面倒くさい生徒一人にばっか、関わってられるか!!』
※ ※ ※
「ひどい…こんな人が私達の村長だったなんて…」
『ユニヴァース村』の池田さんが、スマートフォンの中の宇田川村長の暴言に失望していた。
「…元教師だって言ってたし、統率力もあるから信頼してたのに…」
同じスマートフォンを覗き込んでた池田さんのご主人が落胆の声を上げた。
※ ※ ※
(宇田川村長はSWDチルドレンのハジメを切り捨てたのと同じ論法で、『生きたおもちゃ』を見捨てたのか…)
アユムが今いるのは、旧宇都宮市街地の東南側。『六本腕の天使』がいるのは北西側、そこから『ユニヴァース村』がある北東側へ移動している。急がなきゃ…!!周りにいる自警団は…戦力にならない。アユムはずっと未使用だった二振りの『アンブレラ・ウェポン』を地面に置くと、
「それ使って援護して下さい!!でなければ…逃げて下さい!!」
そう言い残して、アユム機は北へと飛んでいく。後に残されたのは、ミッドナイトブルーとシアンの自警団機達、そして、カオリとハジメ…
ヒュン!!不意にミッドナイトブルーの団長機が立膝をつくと、コクピットからヒゲの団長が出てきた。
「だ…団長…!?」
昼行灯の副長がその行動を訝しんだが、団長は、
「あの小僧の言った通りだ。もう戦争ごっこはやめだ!!てめぇらも命が惜しかったら、そのハリボテを降りた方がいいぜ。」
そう言って団長は去っていく。
「ちょっと、あんたそれでも…」
副長は抗議したが、濃淡2色の青いアレッツ達は、互いに顔を見合わせた後、その半分近くが団長に倣い、機体を捨てて去っていった。
「あああ…あんた達ねぇ…」
副長は無人の虚人達と、地面に置かれた2振りのアンブレラウェポンを交互に見比べた…
※ ※ ※
アユム機のコクピット内…
レーダーウィンドウの中で、左上の『六本腕の天使』は、右上の『ユニヴァース村』に徐々に近づいている。
「いじめの庭よりはや幾年、この年月、忘れた事など無かったですよぉ!!」
「さっきから何危ない事言ってんだお前!!」
アユム機は南から『六本腕の天使』に近づいている。村に接触されたら村長は殺されてしまう。その前に…!!
「うぉぉぉぉ!!」タタタタタ…!!
北上したアユム機は何とか『六本腕の天使』を射程内に収め、右手のアンブレラ・ウェポン(ガトリング)を照射!!しかし、周囲に浮かぶ4本の『サテライト』が、『天使』本体の周りを正四面体に並び、弾は防がれてしまった。
(結界…バリアか!?)
「やっぱり邪魔するんだねぇ、渡会アユム!!俺はお前のそんな所が大っ嫌いなんだよぉ!!この、偽善者の変節漢がぁ!!」
4つの『サテライト』が乱れ飛び、アユム機に光弾を浴びせ、アユム機はそれらをあるいは避け、あるいは盾で防ぐ。
(やっぱり…あの『サテライト』は本体の『天使』の周りから離れようとしない。遠隔操作に射程があるんだ…)
アユム機は『天使』と『サテライト』を攻撃しながら、徐々に南へ下がる。村から離して…村に危害が及ばぬ様に…
そうこうしている内に、アンブレラウェポン(ガトリング)の弾が『サテライト』の1機を破壊する!
「ぐっ…!!」
段々目が動きに慣れてきた。次いで1機、もう1機…!!いいぞ…これでもう村長には…
「これでもう宇田川先生には届かない、とでも思ったかぁ!?」
『生きたおもちゃ』が不敵に言った。よく見ると、『六本腕の天使』の左後方に、あらぬ方向を向いた『サテライト』が浮かんでいる。4機だけじゃなかったのか…!?『サテライト』が向く先にはもう1機の『サテライト』。そのまた先にはもう1機…一体何機あるんだ…!?そのまた先にも、また先にも…
「まさか…あの『サテライト』は、遠隔操作の中継機でもあるのか…!?」
「ご明察だよ、渡会アユム!!」
北東へ伸びていく『サテライト』が中継して、たどりついた先は『ユニヴァース村』の、村長官邸…
一番先の『サテライト』は、村長室の窓ガラスを破り、先端を室内…デスクに腰掛ける宇田川村長に向けていた。
「助け………」
『生きたおもちゃ』はニタァと笑い、
「今こそ別れめ、いざさらば!!」
『サテライト』の砲撃で、宇田川先生は消し飛んだ。
「村長ぉぉぉぉぉ!!」「嫌ぁぁぁぁぁ!!!」
直前の動画配信でとんでもない暴言を吐いたとはいえ、これまで自分達を引っ張ってくれた指導者の喪失に『ユニヴァース村』から悲鳴が上がる。
「お、お前…また!!」
またしてもアユムは、『生きたおもちゃ』の暴挙を止めることが出来なかった。
「安心しな、渡会アユム。著作権消滅確認済みだ。」
「そういう問題じゃないだろう!!」
「さぁて、邪魔してくれた渡会アユムにも、お仕置きしなくちゃね…」
『六本腕の天使』の周りに、『ユニヴァース村』へ伸びていた『サテライト』が戻ってきた。10…いや、軽く20は越えている。
「『六本腕の天使』の腕が6本だけだなんて、誰が言ったぁ!?」




