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15-8 ハリボテの戦争

キ ィ ィ ィ ィ ィ!!


『パレス村』の方から一筋の濃紺色の流星が飛んで来て、ミッドナイトブルーとシアンのアレッツがにらみ合う只中に立ちはだかった。言うまでもなくアユム機…『ノー・クラウド・クレセント』だ。


「『スーパーノバ(・・)』!?てめぇら!!やっぱりこいつを引き込んでたか!?」

『ユニヴァース村』自警団の団長が凄んだ。


「俺たちは知らねぇ!!さては手前らグルだな!?俺たちを貶めるつもりか…!?」


「…僕はどっちの味方でもありませんよ…」

言いながらアユム機は、右手にガトリング、左手にスナイパーのアンブレラ・ウェポンを握り、


タァァァァン!!「ぐぉっ!?」タタタタタ…「ぐぁっ!?」


『ユニヴァース村』と『パレス村』の自警団機を1機ずつ撃ち抜いてみせる。もちろんコクピットや膝下は外してある。


「て…てめぇ…」「何しやがる!!」双方の団長機は凄んでみせたが、アユムは氷の様に冷え切った口調で、


「…僕は撃ちましたよ。さあ、あなた達の番です。さっさと撃って下さいよ…その、模擬弾を!!」


『も…』『模擬弾!?』


空中投影された宇田川村長と宮部村長が驚きの声を上げ、


「「「模擬弾!?」」」


この中継を見ていた全ての『ユニヴァース村』『パレス村』村民達が、同じ声を上げた。


「アユム…それ、どういう事!?」通信機からカオリの声がした。


「どうもこうも…双方の自警団が『戦闘』で撃ってたのは、どっちも訓練用の模擬弾だったんです。まともなアレッツ乗りなら、一目見て分かる事です。」


『模擬弾だと!?』『だ…だが、村の建物に損害が…!!』


「木造建築くらいは壊せますし、人に当たったら死ぬでしょうね。でも、コンクリートやアスファルトに穴を開けれませんし、アレッツにも傷一つ着けられません。」


ハジメは思い当たる節があった。初めてアユムと出会った時、自警団が撃った弾からアレッツで身を挺して防いでくれたが、アユム機には傷一つ着かなかった。


『だが、一体…』『何で、こんな事を…!?』

村長達の疑問に、アユムは推測ですが、と断った上で、


「野盗が自警団になって、周辺の野盗を倒して、2つの村の間で戦争が起きて…最初の頃は、お互い実弾で戦ってたんだと思いますよ。でも…いつからか気づいてしまったんでしょうね。

『自分達はあいつら(敵軍)がいるから村にいられる。労働もしなくて済むし、食料面でも優遇してもらえる。』

『もしあいつらを倒して、この戦争が終わったら、自分達はどうなるんだろう。』って…」


SWDが発生する前、アユムがロボットアニメに夢中になってた頃も、世界のどこかで戦争…軍事大国に対するテロ戦争は起き、その度に軍事大国によって鎮圧されていた。それを見る度にアユムは思った。ロボットアニメはご都合主義でどれだけ敵を倒しても次から次へと敵になる存在が現れる。でも現実は…もし、あの軍事大国が世界から完全に敵対勢力を根絶してしまったら…あの国を軍事大国たらしめている大勢の軍人達と、多くの軍需産業企業はどうなるんだろう、と…


「『間違いなく用済みになる。』

『自警団も解散だろう。』

『そうでなくても、これまで通りの優遇は受けられなくなる。』

『だったら…いつまでもダラダラと戦争を長引かせよう。』

『そして…あいつら(敵軍)もこの事に気づいてるはずだ。』

『だったら…見せかけの戦争に実弾を使って、死んだり怪我したりするのは馬鹿らしい。』」


アユムの言葉は謎の配信者(ウォッチャー)によって双方の村人にも届けられており、これを聞いた旧宇都宮市街地とその周辺の2つの村は、静寂に包まれた。


「ひどい…ボクはそんな下らない事で、何度も死にそうな目にあわされたの!?」

ハジメが叫んだ。


「アユム、あんたいつから…!?」

「正直、初めて見た時は意図を汲みかねました。模擬弾で何故戦争をって。いくつか立てた仮説の一つでしたが、『パレス村』に渡って、こっちの村にも被害が出てるのを見て確信しました。優勢も劣勢も無い完全な互角、間違いない、これはヤラセだって…」


であればアユムが『ユニヴァース村』自警団にスカウトされかけた時、団長が拒んだのも、ついさっきまでお互い相手がアユムを味方に引き込んだと思って睨みあっていたのも、意味が違ってくる。そりゃ『ごっこ』の戦争に、本物の拳銃持った奴を入れる訳には行かないだろう。


『団長…どういう事かね!?』『説明したまえ…』

宇田川村長と宮部村長が、画像越しに団長機を睨んだ。これまで自分達を守ってくれるのだからと、かなりの横暴を見過ごしてきた元野盗の親玉を…


「わ…我々は、人道的な戦争をしてたんだ!!人の死なない人道的な戦争を!!」「そうだ!!パーティクルキャノンの流れ弾が村に当たったら大きな被害が出るだろう!?」


「だったらそれを最初から村の人に説明すべきでしたねぇ。『我々がしてるのはアレッツを使ったサバゲーだ』って。それに、お互いの村の建物を破壊してるのは説明がつきませんよ。敵の存在と、自分達の有用性をアピールするために、定期的に相手が自分の村の近くまで侵攻する状況を作ったんじゃないんですか!?」


「お、お前は俺達に、実弾で戦争して死ねと言うのか!?」

「俺達は、1年前まで一般人だったんだぞ!!」

最早自警団…職業軍人の台詞では無い気がする。


「あなた達のサバゲーで壊した村の建物には人が住んでたんですよね!?その人達はどうなったんですか!?それでもなお、自分達は人道的だの、死にたくないだのと言えますか!?」


双方の自警団団長は、何も言い返せなかった。例えあの紺色アレッツの小生意気な小僧にどれだけ凄んでみても、自分達のアレッツが握っている銃から出るのは模擬弾だけなのだ…


「言ったでしょう、宇田川村長!?『あなた達に戦う理由なんて無い』って。この『戦争』自体、2組の自警団が必要以上に村どうしの対立を煽った結果の可能性があります。あなたは宮部村長とちゃんと話し合うべきです。まぁとりあえずは、駅に設置されているバリケードは撤去して、お互いに自由に行き来出来る様にした方がいいでしょうね。」


この事をバラして村に居場所の無くなった自警団がまた野盗に逆戻りするよりはと黙っている事も考えたが、ハジメや双方の村の人が迷惑しているのを、アユムは傍観者になって見過ごす訳にはいかなかった。


     ※     ※     ※


同時刻、旧栃木県某所山中…


「それにしてモ…」

網木ソラは木漏れ日の中から天を仰いで思った。

「アノ宇宙船、『見回り』ノ周回ルートみたいだったノニ…結局、何も出なかったワネ…」

どうしてカシラ…

「ま、いいワ。こっちの作業を続けマショウ。」


そう言ってソラは、野草やキノコを採集していった。片手にはメモ用紙。郡山を発つ際、風に吹かれて飛んで来た『おかみさんメモ』だ…


     ※     ※     ※


再び旧宇都宮市街地廃墟…


『とりあえず…武装解除して村へ戻ってきたまえ。アレッツは…そこの『スーパーノヴァ』君に預けて、な。』

『君達の処分は、追って決めよう。重大な背任行為だ。君等がタダ飯食ってる間、村人はみんな土にまみれてたんだ。』


双方の村長にそう言われて、がっくりとうなだれる自警団機たち。これまで村人達に働いてきた非道の報いをこれから受けることになるだろう。


一方のアユムも、通信機越しに、

「カオリさん、ハジメ君、ごめん…これだけ大げさな事をしてしまったから、もうこの街にはいられないと思う…」

ハジメに仕事を覚えさせるまでしばらくここで一緒に過ごすという計画がパアになった。

「いいよ、アユムお兄ちゃん。あいつら(自警団)が暴れなくなるなら、廃墟でも暮らしやすくなるだろうし…」

「あんた…そんな事言わないで、どっちかの村に入った方が…」


その時、


一塊の瓦礫がなんの前触れもなしにガチャンと崩れる。ガチャン、ガチャン…崩れる瓦礫は力無く立ちすくむミッドナイトブルーのアレッツへと近づき、そのすぐ隣の空間が不自然に歪むと、


全身が黄色に輝く異様な人型が現れ、


「危ない!!避けて!!」


アユムの忠告は間に合わなかった。黄色い機体は右手に持ったパーティクルブレードを袈裟懸けに振り下ろし、


刃は腹部のコクピットまで切り裂き、パイロットは何が起きたのかも知らずに絶命した。


「わぁぁぁぁっ!!」「な、何だぁぁ!?」

双方の自警団から悲鳴が上がる。突然現れた機体はアレッツに似ているが、腹部はパイプ4本のみで懸架されており、コクピットが無い。


「ホワイトドワーフ…!?」


アユムの声に呼応するかの様に、黄色い機体は再びヌルリと消えた。

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