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15-7 パレス村にて

さて…


高架を越えて宇都宮市街地廃墟の西側…自称『パレス村』に着いたアユムとカオリは、宿や仕事を探すのを後回しにして、村民達に聞き込みをして回った。


「仙台の佐藤さん…!?知ってるよ。」


何人目かの人がそう答え、住所を教えてくれた。


「良かったわねアユム。これでルリさんに会えるわよ。」


「念のため、他にも情報を集めましょう。」


さらに聞き込みをして回ると…


「仙台の佐藤さん!?ああ、あの人かな!?」


…さっきの人とは違う住所を教えてもらった。


「…ルリさんが2人いる!?」

「いや、1人はカオリさんのお母さんかもしれないでしょう。」

「そ…そうね。」


嫌な予感がしてさらに聞き込みすると、「ああ佐藤さん(以下略)」と、また違う住所を教えられた。


「…これは一体どういう事!?」


ものすごく嫌な予感がしながら、教えてもらった住所を順に訪ねてみると、1軒目の佐藤さんは無関係。2軒目は鹿児島の薩摩川内(せんだい)市から来た佐藤さん、3軒目に至っては、昔仙台に旅行した事があるだけだった。


ガッカリとうなだれるアユムを不審に思った3軒目の佐藤さん…太ったおばさんから事情を訊ねられ、告白の返事云々を抜きにして説明し、大宮で『はやて』を降りてここまで戻ってるかも知れないと言うと、


「あのねぇ、私も仙台を旅行した時に調べたんだけど、仙台から宇都宮まで新幹線で1時間で着くけど、直行の『はやて』で大宮まで行くと2時間かかるのよ。」

「そこからさらに宇都宮まで戻ったら…」

「…時間的にものすごい遠回りになるわね。」

「ええ。だから悪いけど、あなたの探してる人が大宮まで行ったなら、ここ(宇都宮)にはいないと思うわ…」


     ※     ※     ※


「…よく考えたら、あの尋ね人の書き込みは『仙台市出身』。でも、ルリさんは仙台出身じゃないし、カオリさんのお母さんも、首都圏に住んでたなら『仙台市出身』と書くのは不自然です。それに、『佐藤』は仙台に多い姓ですし、日本で一番多い姓でもあります。」


「あの書き込みの主が誰か分かんないし、そもそもあたし達と無関係の可能性が高いわね…」


「それにしても…」

アユムは辺りを見渡す。周りじゅう穴だらけにされた小屋ばかり。少し前に『ユニヴァース村』自警団のアレッツがここまで侵入して、『パレス村』自警団と戦闘してこうなったらしい。そしてここでも『パレス村』自警団は村では横柄な態度を取る嫌われ者だったが、皆、「『ユニヴァース村』の連中が攻めてくるから守ってくれる存在は必要だ」とあきらめてた。ともあれ、


「新幹線の高架は越えれたし、ここから埼玉を目指しましょうか。」


「ええ…でも、その前に、1時間だけで結構ですから、自由行動していいですか!?」


     ※     ※     ※


カオリと別れたアユムは廃墟にやって来たが…


(廃墟に住んでると言うだけの情報で、ここに来ればハジメ君に会えるはずが無い…)


…いた。小さなボロの様な人影。伸び放題の長い髪を、後ろでひっ括った、


「ハジメくーーーーん!!」

「! アユムお兄ちゃん!?」

駆け寄るアユムを、目を丸くして見つめるハジメ。


「ど…どうしてここに…!?」

「それよりハジメ君、これを…」

そう言ってアユムは、ブリスターバックから大量の保存食を取り出し、ハジメに押し付ける。

「こ…こんなに貰えないよ。」

さすがに遠慮するハジメに、アユムは、

「これがなくなる前に、『ユニヴァース』でも『パレス』でもいいから、どっちかの村に入れてもらえ。何ならこれを村の人に渡してもいい。そこで、どんな仕事をしてでも生きて行け!!」

「アユム…お兄ちゃん…」


分かっていた。アユムは旅の途中だと言っていた。いつか他所へ旅立たなきゃならない。その時が来たのだ。


「…こんな事だと思ったわ。最近変だと思ったら…」


アユムの背後、廃墟の物陰からカオリが現れた。


「カオリさん…!?尾行(つけ)てたんですか!?」


(こ…この人、アユムお兄ちゃんの、何!?)

ハジメは突然現れた大人の女の人に驚いたが、よく考えたら分かっていた事だった。お兄ちゃんが食べさせてくれたお弁当。あれを作ってくれた人がいたはずだった。


「か…カオリさん、これは…」


何か言い訳しようとするアユムをギロリと一瞥して黙らせると、カオリはハジメを頭のてっぺんから足の爪先までジロジロと見つめ、そして、


「こっちいらっしゃい。」「え…!?」


ハジメの手をぐいと引っ張った。


「…何日かあの『パレス村』で滞在しましょう。アユム、あんたは修理屋の仕事をして。あなたはあたしと食堂で仕事をして。あたし達がいなくなった後もそこで働けるように頼んでみるから。」


「カオリ…さん…」

彼の旅の道連れは、厳しくも優しい女性(ひと)だった。カオリはアユムにずい、と人差し指を差し出すと、


「アユム…これからは何かあったら、あたしにちゃんと相談して!あんたのやり方じゃあ、この子は救えないんだから…」


「カオリさん…すみません…」


目まぐるしく変わる状況に困惑するハジメだったが、ふとあることに気づく。


「ところでアユムお兄ちゃん…どうやってここに来れたの!?」


「ああ…君に監視カメラの抜け道を教えてもらったから、そこを夜中に、アレッツで飛び越えて…」


するとハジメは真っ青になって、

「なんて事したの!?」


「ど…どうしたんだい!?」


「あそこは橋(高架)の下に、ボク1人がやっと通れる隙間があったんだよ!!」


「え…!?そ、それじゃあ…」


ハジメが答えるまでもなく、『パレス村』の方から何機かのシアンのアレッツが、3人の横をホバリングで駆けて行った。その先…新幹線の高架の上には、数機のミッドナイトブルーのアレッツ。


「あ、あれ…」


カオリが指差した先の2つの自警団が、空中に映像を映した。いずれも明るく画像処理された、アユムのアレッツが宵闇に乗じて高架を越えた時の隠し撮り画像。『パレス村』自警団が映してるのは前から、『ユニヴァース村』自警団が映してるのは後ろ姿。


ミッドナイトブルーの団長機(角型(キューブ)SR(スーパーレア))が叫ぶ。

「てめぇら『スーパーノバ(・・)』とツルんでやがったなぁぁぁぁ!!!」


シアンの団長機(丸型(スフィア)SR(スーパーレア))も叫ぶ。


「そりゃこっちの台詞じゃぁぁぁぁ!!!」


どうやら昨夜高架を越えた事は、しっかり隠し撮りされたらしい。そしてあの写真を見て、互いに相手がアユムを味方につけたと思い、一触即発になってしまったらしい。おまけに『ユニヴァース村』団長は、アユムに軽井沢暫定政府のスパイ疑惑をかけていた。結託先が軽井沢から『パレス村』になったところで、アユムへの不審と憎悪は変わらない。


ピーッ!! ピーーーーッ!!


アユムのカオリのスマートフォンがほぼ同時にビープ音を鳴らす。見るとスマートフォンには、ミッドナイトブルーとシアンのアレッツが睨み合う動画が配信されていた。画面の左上には"LIVE"の文字、そして右下には…"by Watcher"


「『ウォッチャー』!?」「あの動画を配信した人が、またあれを流してるの!?」

恐らく『ユニヴァース村』と『パレス村』の住人達も、これを見ている事だろう。


画面の中で、シアンのアレッツがもう一つ画像を空中に投影した。映っていたのは痩せた神経質そうな男。


『「パレス村」村長の宮部だ。「ユニヴァース村」の諸君、君達の再三の侵略及び破壊行為、極めて遺憾に思う。』


どうやらあれが『パレス村』の村長らしい。すると今度は、ミッドナイトブルーのアレッツから画像が空中投影される。映っていたのはアユムが昨日会った顔。


『「ユニヴァース村」村長の宇田川だ。宮部さん、君らが先に手を出したんだろう!?おまけに「スーパーノヴァ」まで横取りして…』


     ※     ※     ※


スマートフォンの画面を覗き込んでいたアユムは、

「とうとうお互いの村長まで参戦して来たか…」

「何言ってるのよアユム、あたし達のせいで大変な事になったのよ!?」

2組の自警団アレッツが睨み合う様子を見つめていたハジメも、

「また廃墟が壊される…ボクはあそこしか行き場が無いのに…」


     ※     ※     ※


「やるか!?今日という今日は徹底的に…」


「村長様がみてらっしゃるんだ。容赦しねぇぞ!!」


双方の自警団団長も激しく互いを煽り合う。その浅ましい姿を画面越しと肉眼で交互に見つめたアユムはギリ、と、奥歯を噛み、


「カオリさんの言う通りです…僕のせいでこんな事になってしまった…もう、決めたはずだったのに…僕は…傍観者にはならないって…!!」


ブリスターバックを取り出しながら、2組のアレッツ部隊が睨み合う戦場へ向かって歩いて行く。


「ちょっと!!アユム!どこ行くのよ!!」

カオリは止めようとしたが、アユムは振り向いて、


「カオリさんはハジメ君をお願いします。見せてあげますよ。この街の真実を…!!」

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