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15ー6 ユニヴァース村自警団

翌日…


修理屋の依頼でアユムが訪れたのは、村の中の小さな建物。1年前までは市役所の支所だった2階建てのビルだが、今はとある用途で使われているらしい。


「初めまして…渡会アユムです…」

アユムがペコリとお辞儀をした相手は、太った中年男性。


…『ユニヴァース村』村長の、宇田川氏。この建物は今では村長官邸だ。


アユムをねちっこい視線で上から下まで値踏みした宇田川村長は、


「ようこそ…『スーパーノヴァ』の渡会アユム君。」

ニタリと笑った。


「!っ…どうして…いや、な、何の事ですか!?」


「動画見たよ。北海道からアレッツで野盗と戦って旅をしている修理屋。すごいねぇ…」


あの動画のせいで、旅の修理屋がスーパー…もとい、ノー・クラウド・クレセントだってバレてしまったらしい。いつかこういう日が来るとは思っていた。


「ほ…本日はどの様なご依頼でしょうか…」嫌な予感がしながら尋ねるアユムに、宇田川村長は、


「君、この村に定住しないか!?」


や…やっぱりぃぃぃぃぃ!!


「この村を、村人達を、憎き『パレス村』の連中から守ってくれないか!?当ての無い旅をするよりはずっといいだろう。私が言うのも何だが、ここはいい村だぞ。」


…東西に分かれて『戦争』してていい村ですか!?アユムが口を開きかけたその瞬間、執務室のドアがガチャリと開く。ノックも無しに入って来たのは自警団のジャケットを着た2人の男。


「村長!!この村には我々自警団がいます!スーパーノバ(・・)だか何だか知りませんが、そんなどこの馬の骨とも知れないガキなんか不要ですよ!!」

ヒゲを生やした大柄な方…自警団の団長が、不機嫌そうに言うと、


「だ…団長…ああっ村長申し訳ございません。来客中だからと止めたんですが…」

もう一人の男…副長がのらりくらりと言った。すると宇田川村長は、


「私達を守ってくれる存在は多い程いい。君達は『パレス村自警団』と称する山賊どもに、長い間手こずってる様じゃないか。外から新しい風を取り入れた方が、君らのためでもあると思うのだがねぇ…」


「…我々だけで十分です。」

「部外者を防衛に使うのは危険かと…」

団長は憮然として、副長は穏やかに拒絶した。団長の声に聞き覚えがあった。廃墟でハジメを助けた時、アレッツから聞こえてきた声だ。こいつらがミッドナイトブルーの機体の主か…


「…あなた達の『戦闘行為』のせいで、子供が巻き込まれそうになったんですよ!?」

アユムが声を荒げると、団長は悪びれもせず、


「あんな所にいるあいつが悪い!!大体、宿無し親無しのガキだろう!?生きようが死のうが知った事ちゃ無い。

いや、放っといたら領民にどんな害為すか分からん。

害虫は駆除しなきゃな!!」


「あなたの目の前にも、宿無し親無しの害虫がいるんですよ!!」

アユムが自分の胸に手を当てて叫ぶ。


「そいつはお可哀そうに…」

「隊長、もうそのくらいに…」


「その子供は『ユニヴァース村』の村民ではないから、彼の行動に何ら問題は無い。」

宇田川村長が言った。アユムは、はぁー…と、ため息を着くと、


「…失礼します。この村には自警団だけで十分ですよ。」

村長室を出て行く。


「待ちたまえ、君…」

宇田川村長は、なおも止めようとしたが、


「…あなた達に戦わなきゃならない理由なんて無いのに…」


そう言い捨ててアユムは村長宅を後にした。後ろで宇田川村長が叫ぶ。


「攻めて来る奴がいるんだ!!しょうがないだろう、こっちも武装しないと!!」


(あんな村長、あんな自警団じゃ、他生の縁が出来てしまったこの村の人達が心配だが…仕事も全部終わったし、潮時だな…)


僕には、行かなきゃならない場所と、帰らなきゃならない場所がある。


廃墟で出会った『弟』のこれからを思うと胸が痛んだ。


     ※     ※     ※


予定よりだいぶ早く宿へ戻ったため、カオリはまだ帰って来ていなかった。アユムはスマートフォンを操作して、軽井沢にいるエイジを呼び出す。事情を説明すると、スマートフォンの中のエイジは、


「東と西、2つに分かれた街、か…私は山中から長野に入ったから、そっちがその様な事になってるとは知らなかった…」


「本当に…何でこんな事になるんでしょうね。SWD後の混乱や、野盗に襲われる日々が終わって、ようやく平穏が訪れたって言うのに、今度は生き残った人達が作った村どうしで争うなんて…」


「…全く…嘆かわしい限りだ…」

アユムの剣幕にエイジもそう言うのが精一杯だった。


「最上さん…かつてあなたが仰ってた通りですよ。今の日本には秩序と安定が、それをもたらせられる誰かが必要です!!」


「…1日も早くそのような日が来る様に、私達も努力するよ。」


「…最上さん!!あなたのいる軽井沢に、臨時政府があるんですよね!?生き残りの大臣さんたちが、そのうちきっと…」


そう言いかけたところで、表の方で何やら物音がする。


「カオリさん…!?」

いや、違う。あれは…


「ん!?どうしたアユム君!?」


「宿を自警団に囲まれて…」


ドン!ドアが蹴破られ、数人の男が入って来る。さっき会った自警団の団長と、その手下だ。アユムは団長の髭面を見据え、

「………そんな事されなくても、僕らはこの村を出て行きますよ。」


団長はポキポキと指を鳴らしながら、

「追い出すつもりで来てみりゃ、てめぇ誰と話してた!?あぁ!?」


「…あなたとは関係無いでしょう!?」


「…昔の大臣が生きてて、暫定政府だと!?」「そいつらのスパイかてめぇ!?」「だったらあちこち旅してるのも説明着くな…」「この村から生きて出す訳にゃ行かねぇ…」


妙な疑惑までかけられ、アユムはじりじりと部屋の隅に追い詰められる。


(こういう時には…)アユムはヒゲの団長をギッと睨んで、カオリのゴッタ煮格闘術の構えを取る。


「「「うっ………!?」」」

自警団と言う名の無法者等が一斉に怯む。以前この手を使った時にはこの後全速力で逃げたのだか…


周りを囲まれ、後ろは壁。どこから逃げれば…!?


妙な構えを取るだけで、一向にかかって来ないアユムを、自警団員達も訝しんだ。


「てめぇ!!妙な事しやがって!!」

「やっぱりただのモヤシか!!」

「半殺しにして廃墟に放り出してやる!!」

一斉に殴りかかる自警団員。

「ひっ………!!」

アユムも思わず悲鳴を上げ、両腕で頭を覆う。


「ぐわあぁぁぁぁ~~~~っ!!」


大きな悲鳴を上げたのは団長の方だった。肩を後ろから物凄い握力で掴まれたのだ。団員達の手も思わず止まる。振り向くとそこには、ここ数日食堂で見かけたきれいなねーちゃんの顔が…次の瞬間、団長の頬に激痛が走り、彼は床にキスする。他の手下もあっと言う間に倒されてしまった。


「カオリ…さん!?」

「…ったく。気をつけなさいよね、アユム!!あと、弱いくせにケンカ売らない!!危なくなったら、あたしを呼ぶ!!」

「…すみま、せん…」


床で寝ている団長は、「てめぇ、いつの間に…!?」


アユムは襲われる直前までエイジとビデオ会議をしていた。『宿を自警団に囲まれた』という最後の言葉を受けて、軽井沢にいたエイジはシノブを通して『ユニヴァース村』の食堂にいたカオリに連絡。カオリが駆けつけて、自警団をしたという訳だ。そこへ…


「すみません遅れてぇ…みんななんでこんな所で寝てるんですか!?」

表にやって来た副長がわざとらしい口調でそう言う。


「…あたし達、村を出ていくけど、いいですよね!?」

カオリが言うと副長は、

「どうぞどうぞ…ところで、団長達の怪我は!?」

「勝手に転んだんです。」

カオリはそう答えた。副長は団長達を一瞥すると、

「なるほどこれは確かに転んだ怪我です。行って下さって結構…」

「おい、副長!!」

床に寝たまま叫ぶ団長を見下す様に、副長は、


「いいんですかぁ!?女子供にやられたなんて知られたら、自警団のメンツとやらは…」


「ぐ………っ!?」


ようやくよろよろと起き上がり、ほうほうの体で逃げていく団長達。副長は深々とお辞儀をして、

「今までありがとうございました。帰りに是非またこの村にお越し下さい。」


カオリはにっこりと微笑んで、

「二度と来ません。」

「あなた達、いつまでこんな事してるつもりですか!?」

アユムも最後に余計な事を言った。


だはははは…と、頭を搔く副長を放っておいて、アユムとカオリは『ユニヴァース村』を出て行った。


その夜、ハジメに教えてもらった『抜け道』をアレッツで飛び越えて、新幹線の高架の西側…『パレス村』に入った。

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