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15-5 廃墟探索の成果

翌日、昼頃、旧宇都宮市市街地廃墟…


「何をしてるんだ、ボクは…!?」


昨日アユムお兄ちゃんと別れた辺りに、ハジメはいた。


『何をしてるんだ』には、『何を期待してるんだ』と言う意味もあった。ボクのこの状況を救ってくれる人なんて、今さらいる訳無いのに…あの人はボクよりお兄ちゃんだけど、大人って程でもない。本当にボクのお兄ちゃん、あるいはお父さんになってくれるとは思えない。


東京への旅の途中だって言ってた。どうせあの人はしばらくしたらどこかへ行ってしまう。その後、ボクはまた、一人ぼっちになってしまう。


ィ ィ ィ ィ ィ…


「なのに何で、ボクはここにいるんだろう…」


ま、実際あの人は来てないし、やっぱり期待しただけ馬鹿だったんだ…


ィ ィ ィ ィ ィ…


「ところでこれ、何の音!?」


ウイイイイィィィ…


近づいて来るスクーターの駆動音。乗っているのはヘルメットをかぶった、


「アユムお兄ちゃん!!」


スクーターはハジメの前で停まり、アユムはヘルメットに手をかけ…脱げない。中でメガネが引っ掛かっていた。メガネを外し、ヘルメットを脱ぎ…一瞬見たアユムの素顔は優しげだった。


「ごめぇん。ちょっと準備してたら遅くなって…どしたの!?」

何か顔、赤くないか!?


「!…な、何でもない!!そ、それでアユムお兄ちゃん、今日は何を…」


「あー、その前に…」アユムは何やら包みを取り出し、「弁当持って来たんだ。一緒に食べない!?」


「い、いいよ…」遠慮するハジメだったが、アユムは強引に、辺りに座るように促し、


「遠慮するなよ。僕はあんまり食べないからさ。」


それが嘘なのはハジメにも分かった。でも、目の前に出された弁当に、空腹には勝てなかった。


「……………っ!!」


一口食べて、何ヶ月ぶりかの調理された食事にハジメの目から涙が溢れた。


「泣く事は無いだろ…ほら、もっと食べろ…」


誰かと一緒の食事も何ヵ月ぶりだろう。


     ※     ※     ※


弁当を食べ終わった後、アユムはハジメと話をしながら、廃墟を回り、ジャンクを漁った。


「…そうか…ハジメ君は1年前、小学生だったのか…」


「うん。小6。今年の春には卒業するはずだったんだ…」


「それじゃあ、今頃は中学生だったんだね…」


「あ、あの、さ、アユムお兄ちゃん…」

ハジメは少し顔を赤らめながら、「ち、中学に入ったら、制服とか着たのかな!?セーラー服とか…」


「着ただろうね…」そりゃ意識するだろうな。ついこの間までランドセル背負ってた同級生の女子が春からいきなりセーラー服着たら…「でもじきに慣れたと思うよ。みんなそうやって!大人になってく物だから…」


「そっかぁ…」訪れたであろう自分の未来を想像して、ハジメの顔が紅潮した。そんなハジメの姿を見て、アユムも、僕は一人っ子だけど、弟がいたらこんな感じなのかなと思った。


     ※     ※     ※


「それじゃあ、自警団達は結構頻繁にこの廃墟で戦闘をしてるんだ!?」


「うん…ボクのねぐらも何度か壊されてる…でもアユムお兄ちゃんのアレッツは強いね。あいつらに撃たれても傷一つ着かなかった…」


「ま、まあな…」

アユムはスマートフォンを取り出し、

「駅もバリケードが作られてて、行き来出来そうに無かったね。あれ作ったのは自警団達なんだね。」

アユムはそこで、何やらスマートフォンで写真を撮っていた。その写真を何枚かスワイプした。


「線路(新幹線の高架)の上も、監視カメラが一杯だよ。」ハジメが言った。確かに、ブリスターバックの望遠機能で見た高架の上は、あちこちに監視カメラがあるようだ。録画機能があるなら、たとえ宵闇に乗じて高架を越えても、翌朝には自警団が大騒ぎするだろう。(どうせ奴らはスターフォビアで、夜中は出られないだろうが…)


アユムのスマートフォンには、バリケードが作られる前に、駅の壁にびっしりと書かれた尋ね人の書き込みの写真が映っていた。


「親戚とか友達どうしとかで、あっちの村とこっちの村に離れ離れになってる人もいるだろうに…本当に迷惑な自警団だな…」


「ボクも何度も巻き込まれそうになったよ。あっちでドンパチ、こっちでドンパチ…」


はは…から笑いするアユムの顔が強ばる。

「ん…!?ハジメ君、高架の向こうへ行けるの!?」


「…今はあっちにねぐらがあるよ。」


「今日もあっちから来た訳か…でもどうやって…」


「ほら、あそこ…」ハジメが高架を指差す。「あそこに抜け道があるんだ。」


「へぇー…」


     ※     ※     ※


やがて日は西に傾き…


ウィィィィィ…宇都宮の廃墟を、ハジメを後ろに乗せて走るアユムのスクーター。「本当は2人乗りはだめなんだけど、内緒だよ。」そう言ってアユムが高架の近くまで送ってくれた。やがてスクーターは『抜け道』の付近で停まる。


「あ、ありがと、アユムお兄ちゃん…」

ハジメの顔は、また赤くなっていた。


「今日はありがとう。これ、お礼。」

そう言ってアユムは、ブリスターバックから段ボール箱に詰めた保存食を取り出し、ハジメに渡す。


「い、いいよこんなに…」


「遠慮しなくていいよ。君には力仕事も手伝ってもらったし…」


「それに、これ…何語!?」

保存食には見た事の無い文字が並んでた。


「僕の旅を後押ししてくれてる恩人から貰った物だよ。」アユムの脳裏にオカマ言葉の心優しき巨人の笑顔が浮かんだ。


「恩…人…!?」


「僕もいろんな人に支えられてここまで来たんだ。だから、誰かから受けた恩を、別の誰かに返しただけ。」


「…やっぱりすごいな。アユムお兄ちゃんは…」

何とかハジメにほ受け取って貰えたみたいだ。


「ありがとう。じゃあね。アユムお兄ちゃん。」


「急いで帰らないと、星が出てくるぞ。」


「ボクは大丈夫だよ。こんな暮らししてるんだ。星空が怖いなんて言ってられないよ。」


「そうか…君も『スターゲイザー』…僕と同じなのか…」


「バイバイ、アユムお兄ちゃん。ボク達は色々と一緒だね!」


去っていくハジメ。アユムもスクーターを走らせて『ユニヴァース村』へと帰った。


     ※     ※     ※


同日、夜、『ユニヴァース村』、アユムとカオリの宿…


「ただいまー!」


「おかえりアユム…弁当はどうだった!?」


「美味しかったです。助かりました。」

アユムはカオリに空の弁当箱を渡す。


「一体どうしたの!?いつもは弁当なんて持たないのに…」


「か、カオリさん!カオリさんのお母さんの旧姓って何です!?」


「え!?さ、『佐藤』だけど…」

いきなり聞かれて記憶にあった母の旧姓をそのまま答えるカオリ。


「カオリさんのお母さんもルリさんと同じ姓なんですね。」


「そ…そう言えばそうね。あの辺佐藤さん多いし、そもそも佐藤は日本一多い姓だし…」


「それでなんですけど…これ見てください。」

アユムはポチポチとスマートフォンを操作して、とある写真を出す。


「これは宇都宮駅の廃墟で撮ったんですが…」


たくさん書かれた尋ね人の書き込みに混じって、『仙台市出身、佐藤、無事』という物があった。


「僕、思ったんですけど、栃木県は埼玉県とギリギリ隣県です。だから、仙台から『はやて』で一旦大宮に出て、そこから在来線の特急でここまで戻ってる可能性もあるって…」


「…その書き込みがルリさんかもしれないって言うの!?」


「カオリさんのお母さんの可能性もありますよ。『東京の方に住んでる』んでしたら、何かの用でここまで来て被災した可能性もあります。」


「そ…そうね…」


「ただ…」そこでアユムは声を潜める。外行く人に聞こえるといけない。「その書き込みに続いて書かれてる地名が、宇都宮市街地の西の方らしいんです。」


「今は『パレス村』とやらが出来てる…」

こっちの村と『戦争』してる村だ。誰かに聞かれて関係者だと思われても面倒だ。


「ええ。ルリさんやカオリさんのお母さんがいるなら、『パレス村』という事になります。だから…


僕達は、この東と西に分かれた街の境界線を越えて、向こう側へ行かなければならない。


大丈夫。どうやら抜け道もあるみたいなんです…」

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