15ー4 傍観者
同日、夜、アユムとカオリの宿…
アユムが帰ってくると、既に戻っていたカオリが料理をしていた。
「おかえり…雨降ったり自警団が出て行ったりしたけど、大丈夫だった!?」
「え…あ、うん。大丈夫だった。」
その他にも廃墟で奇妙な邂逅があったが…
二人向かい合って食事をとる。ハジメ君は今、何を食べてるんだろうか…
「…あたしも食堂のおばさん達に話、聞いたんだけど…この村、大変な事になってるみたいなの…」
「…自警団のアレッツが、誰かと戦ってたね…あの自警団も、元は足を洗った野盗だったって聞いたけど…」
「うん……ここの村も、どうやら他と同じ様な経緯をたどったみたいなの。SWDで街が壊滅状態になって、みんなで郊外…街の廃墟の北東の外れに、村と畑を作って住もうって事になって…」
その『みんな』から外れた少年に、アユムは会ってきた。
「…農作も安定して、野盗に狙われる日々が続いて、その野盗が改心して村の自警団として受け入れて、付近の野盗を追っ払って…でも…それとほぼ同じ流れをたどった村が、街の北西の外れにも出来てたの。」
「それって…」
「最初は村人個人の交流から始まって、段々と、元は同じ街だったんだから、1つにまとまろうって話になったみたいなの。でも…」
「…どっちが、どっちに併合されるかが、問題になったんですね!?」
「そう…あたし達のいる東側の村…『ユニヴァース村』と、西側の村…『パレス村』は…」
「…何ですか、その恥ずかしい名前は…」
「両方の村長さんの苗字から着けたらしいの。『ユニヴァース村』は宇田川村長、『パレス村』は宮部村長…もっとも、あんたが言う通り恥ずかしいから、本人たち以外誰もそう呼んでないみたいなの。」
そう言えば昼間仕事をした池田さんも村の名前を言わなかったな…そして、『宇田川』で『宇宙』だから『ユニヴァース』、『宮部』で『宮殿』だから『パレス』か…
「…話、元に戻すわよ。『ユニヴァース村』と『パレス村』は、と言うより各々の村長さんが、お互いに相手が自分達に吸収されるべきだと言い張って、話は平行線のままらしいの。」
「でしょうね…せっかく自分たちがここまで作り上げた物を、他人に渡したくないでしょうね…段々読めてきましたよ。さらに悪い事に、双方の村は自警団という武力を持ってるから…」
「うん…ついに武力衝突に発展したらしいの。今じゃ東北新幹線の高架が境目になって、時々互いの自警団が境目を越えては散発的な戦闘を行ってるんだって。」
それが昼間見たアレッツどうしの戦闘か…ミッドナイトブルーの角型機体が『ユニヴァース村』自警団、シアンの丸型機体が『パレス村』自警団か…
「…あの自警団は村の中で結構我が物顔で振る舞ってるみたいですね…」
昼間、自警団の誰かが怒鳴り声をあげていた。その相手がハジメである事をアユムは知らない。
「ええ…村の人達からも嫌われてるみたいね。毎日昼間っからブラブラしてて、食料だけは潤沢に支給してもらってる。これじゃ野盗だった頃と同じだって、みんな言ってるわ。パレス村の侵攻があるからああいう人達も必要だってあきらめてるみたいね。」
池田さんも言ってたな。『自警団が自分たちを守ってくれてる』って…
「それに…ここの隣り、見たでしょう!?」
アユムとカオリが今いる宿の隣には、潰されたり、壁に穴が開いたりした小屋がいくつも並んでいた。
「…何日か前に、『パレス村』自警団がここまで攻め入って、こっちの自警団と派手に撃ち合ったらしいのよ。またあんな事があったらって、みんな怯えてたわ…」
村どうし…いや、アレッツどうしの戦闘で、ここの住民にも被害が出ている…!?
「…あの人達に戦う理由なんて無いのに…」
唸るように言うアユムに、カオリは、
「さっきあんたも言ったでしょう!?ここまで自分達で作り上げた物を、他人に渡したくないのよ、どっちも。いずれにせよ、よその村の事情にあたし達が口出しする権限は無いわよ。」
アユムはふぅ…と、ため息をつき、
「ところで…僕たちがひとまず目指す大宮は、ここから南西なんですけど…それにはあの高架を越えなきゃならないんです。」
「宇都宮を南に抜けたどこかで越えるんじゃだめなの!?」
「…それがこの街の南東に、墜落した宇宙船の残骸があるみたいなんですよ…」
「それは…回避したほうがよさそうね。」
カオリの脳裏に平泉で戦った空飛ぶホワイトドワーフとの死闘が思い出された。
「明日、廃墟でジャンクを漁りながら、どこかから高架を越えて向こうへ行けないか、探してみますね。」
幸い僕には、廃墟に詳しい協力者がいる。
「うん…気をつけてね…」
しばらく2人でモソモソと食事を続けていたが、不意にアユムが、
「…『いじめとは、人が4人集まれば成立する。即ち被害者と加害者と扇動者と傍観者である。』」
と言った。
「そう言えばあんた昔そういう事言ってたわね…」
「…僕は今まで、傍観者も加害者と同罪だと思ってました。なんで助けてくれないんだろう、って…でも…あるんですよね…薄情とかそういうのじゃなしに、純粋に非力故に助けられないって事…」
昼間、アユムは廃墟で出会ったSWDチルドレンのハジメと出会って思った。『かわいそうに。でも、この子に僕に出来ることなんか、何も無いな』と…アユムはカオリの助けを得てようやく流しの修理屋として旅をしていられている。いくらあの子がかわいそうだと思っても、助けてあげる事は出来ない。あの子を養ってここに定住することも、あの子をこの先の旅に連れていくことも出来ない。だいたいカオリさんにどう説明するつもりだ!?
「…『生きたおもちゃ』の事…!?確かにあいつは、同じクラスだったってだけで人を殺して回ってるみたいだけど…」
あいつと出会い、あいつの言動に違和感を覚えた事も、アユムがこの様な境地に至った理由なんだろう。
「…そう、ですね…僕は、せめて傍観者は許そうと思います。」
何も出来ない無力さを知った。それに、いたずらに恨みを撒き散らしても不幸と混乱を産むだけだ…
「…いいんじゃない!?」
この子はこれからルリさんに告白の返事をして交際して行くことになる。傍観者も加害者と同じで許せないなんて言ってたら、この子はルリさんを受け入れられなくなる。
「…ごちそうさま。片付け手伝いますよ…」
「うん…ありがと。」
2人の食卓を立ち、流しへ向かうアユムの心中は…
(…僕は傍観者を許そう。でも…
僕は傍観者にはならない。
ハジメ君…誰も助けてくれなかった僕に、何が出来るか分からないけど何かしよう…)
※ ※ ※
時は遡り、同日の午後、アユムが廃墟でアレッツと戦っていた頃、
旧宇都宮市街地の南東の宇宙船の残骸内…
ブリッジ跡と思しき場所に、網木ソラの姿があった。自身のブリスターバッグを周囲の機器に接続し、何やら作業をしている。バッグのモニターには砂の嵐が映り、ノイズ混じりの音声が聞こえた。
『…ウィーブスペントゥーマッチタイムトゥディスカッサバウラクエッションフーザンサーハドーレディビーンクリーアー…』
ザっ…!!音声もここで途切れた。ソラは忌々しそうに爪を噛んだ。
「ここもだめカ…」




